表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/65

8.国家権力にドナドナされる俺。……おまえはなんでそんなに落ち着いてんの?







「……国家権力に喧嘩を売ってしまった……」


念の為、ご同行願えますか。


そんな口調でお願いっていうよりも四方八方から威圧されて、俺はちびりそうになりながらも頷いた。


白雪に目線で助けを求めても、わかっているはずなのに、にこにこと笑うだけ。


絶対楽しんでるだろこいつ。


頼みの綱の小人たちはといえば、白雪が制止、待てをさせられたようだった。


……だが、その判断自体は正しかったと思う。


あそこで白雪が止めていなければ、今頃この綺麗な街並みは、7人のおっさんによって血まみれの凄惨な現場となっていたことだろうーー

けどなぁ……


「……俺ら、これからどうなると思う……?」


こそっと、隣を優雅に歩く白雪に話しかける。


俺らは今、城の赤いカーペットが引かれた床を、騎士服の男たちに囲まれながら歩いていた。


「……わかりませんわ。ですが、騎士の方々も念の為、とおっしゃっていたことですし」


平気なのでは?と全く動じず言い放つ白雪に、俺は深いため息をついた。


一応、小人たちもついてきてるから、絶対絶滅のピンチにはならなそうだけど。


場合によっては、最悪お尋ね者にぐらいにはなるかもしれない。


異世界来て早々お尋ね者か……やだなぁ……

そんなことを考える。


なお、元凶のガキはと言えば、俺たちの少し先を歩いており、時折こちらを鼻で笑うような目線を向けてきた。


……ほんっっと腹立つなこいつ!


「ーーさぁ、着きました」


騎士の声に、はっと顔をあげる。


連れてこられたのは、とても大きな金色の扉の前だった。


「それでは、くれぐれも失礼のないように」


そう忠告され、扉が音を立てて開く。


「第七王女、リーナ姫の謁見です!」


視界に広がったのは、とても広大な部屋。


豪華絢爛、という言葉がぴったりな華やかな大広間で、その先には、真っ赤なソファ……つまり、王座に座った、派手なドレス姿の女性ーー女王様がいた。


そしてその周りには、たくさんの貴族っぽい人たちもいた。


「ご苦労」


頭を下げる騎士たちにそう言い、女王が手をこまねく。


女の子ーーリーナ姫は、渋々といった形で前に出る。


「……姉様、戻りましたわ」


「お前はまた市井に出ていたのか。どうしてそんなことをする」


「……」


リーナ姫が、不貞腐れたようにぶすっと黙る。


「それと、その者たちは何者だ?」


「この男がわたくしに無礼を働きましたの。ですから、捉えてまいりました」


「無礼?」


「はい、姉様。ですから王族を誑した罪で、この男を罰してください!」


びしっ!と俺を指差し、リーナ姫が言い放つ。


おいおいおい、待て待て!待てって!


「はっ、発言よろしいでしょうか!」


「ーー許す」


女王が扇子を口元に翳す。


「理由を説明させてください。俺はただ、街を歩いていただけでしてーー」


「嘘をつかないでちょうだい!」


「くっ、い、今、俺が話してますよね!?」


「だって姉様、こいつがーー!」 


「口を慎め、リーナ」


妹に投げかける声としてはあまりにも厳しい声で、女王が言う。


俺が少しの違和感を感じると同時に、女王は深いため息をついた。


「だが、お前の言い分から聞いてやろうリーナ。なぜお前を、我ら王族を誑したと感じた?」


「それは……」


くっ……万事休す……

俺、お尋ね者確定か……!?


俺が若干諦めかけていると、リーナ姫が、ぐっと拳を握りしめた。



「……こ、この者が、わたくしをーー、"ガキ"と」


しん、とその場に静寂が落ちる。


そのあまりの静かさに、俺が、え?と周りを見渡すと。次の瞬間。


「くすくすくす」


周囲のあちこちから、押さえた笑い声が聞こえた。

それが、さざなみのように広がっていく。


なんだこれ。なんていうか、この笑い方……


「リーナ」


真っ赤になって俯くリーナ姫に、女王がゆっくりと話しかける。


「それは事実だろう、"親指姫"」


親指姫?


俺が目を瞬くと、扇子を口元から外した女王が、皮肉そうに笑った。

俺は、目を見開く。


「あぁ、すまなかったな、そこの者。この親指姫が迷惑をかけたようだ」


「い、いえ……」


俺は小さくなってそれだけ言う。


「帰って良いぞ。お引き取り願え」


女王が、途端に興味を無くしたようにそう言う。

あっさりとした幕引きだった。


だが、隣で拳を握りしめて一人で震えるリーナ姫のことが、俺はどうしても気になってしまった。


声をかけるべきかと悩んでいると。




「……発言、よろしいですか?」


先程まで不気味なぐらいずっと黙っていた白雪が、なぜかこのタイミングで手を挙げる。


なにこいつ。なんなの?突然なにするつもり?


俺が嫌な予感を感じとるものの、白雪はにっこりと微笑んだ。


「私は東の国ーーテンミラの第一王女、白雪と申しますが、」


白雪がそう言った途端、女王の目が見開く。

周りの貴族たちも、先ほどとは比べ物にならないぐらいざわつき始めた。


いやいやおいおい!何するつもりだっての!

みんなざわついちゃってるじゃん!今更掻き回すなって!


リーナ姫も、呆然と白雪を見つめている。


「そんな、あの国は先日ーー。いや、それよりも、第一王女はとうに死んだものだとばかりーー」


女王が、目に見えて動揺する。そして、鋭い目つきで白雪を見た。


「……おぬし、偽物であれば、その発言は死刑に値するぞ」


え!?死刑!?


俺は震え上がるが、白雪は全く動揺していない。それどころか、悠然としている。


「ーー私は、本物です」


にこりと笑う。


「そしてこちらが、この世界を救う勇者様ですわ」


なにーーー!?!?


突然俺に集まった視線。

いや、こんな紹介のされ方、予想外なんですけど!やめて!さらにざわついてる!


「……うそ、」


横でリーナ姫が、ぽつりと呟く。 


「こんなださい格好の男が、勇者……?」


「……お前ほんとしばくぞ」


女王は、動揺しきって口に手を当てる。


「勇者だと……?出鱈目を……貴様ら、何が目的なのだ」


「嘘ではありません。まずは彼の右腕の痣をご覧くださいませ」


白雪が、白い指をすっと立てる。


「勇者様の証の痣ですわ。それから目的はありますが、今は話せません」


「な……」


女王の視線が俺の右腕に注がれる。

そして、すっと目を細めた。


「私からは、以上ですわ」


掻き回すだけ掻き回して、白雪は沈黙する。


なんかさ、俺ちょっと白雪のことわかった気でいた。

でもやっぱ俺、本当はなんもわかってなかったんだな……

何考えてんのかまじでわからねぇ……


俺は遠い目をした。


「……話はわかった。だが、まだお主らが本物だという確証が持てぬ」


ごもっともだと思う。


「……牢には入れぬ。だがもてなす事もできぬ。ーー軟禁しておけ」


どこか疲れたように、女王はしっしっと、手を振った。


リーナ姫だけが、複雑そうな表情で俺たちを見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ