第13話 覆われた荷
闇に溶け込むように、俺は荷台の陰に身を潜めていた。
馬車の揺れは一定で、速度はそれほど速くない。
石畳から土の道へ変わった感触が、身体を通して伝わってくる。
荷台の上には、厚い布が何重にも掛けられている。
中は見えない。
だが――
(……いる)
音は、ほとんどしない。
それでも、完全な無音ではない。
布の内側から伝わる、かすかな呼吸。
すすり泣くのを、必死に堪えているような気配。
喉が、ひくりと鳴った。
(……荷物じゃない)
◆
馬車は、しばらく走ったあと、速度を落とした。
建物の影が増える。
空気が、ひどく湿る。
――貧民街だ。
やがて、馬車が、ぎし、と音を立てて止まった。
御者が飛び降りる。
「……着いたぜ」
低く、慣れた声。
目の前には、古びた倉庫。
壁はひび割れ、屋根も歪んでいるが――人の出入りはある。
扉が開き、
中から身なりの悪い男が二人、姿を現した。
「今日は何箱だ?」
「四つだ。さっさと運ぶぞ」
――その瞬間。
「……おい」
背後から、低い声。
ぞくりと、背中が冷える。
「何だ、お前」
振り向いた先。
御者が、怪訝そうにこちらを見ていた。
布の陰に潜んでいた俺の影に、気づいたのだ。
(――まずい)
考えるより早く、意識が跳ねる。
「《時戻し》……五秒」
◆◆ 時間が、巻き戻る ◆◆
――がつん、と。
頭の奥を殴られたような衝撃。
視界が歪み、耳鳴りが走る。
喉の奥に、鉄の味。
(……っ)
踏みとどまり、息を殺す。
――戻った。
馬車が、ぎし、と音を立てて止まる直前。
今度は、迷わない。
馬車が完全に止まる、その瞬間。
俺は、音を立てずに荷台から滑り降りた。
まわりに無造作に積まれた木箱。
その陰へ、身を潜める。
闇と埃の匂い。
心臓の音が、やけに大きい。
御者が飛び降りる。
「……着いたぜ」
同じ声。
男たちが現れる。
「今日は何箱だ?」
「四つだ。さっさと運ぶぞ」
木箱の隙間から、様子を窺う。
◆
男たちは、荷台に上がり、布をめくった。
見えたものに、息を呑む。
檻だ。
木と鉄で組まれた箱。
中には、小さな影。
獣人の子供だった。
猫耳。犬耳。尻尾。
皆、身を縮め、声を殺している。
「丁寧に扱えよ。商品だぞ」
笑い混じりの声。
商品。
その言葉が、胸の奥を冷たく撫でた。
◆
「じゃあ引っ越しだ」
男の一人が檻を開ける。
引きずり出されたのは、猫耳族の少女。
細い腕を掴まれ、抵抗しかけるが、すぐに囲まれる。
「ほら、地下だ」
「急げ」
三人で囲み、
少女を連れて、倉庫の奥へ消えていく。
扉が閉まる。
残された檻の中で、
子供たちが、わずかに身を震わせた。
◆
御者だった男が、戻ってくる。
「オークションは今夜だよな」
「おう。旦那にもよろしく言っとけ」
「へいへい」
オークション。
胸の奥で、言葉が形を持つ。
「じゃ、俺は戻るわ」
馬車は引き返し、闇に消えた。
残った二人は、気の抜けた声を出す。
「集荷は終わったな。
……一息つくか」
「だな」
倉庫の奥、別室へ入っていく。
――静かになった。
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