2.小人に囲まれる俺。……あれ?血祭り?
「……お目覚めですか?」
次に目を覚ました時には、美人の顔がドアップだった。
「わぁぁ!って、いってぇぇぇ!!!!!」
ベッドから起き上がった瞬間、左脇やら打ち付けられた右半身やらに激痛が走る。
苦痛に悶え苦しむ俺に、美人はとても楽しそうににこりと笑いかけた。
「申し訳ありません……刺客だとばかり思いこんでしまい--この子たちに処理をさせてしまいました」
美人が指し示した先には。
「白雪、コイツ、コロしたほうがイイ」
「ヘンナカッコウ」
「カエシチャダメダ」
「ヤッパリ、コロソウ」
「ひ、ひーーー!!!」
七人の小人--、というには些か親父じみた顔の小人たちが、釜やら斧やらを持ち、ベッドを囲むように俺を覗き込んでいた。
俺、生贄!?
「まぁ、確かにあの場で殺しても良かったのですけれど……」
「いや、良くないわ!」
思わず突っ込む。
「刺客にしては殺意もありませんでしたし。それに貴方、魔力がとても変わっていますわ。一体、何者ですか?」
優しく微笑まれているはずなのに、なぜか厳つい顔の小人たちよりも圧を感じる。
この女、絶対関わっちゃいけない人種だ……
俺は内心ダラダラと汗をかくも、美人は返答を促すようにゆっくりと小首を傾げてくる。
「と、とりあえず、話したら殺さないでくれる?」
「返答次第ですわね」
どこまでも厳しいな。
「……いや、信じられないかもしれないけど……俺、この世界の女神様に異世界から連れられてきたんだ!」
「まぁ!……それで?」
「えっ……?え、えっと……俺は、世界を救う勇者みたいな……あはは……お願い、殺さないでぇ……」
最後は命乞いだ。
「まぁ……そうなんですの」
「し、信じてくれるのか……?」
「信じる、とまでは断言できませんが……この世界を救う勇者様は、ある太陽の高くなる日に唐突に現れ、この世界を救うと言われています」
美人はそこで、笑みをすっと止めた。
「今日は一年で一番日の高い日。これだけではまだ、貴方が本物の勇者様であるという判断材料にはかなり欠けますが……」
彼女が俺の腕を指差す。
「その、右腕の痣」
「え?あれ?」
確かに右腕に、さっきまではなかった痣のような、刺青のような青いマークがびっしりと描かれていた。
「えっ、何これ?!銭湯入るとき困るんだが!まじで何?!」
慌てて触ると、右腕に微かな熱がともる。
その温度に俺は少しゾッとしながら、その痣と美人を見比べた。
「……以前、禁書で見たことがありますわ。古代魔法--それも、とても強力な魔法が掛かっています」
「魔法!?」
「先ほど、この子が蹴りを入れた瞬間に光って浮き出ました。おそらくそれがなければ今頃貴方の体は……、バラバラ?」
「おい待ってくれ!ってことは普通に俺のこと殺そうとしてたのか?!嘘だと言ってくれ……!!」
頭を抱えてがたがたと震える俺を見て、心底楽しそうにくすくすと笑う美人。
いやこの反応はあれだ……本とかで見たことある……
この女……!
絶対サイコパスだ……!
「勇者様、これまでの私たちのご無礼をお許しください。私は白雪と申します」
くすくすと白雪が笑う。
「お腹も空いていますでしょう?こちらをどうぞ」
さぁ、と差し出されたのは、真っ赤な林檎。
非常に腹が減っていた俺は、それを有り難く食べようとし--、ぴたりと止まる。
「……何も入ってない?」
「毒は入っていません」
「……」
「毒は」
「……」
あぁ、前途多難だ--
3話は本日10時頃更新予定です!