第17話 王都へ
夜が明けきる前、俺たちは倉庫を後にした。
救い出した子どもたちは疲れ切っている。
誰も泣かないが、表情は硬く、互いに身を寄せ合っている。
まだ、安全だとは信じきれていない。
御者ができる年長の子が三人いることが分かり、馬車は三台に分けた。
捕縛している連中が、万が一にも拘束を解いた場合――
子どもたちを同じ馬車に乗せていれば、人質にされる危険がある。
だから、子どもたちは別の馬車へ。
俺の馬車には、犯人だけを乗せる。
進行役には手錠をかけ、縄を胴と足首に回した。
護衛の四人も同様だ。
歩くことはできるが、逃げることはできない。
馬車は静かに走り出した。
王都へ向かう道中、背後で布が擦れる音がした。
進行役が目を覚ましたらしい。
「……なあ」
かすれた声が、俺に向けられる。
「ここで、俺を見逃してくれ」
声は低い。
必死に平静を装っているが、焦りは隠せていない。
「金なら出す……どれだけでもだ」
「ここで終わらせよう。なかったことにできる」
言葉が途切れない。
逃げ道を、必死に探している。
「この国じゃ、それが普通だ」
「……正義なんて、通ると思ってるのか?」
俺は短く返した。
「いらない」
それだけで十分だった。
「王都で、全部話す」
「真実を暴す。それだけだ」
進行役は、口を閉ざした。
城壁が見えてきた。
王都。
濡れ衣を着せられ、追放され、投獄された街。
城門前は早朝でも人の往来がある。
商人、旅人、兵士。
視線が、自然とこちらに集まった。
そこにあったのは、恐れでも侮蔑でもない。
驚き。
ざわめき。
そして、抑えきれない動揺。
――さらわれた子どもを連れて戻ってきた。
そんな理解が、周囲に広がっていく。
俺は馬車を止め、門番に向き直った。
「バルネス男爵暗殺事件に関与した真犯人を拘束している」
「その事件の後に急増した、獣人の子どもたちの誘拐――
その被害者を全員救出した」
「誘拐に関わった、護衛を含む実行犯の身柄を確保している」
「さらに、夜間通行許可証と帳簿――
誘拐と輸送に便宜を図った者を示す書類も所持している」
門番の顔色が、目に見えて変わった。
「……な……」
言葉を探すように、喉が鳴る。
「待て。いや、待ってくれ……」
視線が、俺から馬車へ、そして子どもたちへと何度も行き来する。
「これは……俺の判断でどうこうできる話じゃない」
明らかな動揺を隠しきれず、門番は部下を呼び寄せた。
「すぐ内側へ走れ。騎士団だ。
人身売買と男爵暗殺が同時に絡んでいると伝えろ」
こちらを振り返り、硬い声で続ける。
「ここで待っていてくれ。
勝手に動かれると、こちらも困る」
俺は黙って頷いた。
城門前での待機は、重い時間だった。
子どもたちは不安そうに周囲を見回し、互いの袖を掴んでいる。
まだ、何も終わっていない。
数刻後、騎士団が姿を現した。
二十名ほど。
整った隊列。
その先頭に立つ男が、一歩前に出る。
「騎士団長のセネガルだ。事情を聞く」
落ち着いた、張りのある声だった。
俺は一歩前へ出る。
「俺は霧島時人」
「バルネス男爵暗殺の犯人ではないにもかかわらず、
その容疑を着せられ、投獄された」
言葉を切り、続ける。
「その後、脱獄した」
周囲がわずかにざわめくが、セネガルは制した。
俺は続ける。
「だが、その過程で、
暗殺に直接関わった真犯人を捕らえた」
セネガルの目が鋭くなる。
「獣人擁護派だったバルネス男爵が暗殺されて以降、
獣人の子どもの誘拐が急増した」
「誘拐された子どもたちは、西門を通じて運ばれ、
王都外れの倉庫で管理されていた」
「そして昨夜、
人身売買のオークションが開かれていた」
「俺はその現場を押さえ、
主催者と護衛を制圧し、身柄を確保した」
懐から、夜間通行許可証と帳簿を取り出し、差し出す。
「これらは、
誘拐と輸送に便宜を図った者の存在を示す証拠だ」
セネガルは無言で目を通す。
短い沈黙。
だが、読み終えた瞬間、空気が変わった。
「……確かに、筋が通っている」
小さく頷き、即座に指示を出す。
「拘束者は全員、牢へ移送する」
部下たちが動き出す。
「子どもたちは保護する。
医療班を呼べ。
親探しのおふれを出せ。優先度は最上だ」
指示は簡潔で、迷いがない。
俺は、その様子を見て思った。
――この男は、職務を全うする人間だ。
セネガルは、最後に俺へ向き直る。
「霧島時人」
「今回の件で、あなたへの容疑は大きく揺らいだ」
だが、そこで終わらない。
「ただし、最終判断は王の専権だ」
「王との謁見が必要になる」
胸の奥が、冷たく締まる。
(……あの王か)
それでも、ここまで来た。
「分かった」
俺は頷いた。
セネガルも、静かに頷き返す。
「王城へ案内する」
「あなたの話は、正式に聞かれるべきだ」
城門が、ゆっくりと開く。
俺は、その内側へ足を踏み入れた。
次は、王。
その先に――グリムフォード侯爵邸。
物語は、ここから“裁かれる側”ではなく、
裁きを突きつける側の戦場へと進んでいく。
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