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54 さわれない歌
朝の放送室。時計はもうすぐ八時二十分になろうとしている。そろそろ特選科の零時限が終わる頃だ。
机に原稿を広げてマイクを確認していると、授業の終わりを告げる鐘が校内に響いた。
深呼吸をして、ゆっくりと一分が経過するのを待つ。
机のデジタル時計が八時二十一分を示すと同時に、マイクのスイッチを入れた。
「おはようございます。放送委員です。朝のショートラジオ、本日の曲をお届けします。今日も、よい一日になりますように」
マイクのスイッチを切り、CDプレイヤーの再生ボタンを押す。校内のスピーカーから音楽が流れ、学校中が繭に包まれていく。
特別でもなんでもない、ただの日常。
いつも通りの日々の中で、ただ息をする俺たちは、まだ何者にもなれないまま箱庭の空を見上げて手を伸ばし続けている。
誰かに、何かに、届いて欲しいと願いながら。
何かが急に変わるわけじゃないけれど、それでも、少しずつ変えていけることもあると知っているから。
このやわらかな箱庭の中で、さわれない歌を君に届けよう。
今日も明日も明後日も、君が笑う日が続きますように。




