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4.白雪姫が仲間になった!※ただしサイコパス





「そういえば……」


俺は白雪姫の童話を思い出す。


確か、毒林檎を食べて眠りについてしまう話だったような気がするが--この世界は本当にその童話ベースなのか……?


「……たとえばだけどな、毒林檎的なものだったりを誰から渡されたりしたことはないのか?変なお婆さんとかから」


「毒林檎ですか?そもそも人から頂き物をすることがありませんし……」


「だよなぁ……」


やっぱこの世界は、アンチ童話だ。


「えぇ。例えあったとしても、可愛いこの子たちにあげてしまうと思いますわ」


「え!?あげちゃうの!?毒かもしれないのに!?」


「ふふ。それでもきっとこの子たちは受け取ってしまいますわ」


「それは……」


崇拝、よりもさらに上の。


「本当に、お馬鹿で、可愛い子たちですわ」


白雪は、彼らを見て穏やかに笑う。


「あぁでも、この子たちは頑丈で、ちょっとのことでは死なないんですわ。多量の毒を飲んでしまっても、少しーー、そう、少し……二、三日苦しんで寝込むだけ。凄い子たちでしょう?」

「……」

「ふふふ」


笑ってる……

やっぱ情緒やばいよこの人……


「てかそんな地獄のような森にずっと住んでるのか……。白雪は、これからもずっとここにいるつもりなのか?」


「そうですわね……」


白雪が少し考え込む。

長いまつ毛がぱちぱちと数回瞬いた。


「瘴気の問題がありますから、住めてもあと数年ほどかと」


新情報きた。


「瘴気?」


「瘴気とはこの森を覆う魔法です。生き物の命を、ゆっくりと蝕んでいきますの」


「えっ、ちょっと待った!それってつまり……」

「一帯が毒で覆われていますの」


「嘘だろ!?毒林檎どころの騒ぎじゃねぇ!」


「ふふ」


白雪は平然としているが、今この瞬間にも俺は毒を食らっていることになる。


それって絶対ヤバいやつじゃないか!?


「やだ俺まだ死にたくない……!」


「生への執着が強いのは良いことですわね。生きてる、って感じですわ」


「うっさいわ!……まじで俺の体どうなんの?」


その半泣きの疑問に、白雪は心底不思議そうに小首を傾げる。


「ルト様に関しては……毒の影響を全く受けていないように思いますわ」


「え?」


「そもそも」


白雪はパンを一口かじり、静かに言った。


「常人であればこの瘴気の森に立ち入っただけで即死します」


え。俺転生早々即死してた可能性あるってこと……?


「この子たちに蹴られた際のフィジカルの強さといい、その腕の痣がなんらかの影響を及ぼしていると考えても差し支えないかと思います」


俺は呆然と右腕の痣を見る。


……も、もしかしてこれが……

俺のチート能力……!?


「ちなみに俺って……その、すげぇ魔法は使えそうなの?」


もじもじしながら聞いてみる。


「……素人目からですが、残念ながら、あまり魔法行使には向いてなさそうな魔力の質かと思われますわ」


ショックすぎる……


上げて落とされるぐらいなら、期待させないで欲しかった--


「……ですが、未知数ですわね」


「?何か言ったか?」


「いいえ、何も」


白雪はまたにこりと笑った。


「白雪は、回復魔法でなんとかなってる感じなのか?」


「そうですわね……ある程度は回復魔法で毒を緩和させられますけれど……このまま住めば、命がもってあと数年、というところですわ」


突然の胸を刺してくるような言葉に、ぞくりとする。


まるで明日の天気の話をするかのように、白雪は平坦に話す。

だがそれは--


「死ぬ、って、ことか……?」


しん、と少しの沈黙が落ちる。


「そうですね」


白雪は、否定することなくただ小さく頷いた。


「白雪は……それで良いのか?」


「えぇ。ここでの生活は満ち足りていますし」


「……外の世界に出たいとかは」


「どうでしょう」


ふ、と微かに笑う白雪に、のらりくらりと交わされるような感覚。


俺は、だけど--


「……知り合ったばかりの俺が言うのもあれなんだけど」


白雪の大きな瞳が、こちらを見る。

一気に張り詰めた空気。


「こんなところ、出た方がいい。白雪はもっと幸せになるべきだ」


「……」


白雪のパンをちぎる手が止まる。


二人の視線が交わる。

時が止まったようだ。


ふと、彼女は儚げに視線を伏せた後、窓の外を見た。


「……幸せとは、何なのでしょう」


その目はどこか遠い。


「あまりわからないのです。私には、縁遠いもののように感じますわ」


それは、初めて彼女から溢れた本音の一部のような気がした。


「--なら、一緒に俺とここを出よう」


「一緒に……?」


「俺、フィジカル強いし。多分刺客からも、多少は守ってやれる。それに、こいつら小人もいる訳だし……外に出ても十分やっていけると思うんだ。……多分」


「多分」


「うっ……」


なんだか詰められているような気がして、急に気持ちが萎む。


俺、白雪相手になんでこんなこと言っちゃったんだろ……

ちょっとプロポーズみたいじゃん……


いやでも簡単に死ぬとか言うから……


俺がかなり後悔し始めていると、白雪がぽつりと呟いた。


「私--初めて言われましたわ。守ってくださるなどと」


「えっ……いやでもほら、小人たちも今まで守ってくれてたじゃん……」


「ですが、こうやって言葉にして頂くのは初めてですわ」


え?まさかの怒られる?と身構えたものの、白雪は反対に、にっこり微笑んだ。


「あなたは、不思議な人ですね」


「え……っ、白雪、それって……!」


ハーレム?ハーレムの始まりなのか!?


「観察のしがいがあります。どのような心の動きで私を誘ったのでしょう……それにその痣。フィジカルはどれほど強いのでしょう?刺されても平気なのかしら?気になります」


「やめろ!?被験者を見る目つきだからそれ!」


「ふふ」


かくして、俺の冒険が幕を開けた。

……サイコパスと共に。


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