5.魔獣出た!俺ってパーティーに必要ですか?
「ちなみに、瘴気の森はどうやって抜けるんだ?俺、最初めちゃくちゃ迷ったんだけど」
俺は、バッグの中に巻物地図やら保存食を詰めながら白雪に尋ねる。
声はちょっと弾んでたと思う。
だってなんか、やっと異世界での冒険らしくなってきたからだ!
……とはいえ、視界の端で鎌やら斧やらを研いでる小人たちは、なるべく視界に入れないようにしていたが。
「"導きのランプ"を使おうと思いますわ」
「え、なにそれ。魔法道具的な!?やっぱそういうの、この世界にあんの?」
「えぇ、高度な魔力を凝縮させて作る道具は、この世界にいくつかありますわ。その内の一つがこれです。触られます?」
「おぉー!すっげぇ!ファンタジーだ!」
俺は白雪から薄く青く光るランプを手渡され、一気にテンションがブチ上がる。
これこれ!これだよ!俺が求めていたファンタジー展開!
「それと瘴気の森は、別名魔の森と言われておりましてーー、道中には魔獣が出ますわ」
「……魔獣?」
「えぇ」
いわく、この世界には野生の魔物がいるらしく、それぞれの魔法属性を持つ魔物のことを魔獣というらしい。
強さや大きさはそれぞれ個体差があるが、知能が低いのが大きな特徴だという。
「この家は、そいつらに襲われなかったのか?」
「導きのランプを玄関先にかけておくことで、ある程度は魔獣避けとなっておりましたの。あとはそうですわね……私とこの子たちの魔力を感じていたのでしょう。被害はあまりありませんでした」
「……この場でおまえたちが一番やばいってことじゃん……」
そして俺が"それ"を実感したのは、すぐのことだった。
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「ーーいやなにあれ!?なにあれっっ!?」
めっちゃ木の影に隠れて、俺は目の前の光景を見つめる。
「魔獣ですわ」
おいおまえもっと木の影に隠れろよ!あぶねーだろ!って言いたくなるぐらい堂々と、でも優雅に俺の横で微笑む白雪は、なんてことなく"それ"を指をさした。
そこにいたのは、体長2mほどはゆうにあると思われる、黒い鱗で覆われた巨大なトカゲのような魔獣。
口からは結構な火を吐いているし、爪はめちゃくちゃ鋭くてでかいし、どう見ても弱そうには見えない!
あんなのにやられたら即死だ、とすぐにわかるような見た目だ。
てか、あんなのが平然と野生で出てくんの!?
この世界やばくない!?
「ここは魔の森ですから……他の地帯と比べても、魔獣の数も質も圧倒的なんですの。こんなの、なかなか見られませんわ」
「いやおかしいだろ!なんでちょっと誇らしげなんだよ!?」
ふふふ、と笑う白雪だが、俺は気が気じゃない。
魔獣と、それを囲んだ小さな7人のおっさんたちとのバトルが始まろうとしているからだ。
「にしたって、体格が違いすぎる……!」
しかも奴らの武器は、鎌やら斧やらだ。
あの頑強そうな鱗に貫通するかどうかも怪しい。
あいつらが強いことは知ってるけど、でも……!
「……始まりますわね」
白雪が、小さく呟いた。
その瞬間。
小人の半数が地面を蹴る。
高く跳躍した小さな体が、トルネードのように高速回転した。
対して、残り半数も素早い蹴りで、魔獣の足元に潜り込む。
「……」
そして、次に目を瞬いた時には、トカゲのでっかい頭がすでに地面に落ちていた。
「えっ……、えっっ!?」
俺は目を疑った。ついさっきまで火を吐いてた魔獣の、あのドでかい頭が地面に転がってる。しかも綺麗にスパーンって感じで!
少し遅れて、大きな音を立てて胴体がその場に崩れ落ちた。
「あ、あわわわわ……!」
「この導きのランプの良き点は、強めの魔獣しか現れないことですわね」
「いやいやいやいや、」
俺はなんかもうツッコミをおざなりに、見てしまった衝撃映像に恐れ慄く。
小人たちは言えば、汗一つかかずに、トカゲの亡骸に近づいてその上に登ったり頭の状態を確認したりしていた。
「ちなみに、亡骸からは素材が収集できますわ。魔獣の牙や爪はそれなりの値段で売れますの」
金。考えてなかった。確かに絶対的に必要だけど。でも。
「しばらくはどうしても魔獣に遭遇してしまうと思いますので、厳選して町に持ち込みましょう。ルト様」
にこりと笑った白雪。その背後で鎌やら斧やらを使い、慣れた手つきでトカゲ解体を始める小人たち。
こうして冒険が始まった訳だが……
俺、いる?
てか、ついていける気しねぇんだけど……!?
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ルトが森の中を彷徨ってる時に魔獣に遭遇しなかったのは、女神様のご加護のおかげです。ただ女神様は適当なので、5時間経った所で、もういい加減いいっしょ。あいつフィジカルつえーしなんとかなるっしょ。って加護を外してます。実はルトはギリギリの所で生き延びた。っていう裏設定です。