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テンダーブルーの箱庭  作者: 伏目しい
第4章 過ぎ去る日々を
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39 祭りの後

「ちょっとちょっと」


 グラウンドへ移動しようと歩き出したところで、鈴川に呼び止められる。


「ちょっと待って、えーっと……」

「矢口です」

「やぐっちゃんね。オッケー覚えた」


 鈴川が嬉しそうに笑う。


「今日はありがとね。あのままじゃ騒ぎが大きくなるところだったからさ、助かったよ」

「いえ、俺はなにも」


 会釈をして歩き出そうとする俺の前に、鈴川が立ち塞がった。

 なんなんだ。


「やぐっちゃんさ、あの子と仲良しなの?」

「あの子?」

「うん、〈保健室の高森さん〉」


 突然の質問に、思わず言葉に詰まる。


「仲が良いというか、知り合いですけど」


 一応、と付け加える。


「そうなんだ。ところでさ、やぐっちゃんは高森さんの噂を知ってる?」


 自然と顔が強張るのがわかった。


「……仮病でズル休みしてるって話ですか」

「違う違う、まあそれもあるけど、そんなんじゃなくてさ」


 鈴川が両手をひらひらとさせながら笑う。


「いや、知らないならいいんだ。邪魔して……」

「〈高森たかもり千咲ちさは人殺し〉って話だ」


 鈴川の後ろから声が降ってきた。見ると生徒会の一人が立っている。確か塚田とかいう名前だったか。


 ……そんなことより、今なんといった?


「人殺しというのはどういう意味ですか」

「そのままの意味だ。人を殺したんじゃないかって話だよ」


 冷たい口調で塚田がいい放つ。


「突拍子もない話で現実味に欠けますね。作り話でも、もっとまともな話をしたらどうですか。噂にしたって馬鹿馬鹿しすぎる」

「そうか? 辻褄の合わない話ばかりをするというし、虚言癖もあって、よく不審な行動をしているんだろう。あながち作り話ってわけでもねえかもな」


 塚田が鼻で笑う。


「さっきの旗だって、高森千咲がやってないって証拠もないだろ。旗が持ち上がる時に舞台上にいて、カッターで切りつけたのかもしれない。舞台に鉢巻が落ちていたことの説明はできていないしな」


 嫌な空気だ。まるで見下しているような、はじめから高森が犯人だと決め付けるようないい方をする。


「それで、わざわざ俺にその話をしてどうしようっていうんですか」

「ごめんごめん。いやね、ただの噂なんだけど、中身がちょっと悪質すぎるからさ。高森さんと仲が良い君なら、何か事情を知ってるかと思ってね」

「期待に応えられなくて残念ですが、俺は何も知りません」


 塚田と俺の間に入った鈴川が、作ったような笑みを浮かべる。おそらく、鈴川も高森を疑っているんだろう。少なくとも全面的に信じてはいないように見える。


「ただの噂といいながら気にするということは、何か理由があるんですか」


 俺の質問に、鈴川がきまり悪そうに頭をかいた。


「やぐっちゃんさ、高森さんがいじめを受けていたという話は知ってる?」

「――は?」


 一瞬、何をいわれたのかわからなかった。


 いじめ?


 誰が? 高森が?


 そんな話は聞いたことがない。

 高森だって何もいっていなかった。何も。


 ……いや待て。そもそも、俺にいう必要があるか?


 たった数ヶ月前に知り合った他人に、そこまで話す必要があるだろうか。自分が、かつていじめられていたなんてことを。


「高森さんはある女生徒から嫌がらせを受けていたらしい。図書室で脅迫されたり、駅で怒鳴られたりしていたのを見たという生徒がいる」


 そんなはずない。


 だって、高森はいつも笑顔だった。発作が起きている時以外は、いつも楽しそうに笑って――


 笑って? だから、なんだ?


 村沢の笑顔が蘇る。


 そうだ。笑っている人間が、いつも幸せとは限らない。俺はそれを知っていたはずだ。


「いじめは段々とエスカレートして、高森さんは保健室で過ごすようになった。自傷行為もその頃からはじまったらしい。それで追い詰められた彼女が、いじめていた相手を屋上から突き飛ばして殺してしまった」

「何?」


 航一が低い声をあげた。


「その女生徒が亡くなった日に、屋上から下りてくる高森さんを見たという噂があるんだよ。あくまで噂だから、誰が見たのかわからないし、何の根拠もないんだけどね」

「その女生徒って、まさか」


 高谷が信じられないという顔で呟いた。

 鈴川が頷く。


城崎きのさき涼子りょうこ。去年、北棟の屋上から転落死した一年生だ」

読んで頂いてありがとうございます。いつも励みになっております。

次話より更新時間を21時に変更致します。

引き続きどうぞよろしくお願い致します。

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