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18.東側の国、イバラ姫との出会い






「ここが東側の城です。西のとは大違いでしょう?」


兵が誇らしげに、城の内部を先導する。


俺たちは東側の歓迎を受け、今夜の宿をこの城にさせて貰うことを決めたばかりだった。


「華やかですわね」


白雪が肯定とも取れない言葉でにこりと笑う。


東側の城はーー確かに天井の高さも、敷かれた赤絨毯も西側のそれとは違っていた。


「元はこちらが首都だったのです」


「まぁ、そうなのですか」


あの返しをしている時の白雪は……たぶん、もう聞いていないな。 


完全に、兵の話を流れるように交わしている。


「こちらが、女王の間です」


ギィ、と扉が開く。


そこにいたのはーー燃えるような赤色の髪をした、まるで薔薇のように華やかな女性だった。


その女性が、つい、とこちらに視線を向ける。


「……あぁ」


凛、とした、空気を裂くような声。


「よくぞ、お越しくださった」


声は硬くはあるものの、敵意は感じさせない。


歓迎は……されてるよな。多分。


「お招き頂き感謝します。わたくし、西の国の第七王女、リーナですわ」


リーナが、恭しくカーテシーをする。


「わざわざすまない。わたしはイグレア王国第一王女ーー、イバラだ」


女性ーーイバラ姫が、胸に腕を当て、深々と頭を下げた。


それはまるで、洗礼された騎士がする、格式高いお辞儀みたいだった。


その動きは、少しあの兄王のものと似ていた。


「……どうか、ゆっくりして行ってくれ。道中の疲れもあるだろう」


「えぇ、感謝いたしますわ」


リーナが、少しよそいきっぽく微笑む。


イバラ姫はわずかに目元を和らげて、少しだけ硬い表情で笑みを作った。


「ーーそちらの方が、勇者様か?」


イバラ姫の真っ直ぐな強い視線が、こちらを向く。


「あぁ」


「……南の国へ行かれると聞いた。我が国は、支援を惜しまない。どうか、魔女による暴挙をーー止めてくれ」


イバラ姫が、力強くそう言う。


俺は神妙に頷いた。


「あぁ。任せてくれ。それに……東側の王も、同じことを言ってくれた」


俺はどこか、少し思い上がっていたんだと思う。


勇者だし。


その一言で、少しでも、二人の仲が良くなれればって。


……だけど。


「ーーあぁ、そうか」


イバラ姫がそう低く声を出した瞬間。


先ほどまでの空気が一変する。


「あなたたちは、あちらの王にも会ったんだったな」


その声色には、鋭利で今にも空気が切れてしまいそうな、棘のようなものが滲み出ていた。


俺はそれに圧倒されて、動けなかった。


なんていうか、それは兄妹喧嘩なんてそんな軽い雰囲気じゃない。それは、むしろーー


「わたしはもう、何年も王には会っていないからな。次に顔を合わせた時がーーどちらかの最期だ」


ーーその場の誰もが、息を呑んだ。


イバラ姫の瞳が凍てついている。その声には、明確な憎悪が滲んでいた。


「……どうして、そこまでの争いに?」


白雪の透き通るような声が、その場に染み渡る。


「あちらの王が、父王を殺そうとしたんだ」


「え……?」


俺は、信じられない思いでイバラ姫を見る。


「父上は、側室を多く囲んでいた。それ自体は、周辺諸国との政治的思惑があり、仕方がなかった。正当性もあった」


イバラ姫が、拳を握る。


「だが正室である母には、それが理解出来なかったらしい。自らの立場が弱まることを恐れ、あちらの王と共に、父王を暗殺する計画を練っていたのだ」


「そんな……」


俺は、絶句する。あまりにも、俺のいた世界からはかけ離れた世界だったからだ。


「あの時、あちらの王は十二歳だった。既に物事の判別はついていたはずだ。だが、愚かにも母に手を貸した。母は自分の手を汚さずに、王の血に"父王殺し"をさせたかったのだろう。だがーー」


ちら、とイバラ姫の目が、一人の側近の姿を見る。


「この者のおかげで、その計画は露呈した」


イバラ姫が、信頼の滲む声でそう言う。


「お前には感謝している」


「……恐縮です」


その年老いた男の側近は、恭しく頭を下げた。


「……そちらの方は?」


白雪が、つい、と目線を向けてそう尋ねる。


「父王の時からの側近だ。政治的戦略にも長けていて、私も重宝している」


「そうなのですね……」


白雪の目が、ほんの僅かに細められた。


「すまない。長々とつまらない話をしてしまった。お詫びに、勇者殿たちにはこれ以上ない程の豪華な夕食を用意しよう」


「あら!いいですわね!とても楽しみですわ!」


リーナが嬉しそうに声を上げる。


「では、食事の用意ができるまで、部屋でゆっくりとされてください。兵に案内させましょう」


側近が、人の良さそうな顔で笑う。


俺は受けた衝撃を飲み込んで、ぼんやりと頷く。


隣では白雪が、その笑顔をじっと見つめていた。

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