第14話 番号の付いた命
俺は、木箱の陰からゆっくりと身を出した。
足音を殺し、倉庫の中へ踏み込む。
軋む床板の音が、やけに大きく感じられた。
奥には、地下へ続く階段。
冷えた空気が、下から這い上がってくる。
壁に掛けられたランタンが、かろうじて照らす先――
そこにあったのは、鉄格子だった。
牢屋だ。
中には、人影。
小さな背中が、隅で丸くなっている。
俺は、無意識のうちに一歩近づいていた。
格子に掛けられた、木の札。
――番号。
NO.013
犬人族
女
12才
金髪
特技:料理
……番号?
喉の奥が、ひくりと鳴る。
(……人を、番号で……)
胸の奥に、冷たいものが沈んでいった。
商品。
箱。
オークション。
ただの言葉のはずなのに、
それらが一つに重なった瞬間、意味が変わった。
ここは倉庫じゃない。
人を並べ、値を付け、
生きたまま切り売りする場所だ。
◆
背後で、足音がした。
反射的に身を引き、影に溶ける。
階段を下りてきたのは、さっきの男たちだった。
手には帳面。
ランタンの光が、壁に揺れる。
「……確認だ。全部で十二体だな」
「間違いねぇ。檻も札も揃ってる」
男たちは、鉄格子の前を順に覗き込み、
無感情に数だけを確かめていく。
「……西門の通行許可書、ちゃんと処分しとけよ」
「へいへい。あとでまとめて燃やしておく」
それだけ言うと、
男たちは興味を失ったように踵を返し、階段を上っていった。
足音が遠ざかる。
地下に、再び静寂が戻った。
◆
俺は、息を詰めたまま、机へ近づいた。
雑にまとめられた書類の束。
その一枚を、そっと引き抜く。
西門通行許可証
夜間特例
管理番号:013〜016
発行元:グリムフォード侯爵家
――侯爵家。
指先が、わずかに震える。
さらに、別の紙。
積載管理書
管理番号:013〜016
区分:特別貨物
数量:4
輸送先:西区倉庫
備考:夜間特例・立会省略可
人とは、どこにも書いていない。
だが――
棚の奥に、もう一冊あった。
西区倉庫・保管台帳
管理番号:013
区分:生体
状態:衰弱注意
給餌:1日2回
備考:発声あり
息を、止めた。
通行許可。
積載管理書。
倉庫の保管台帳。
そして――牢の札。
すべてが、同じ番号で繋がっている。
物として運ばれ、
生体として管理され、
番号で区切られている。
――人だ。
獣人の子どもたちを、
“商品”として扱っている。
しかも、西門を通る正式な許可付きで。
グリムフォード侯爵の公印まで、揃っている。
背中に、冷たい震えが走った。
(……ここまで来て、
知らなかったでは済まされない)
俺は、書類を懐に収めた。
牢の奥から、
子どもたちの小さな呼吸が聞こえる。
今夜、ここでオークションが開かれる。
人の命に値段を付ける夜だ。
それを、
俺はこの目で見てしまった。
見てしまった以上、
もう後戻りはできない。
たとえ俺が追われる身でも、
たとえ相手が侯爵だろうと関係ない。
――止める。
この倉庫で行われるすべてを、
この夜ごと、ひっくり返す。
闇の中、
俺は一度だけ、深く息を吸った。
そして静かに、
“今夜を越える覚悟”を決めた。
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