19.白雪の目
「……少し、お話したいことがあります」
豪華な部屋に到着し、人生初ぐらい大きなふかふかベッドにダイブしようとした瞬間、白雪とリーナが俺の部屋に来た。
その顔は、かなり険しい。
「どうかしたか?」
俺はざわつく心を抑え、二人に尋ねる。
「イバラ姫の側に控えていた、あの側近のことです」
「あぁ……。あの、王殺しを阻止した奴か」
「えぇ」
白雪が、ほぅ、と息を吐く。
「ーー恐らく、魔女です」
「え!?」
「それは、確証があるのよね?」
驚く俺に、リーナが硬い声で尋ねる。
「えぇ。まず、魔力の流れが、他の人のそれと異質でしたの。明らかに、抑え込んでいるような流れですわ」
「……それだけでは、まだ理由としては弱いわよ」
リーナの言葉に、白雪が頷く。
「西側の王に支えていた側近を覚えていますか?」
「側近?」
リーナが訝しむ。
俺は思い返す。顔も姿もぼんやりして、何も思い浮かばない。
そんな奴、いたか……?
「はい。あの、馬車を手配してくれた側近ですわ」
「あぁ、あいつか……」
納得はするけど、それでも顔は思い出せない。
白雪が続ける。
「顔は違うように見えました。けれど、"魔力の流れ"がーー全く同じでしたの」
「え?そ、それって……」
「えぇ。確実に、同一人物です」
「そんなことって……」
リーナが絶句する。
「でも、あり得ないわ。魔女が、城に潜入?構造的に無理だわ。そんなことが可能ならば、世界の常識がひっくり返ってしまう……」
「どうしてだ?」
手も声も震えるリーナに、俺は尋ねる。
「城っていうのはね、魔女の侵入を防ぐために、魔力探知をそこら中に張り巡らせているの。魔女の魔力は人のそれとは違う。だから、探知さえできれば、即侵入がわかる仕組みになっているの。それにーー」
リーナが苦しそうに目を伏せる。
「その魔力供給は、王族の強い魔力から供給されているわ。各国の王族は一人や二人じゃない。絶対に破られる、訳がーー」
そこで、リーナがハッとしたように顔を上げる。
「分断、なの?」
「そうです」
俺も、その言葉の意味に気づいた瞬間、背筋が凍る。
「じゃあ、イバラ姫と、西側の王が争っていたのは……魔女のせいってことか?」
「その可能性が高いでしょう」
白雪が、確信を持った目で頷く。
「正妻であれば、複数回孤児院などに行くこともありえます。つまり、城の探知網からは幾度も外れます
わ」
「……わたくしも、市井に遊びに出ていた時に、北の魔女に呪いをかけられました。その可能性は、十分ありうるわ」
リーナが震える。
「その後は、少しずつ、何度も、洗脳をかけていけばいいんですの。その内に、正妻は王を連れて逃げるようになりますわ。そうなれば、分断は簡単に起こり得ます」
「そんなことって……」
俺は絶句する。
確かに、兄も妹も両方を見て感じた違和感があった。
どちらも、悪い奴ではなさそうだったのだ。
それが、魔女が理由で強制的に争わされてたんだったらーーこの状況にも納得がいく。
「恐らく、城の外へ出た段階で、西側の王は洗脳されています」
「なんてことなの!?今から西の国へ戻って報告した方がいいの?でも、南の国のこともある。わたくしたちは、どうすればいいのよ……!」
リーナが叫ぶ。
「……白雪は、洗脳が解けるんだったよな」
俺は、拳を握りしめて小さく呟く。
「……えぇ」
白雪も、強い視線をこちらに向ける。
「なら、道はひとつだ」
俺は窓の外を見る。
「ーー西側の王の洗脳を解く。そして、協力してもらおう」
白雪とリーナが、決意を持った目で頷いた。