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第16話 競り場、暗転

木槌が振り下ろされる、その直前。


「――今だ」


俺は踏み出した。


天井を仰ぎ、柱に固定された装飾金具に手をかける。

力任せに引き剥がし、迷わず投げた。


次の瞬間、照明が砕ける。


白い閃光。

破裂音。

そして、闇。


悲鳴が上がり、椅子が倒れた。

仮面の客たちは我先に出口へ殺到する。


貴族は逃げる。

メイドも、使用人も、責任から逃げるように消えた。


残ったのは――護衛だけ。


四人。

暗闇の中で、気配だけがはっきりと浮かび上がる。


最初に踏み込んできたのは、一番近い護衛だった。


拳が飛ぶ。

速い。避けきれない。

右頬に強烈な痛みが走る。


〈時戻し〉一秒。


拳が放たれる直前に戻る。

今度は半歩下がり、軌道を外した。


顎を狙って拳を振る。

だが、相手は首を引いてかわす。


〈時戻し〉一秒。


狙いを変える。

低く踏み込み、金的に蹴りを入れた。


男が呻き、前屈みになる。

そのまま脳天へ肘を落とす。


――耐えた。


〈時戻し〉一秒。


床に落ちていた照明の金具を掴み、振り下ろす。

鈍い音。


男が崩れ落ちた。

念のため、頭を踏みつけ、完全に動きを止める。


一人目。


二人目は、背後から組みついてきた。


腕が回り、肋に締め付けが走る。

息が詰まる。


〈時戻し〉一秒。


組みつかれる直前に戻る。

今度は背中に密着される前に、肘を叩き込んだ。


脇腹に入る。

だが、相手は止まらない。


膝蹴りを腹に入れる。

それでも耐える。


〈時戻し〉一秒。


腹ではない。

喉だ。


短く、突くように打つ。

男の呼吸が止まる。


その隙に顎へ拳を叩き込む。

体が傾いたところで、後頭部を床へ。


二人目が動かなくなった。


三人目は距離を保っていた。


不用意に踏み込んでこない。

だが、間合いに入った瞬間、重い拳が飛んできた。


受けきれない。

左肩に衝撃が走り、腕が痺れる。


〈時戻し〉一秒。


踏み込まず、柱の影へ移動する。

拳が柱を叩き、相手の体勢が崩れた。


その瞬間、膝裏を蹴る。

男が落ちる。


首を取りにいく。

――振りほどかれる。


〈時戻し〉一秒。


首は狙わない。

耳へ掌底を叩き込み、平衡感覚を奪う。


男の身体が揺れた。

その瞬間、顎を打ち抜く。


男の目が虚ろになり、そのまま倒れた。


三人目。


最後の一人は、刃を構えて動かなかった。


慎重だ。

こちらが出れば、確実に刺しに来る。


踏み込んだ瞬間、刃が閃く。

避けきれない。

首元に冷たい感触が走る。


〈時戻し〉一秒。


踏み込まない。

逆に、背中を見せる。


追ってきた。

刃が振り下ろされる。


かわす。

肘を入れる。


――かわされた。


〈時戻し〉一秒。


同じ動き。

今度は肘ではなく、打ち下ろす拳。


短く、確実に入れる。

男の体が折れる。


足を払い、背中から床に叩きつける。

息が詰まったところへ跨がり、両腕を押さえ込む。


額に、短い一撃。


男の身体から力が抜けた。


四人目。


会場が、嘘のように静まり返った。


護衛は全員、床に伏している。

動く気配はない。


進行役が、裏口へ走った。


「待て」


無視された。


追う。

途中で何かを投げてくる。


足を取られ、体勢が崩れる。


〈時戻し〉一秒。


今度は、投げられる瞬間を見越して動かない。

物が足元を転がった直後、踏み込む。


距離が詰まる。

肩から、思い切りタックル。


進行役は悲鳴を上げ、床に叩きつけられた。

そのまま押さえ込み、後頭部に一撃。


男は、完全に気絶した。


手錠をかける。

縄を取り出し、胴と足首に回す。


逃げることはできない。

歩けたとしても、連れて行かれるだけだ。


――このまま馬車に乗せ、王城へ向かう。


競り場を見渡す。


夜間通行許可証。

帳簿。

実行犯。

そして、ここに連れてこられた子どもたち。


この男は、自分の口で語っていた。

毒を使ったことも、監視が消えた理由も、罪を外から来た人間に押しつけたことも。


それを、子どもたちは聞いている。


書類と、実行犯と、被害者。

事実を否定できる余地は、もう残っていなかった。


競り台の方を見る。


獣人の子どもたちが、こちらを見ている。

まだ不安は消えていない。

それでも、逃げ場を探す目ではなかった。


俺は、ゆっくりと近づき、声を落とす。


「もう大丈夫だ。

 誰も、君たちを連れていかない」


子どもたちの肩から、少しずつ力が抜けていく。


「今から、君たちが元いた街へ帰ろう。

 ……もう、売られることはない。

 一緒に帰ろう」


それでも、胸の奥に残る不安は消えない。


これだけの証拠があっても、

俺自身の疑いが、王城で晴れるとは限らない。


相手は貴族だ。

真実より、都合が優先される世界だ。


だが、迷っている暇はない。


子どもたちは、街まで送り届けなければならない。

王城へ。

守られるべき場所へ。


――行くしかない。


俺は、ゆっくりと息を吐いた。


王都へ。

裁かれるかもしれない場所へ。


それでも、進む。


覚悟は、もう決まっていた。

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