13.本格的な冒険の始まり!
「……やっぱ俺、あの大剣が良かった」
手元の片腕サイズの件を見つめて、俺は心底不服に呟いた。
「バッカじゃないの?あんな大きな剣、嵩張って仕方ないじゃない」
「いやでもさぁ」
「えぐるだけであれば、そちらで十分な大きさですわ」
「白雪はロマンってもんをわかってないなぁ」
「申し訳ありません」
くすくす、と白雪が笑う。
あ、ちょっと元気出たな白雪。良かった。
「あんたのロマンの基準がさっぱり理解できないわ。さっきも、ギルド登録に異常なほどこだわっていたし……」
リーナがバカにしたように鼻を鳴らす。
「ばっかお前、あれこそロマンだろ!?」
俺は信じられない思いでリーナを見る。
「ただの冒険者登録じゃない。そんなものなくったって、この姉様の通行手型で十分な証明書になるわ」
「それとこれとは別なの!」
そう、ギルド登録ーー
冒険のため城から出た俺は、ギルドへ直行しようとしーー
リーナに止められた。
しばらく行く、行かない、で揉めたものの、「冒険者登録!?そんなもの申請してたら、何日もかかるに決まってるじゃない!北の魔女がその間に出現したらどうするのよ!?」というリーナの現実的な言葉に、泣く泣く諦めたという訳だ。
「生きて戻れたら、登録しに行けばいいんじゃない?」
リーナが、ふん、と髪を揺らす。
「生きて戻れたらって、おまえそんな大袈裟な……」
「……あんたこそ、何言ってるの?あんたまさか、本当にーー」
「お二人とも」
白雪が、ぴりっとした声を出す。
「魔獣です」
俺は、その言葉に体に緊張が走った。
魔獣。
それはこれまで見学の座に甘んじていた俺の、初戦のーー
「……なにあれ」
俺は、ぽつんと呟く。
「なにって、ノワラヴィットよ」
知らないの?とリーナが言う。
「いや、名前というか……」
俺は、これまで瘴気の森で、たくさんの魔獣を見てきた。
そしてそのどれもが、体長2m超えだった。
だから、ちょっと感覚がバグってたんだと思う。
「……なんかめっちゃ弱そうじゃね?」
そこにいたのは、ペット用うさぎぐらいの大きさの、黒い魔獣だった。
「当たり前じゃない。こんな開けた街道に、あれ以上の大きさの魔獣が現れる訳ないわ」
「……ロマンー……」
いや、確かに急にあのレベルの魔獣と戦えって言われても困るけどさ。
「ちょうどいいわ、ルト。あいつを殺してきなさい」
「えっ」
俺は少し驚く。
「無理だろ。あんな小さくて弱そうな生き物、俺殺せないって」
「はぁ!?魔獣よ!?ペットじゃないのよ!?何言ってるのよ!?」
「でも見た目ペットっぽいし」
「……あのね、ルト。良く聞きなさい」
リーナが、真剣な顔をして、俺を見上げる。
「あのレベルの魔獣でも、子どもを襲えばただでは済まないの。あんたに勇者の自覚があるのなら、魔獣は見つけ次第殺しなさい」
「……はい」
俺は、リーナに大人しく従い、反省する。
ちょっと異世界をなめていた。
確かにあの大きさの魔獣でも、子どもにとってはデカい。
それが襲ってくるとなるとーー確かに、危ないだろう。
「よし。じゃあいっちょ勇者してきますか!」
「スケールの小さい勇者ね」
「頑張ってください」
白雪がにこにこと俺を送り出す。
よし!
「……」
俺はそろそろと、魔獣の背後に回る。
魔獣は何も知らず、草を食べてる。
……すまん!
そして、目を瞑りながら、その魔獣に剣を突き刺す!
「……あれ?」
しかし、俺の剣は避けられていた。
そして。
「い、いてぇーーーー!!」
がぶり!と左足を噛まれる。
鋭い歯が、足に突き刺さる。
「ルト!」
「まぁ」
二人が、遠くから駆け寄ろうとする。
「なんだよくっそ!天誅!!」
そして、俺はその魔獣に、迷うことなく剣を突き刺した。
「ーーッッ!!!」
剣を捩じ込まれた魔獣は、声にならない鳴き声を上げ、パタリと倒れる。
た、倒した……!
俺は思わず一歩引いて、剣を見つめる。
ぐしゃ、と黒い血が滲んでいた。
な、なんかちょっと生々しい……俺は、命を一つ消してしまったんだ……うぅ。
「大丈夫ですか?」
「あんた、ほんっとなにやってるわけ!?」
二人が俺に駆け寄る。
「いや、まさか噛んでくるとは思わなかったんだよ……」
さすが魔獣。可愛い顔して凶暴だった。
やっぱ俺も、魔獣は殲滅派に寝返ることにする。
「はぁ……ほんとにバカね。白雪、回復してあげれば?」
「できません」
白雪が、場にそぐわない表情でにこにこと言う。
「は?何言ってんの。あなたあんな魔力量があるんだから、出し惜しみしてないで少しぐらい使ってやりなさいよ」
「無理ですわ」
「……理由があるの?」
「えぇ」
白雪が、俺らを見る。
「私は、特大回復魔法を一回使うと、しばらく魔法自体使えなくなるのですわ」
「……」
「え!?」
リーナが沈黙し、俺は声を上げる。
なにその弱点!
「じゃあもしかして、今……」
「えぇ、何もできません。大変申し訳ありませんわ」
「えー!?」
「そういうことは先に言いなさいよ!本当に、揃いも揃って!」
リーナが怒りながら、俺の足に手を翳す。
ぽうっ、と淡い緑の光が光った。
「悪いな……」
「……まったくよ!でもそうね、思っていたよりは深い傷じゃないわね……」
不思議そうに、リーナが言う。
「そうか?」
「えぇ……魔獣に噛まれたのよ。最悪、足がもげても不思議はなかったわ」
「ひぇぇ……」
今更ながら、身震いをする。
「わたくしは、浅めの傷しか治せないわ。でも白雪ぐらいの魔力量ならば、もげていても大丈夫そうね」
「えぇ。体の形を保ってさえいれば、なんとかなりますわ」
なんつー会話してんだこいつら。
異世界こえーな。
「とはいえ、それほどの特大回復魔法を使えば、しばらくは何もできません……」
「何日ぐらい戦闘不能になるんだ?」
「おおよそ6日ほどでしょうか」
「結構ね……」
リーナが深刻そうにため息をつく。
「まぁでも、しばらくはこの街道が続くし、次の国に着くまでには、白雪の魔力も回復するでしょう」
「次の国?」
俺は、首を傾げる。
てっきり南の国へ直行できるのかと思っていた。
「そうよ。南の国へ行くには関門的に避けられない小国ーーイグレア王国よ」
そう言って、リーナは深刻そうな目を俺に向けた。