3.俺は異世界で始まりの服をゲットした!……え?元刺客の服……?
「ルト様。おはようございます」
にこり、と白雪が微笑む。
一見清楚で慈愛に満ちた笑みだが、中身はガチでやばい女だ。
彼女本体だけ見れば天使の降臨した楽園のようではあるが、
ここは一晩明けても薄暗い森だったし、なにより彼女の周りの小人たちが、いつまでも俺をじっと見つめている。
なんかさ、目つきがさ……
スラム住民のそれなんだよな……
「おはよう、白雪……」
俺は怯えながらも、挨拶をする。
「昨晩はよく眠れましたか?」
「まぁ……それなりに。ありがとな。ベッドも服も貸してくれて」
「礼には及びませんわ」
どつかれて泥まみれになってしまった俺の服の代わりに白雪が用意してくれたのは、まさに異世界っぽい、茶色の綿の服だった。
ちょっとテンションが上がったのは内緒だ。
「でもよく俺にぴったりのサイズの服があったな。誰かの服なのか?」
「ふふ、そうですわね。誰かの服--でしたわ」
……これ以上突っ込んではいけない気がする。
「そういえば刺客がよく来るって言ってたけど……」
瞬間、"追い剥ぎ"という不穏なワードが脳裏によぎる。
まさか、前の刺客の服……?
いや辞めとけ辞めとけ、考えるな。怖い。
「白雪は……誰かに狙われてるのか?」
しん、と空気が冷える。
「オマエ、ブレイ」
「コロスゾ」
「コロソウ」
「え!?これ一発NGワードだった!?まじでごめん!殺さないで!」
一斉に、小人たちが鎌やら鉈やらを掲げてざわつく。
再び俺が村の生贄状態になったところで、白雪はすっと慣れた手つきで小人たちを制す。
「私も、ルト様にはお話した方がよろしいと思っていました。でもまずは……朝ごはんを頂きません?」
「あ、あぁ……」
どこまでもマイペースな白雪に、俺はなんだか涙が溢れそうになる。心が折れそうだった。
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「私の生まれた国は、東の大国--テンミラですの」
小さな茶色のパンをちぎりながら、白雪がぽつりと話す。
「テンミラ……?」
「……地図を」
「コレダ」
小人が抱えてきた巻物のような地図を受け取った白雪が、それをテーブルに広げる。
てか小人、有能すぎかよ……
「現在地はこちらです。テンミラから遠く離れた"魔の森"」
白雪の白いほっそりとした指が、一点を指す。
「そしてこちらが--テンミラ」
「デカい国だな……」
「えぇ。東一帯を統治している大国でした。私はそこの--第一王女でした」
「は!?めっちゃ偉い人じゃん!?なのになんでこんなところに……」
俺は驚愕してスプーンを落としそうになるが、白雪はそれをちらりと見ただけで再び地図に視線を落とす。
「継母に追放されましたの」
「追放って……」
「お父様が崩御してすぐのことです。継母は元々浪費家でしたの……。お父様という"枷"がなくなり、彼女の欲は止まらなくなりました」
言葉に詰まる俺だが、白雪は上品にパンを食べる。
「そしてあの夜……あの女は、まだ10にも満たなかった私を殺そうとしました。あの時の、勝ち誇ったようなあの女の笑い顔--うふふ」
白雪は、突然子供のように無邪気に笑った。
おい、今笑うとこか!?……絶対ちがうだろ!
なんて突っ込めず、俺は若干の冷や汗を垂らしながら神妙に白雪の次の言葉を待つ。
「まぁそれから色々ありまして、私は継母の魔の手から生き延びたのですわ……」
「待って怖っ!どういうこと!?そこからどうやって生き延びたんだよ!?」
「……彼女は、闇の魔法のようなものを操っていましたわ」
「あの……白雪さん、俺の話は……?」
くす、と白雪が笑う。
その笑みはどこか不穏であり、目の奥が笑っていないぞくりとするような冷えた笑みだった。
「……はい。余計なことは詮索しません……」
「ふふ。良い判断です」
早々に降参した俺に白雪は笑い、静かにパンをちぎる。
「それから私はこの魔の森へ逃げ延びたのですが--しばらくは毎日、継母の刺客に命を狙われました。この子たちも、元は刺客でした」
「まじで!?」
俺は小人たちを見る。
彼らは一斉に頷いた。
「白雪、コロセ、イワレタ」
「コロスタメニキタ」
「デモ、コロセナカッタ」
殺せなかった?
ってことは……
「つまり……白雪はこいつらよりも強いってことか……?」
ひやりと、本日何度目かわからない冷や汗が出る。
「いえ、そうとも限りませんわ。私は物理魔法は不得意ですが、回復魔法においては少しだけ"特別"でして」
「何そのテンション上がる単語。……でも回復魔法だけでどうやって?」
「彼らは皆洗脳されていましたので……その鎖を解いただけですわ。あとは普通の刺客相手でしたら少しばかり身体を活性化させるだけで…… 全身の血という血が、"整って"いきますの」
「わ、わーっ!やめろやめろ!お願いだから怖い想像させないでくれ!」
「彼らの最期はご想像にお任せしますわ」
「ちょっと怖すぎるんだけどこの人!」
童話と違いすぎるわ!
「ふふ」
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