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第15話 競りの夜

日が落ちる前から、倉庫は動き始めていた。


昼すぎ、まず二台の馬車が到着する。


最初の馬車から降りてきたのは、五人の男だった。

全員、黒を基調とした揃いの服装。

その中で、ひときわ目を引く男が一人いる。


すらりとした長身。

整えられた髭。

余裕を含んだ微笑み。


――進行役だ。


場数を踏んだ人間特有の空気が、自然と滲み出ている。


残りの四人は、明らかに毛色が違った。

筋肉で膨れ上がった体に、無理やりスーツを着込んだような出で立ち。

護衛役なのは、一目で分かる。


続いて、もう一台。


今度は、メイドや使用人のような身なりの女たちが降りてきた。

四人。

手には衣装、櫛、布、小道具。


“商品”を整える係だ。


その光景を、

俺は倉庫の梁の影から、歯を食いしばって見ていた。


(……準備万端、ってわけか)


人を売る準備を、

ここまで手慣れた様子で進めている。


胸の奥で、嫌な音が鳴った。



日が完全に沈む少し前。


倉庫の奥、簡易的に仕切られた控えスペースで、

進行役と護衛の一人が、気の抜けた声で話しているのが聞こえた。


酒の匂い。

気が緩んでいる。


「しかし、楽なもんだよなぁ」


進行役が、鼻で笑う。


「バルネス男爵を毒で殺したのは俺だってのにさ。

 おかげで、めんどくさい監視も全部消えた」


護衛が低く笑った。


「王都も、ずいぶん都合よく回ってくれる」


「だろ?

 その上、大笑いなのが――」


進行役は肩をすくめ、愉快そうに続けた。


「男爵殺害の容疑を、召喚者に押しつけていやがる。

 “外から来た異物”に罪を被せりゃ、全部丸く収まるってわけだ」


胸の奥が、凍りついた。


(……やっぱり、そういうことか)


俺のせいにされた罪。

そして、この競り。


全部が、一本に繋がった。


進行役は、ちらりと地下への扉を見やる。


「まあ、証拠なんて残るわけない。

 ……生きてる“商品”が喋らなけりゃな」


その言葉を聞いた瞬間、

背筋に、はっきりとした怒りが走った。


(――喋らせる)


さらわれた子どもたち。

この場にいる“実行犯”。


証拠も、証言も、全部そろう。


ここから王城へ連れていく。

逃がさない。



夜。


倉庫の周囲に、静かに馬車が集まり始める。


一台。

また一台。


色も形も、まちまち。

装飾のあるものもあれば、地味な箱馬車もある。


だが、共通点は一つ。


乗っているのは、

顔を隠すための仮面を携えた者たち。


――客だ。


倉庫の奥で、灯りが増える。

簡易的に設えられた会場。


中央には、少し高く設えられた競り台。

その周囲を囲むように、テーブルと椅子が並べられている。


客たちは席に着き、

無言のまま進行役の方を見ていた。


空気が、冷たく張り詰めていく。



やがて、合図があった。


地下へ続く扉が、静かに開く。


最初に現れたのは、メイド姿の女。

その手を、誰かが握っている。


次の瞬間――

息が、止まった。


獣人の子どもだ。


綺麗な服に着替えさせられ、

髪も丁寧に整えられている。


だが、

その表情は完全に凍りついていた。


メイドに手を引かれ、

競り台の最前まで連れていかれる。


逃げ場はない。


進行役が、朗々と声を響かせた。


「――本日の最初の品です」


「管理番号〇一三。

 猫人族。

 年齢、十二。

 基礎体力良好。

 簡単な作業への適性あり」


名前は、呼ばれない。


代わりに、

“使い道”だけが読み上げられる。



開始価格が告げられた。


張り詰めた沈黙。


そして――

一人の客が、静かに手を上げる。


「――入札あり」


進行役が、即座に反応する。


間髪入れず、別の席から手が上がった。


「上乗せだ」


数字が、淡々と読み上げられる。


さらに、別の声。


金額が上がるたび、

子どもの肩が、わずかに震えた。


顔は伏せたまま。

視線を上げることもできない。


ただ、

繋がれた手だけが、強く握りしめられている。


進行役が、楽しげに笑った。


「いい競りです。

 では――」


その瞬間。


メイド役の女が、

子どもの肩に、そっと手を添えた。


合図だ。


落札が決まれば、すぐに連れていかれる。


客席の一角で、

一人の人物が、ゆっくりと立ち上がる。


護衛が動く。

メイドが、子どもの手を取る。


競り台の脇へ――

“所有者”の元へ、連れていく流れ。


胸が、強く締め付けられた。


(……迷っている時間は、ない)


ここで躊躇すれば、

あの子は“商品”として引き渡される。


次は、もう戻れない。


逃げ道も、言い訳もない。


――やるしかない。


今だ。


俺は、深く息を吸い込んだ。


この狂った夜を、

この競り台ごと――


止めるために。

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