表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンダーブルーの箱庭  作者: 伏目しい
第2章 てのひらの理由
25/103

24 悪意の手

 帰り道、携帯電話の履歴から高森の番号を呼び出す。通話ボタンを押して耳にあてると、しばらくして「はい」という高森の声が届いた。


「今、電話できる?」

「はい。大丈夫です」

「あのさ、夏休みの予定なんだけど……」


 電話の向こうの声はいつも通りの明るさがあった。高森と会話をしながら今日の笹山の言葉を思い出す。


「つまり誰か別の人物が、八組で盗みをした後、盗難品を高森さんの浴衣袋に入れたってわけね」


 ペン先をくるくると回しながら笹山が天井を見上げる。


「それを知らずに私が保健室へ届けちゃったから、気付いた高森さんがわざわざ返しにきて、犯人扱いされてしまったのね」


 悪いことをしたわと笹山が顔を顰める。


「いや、早めに気付いてよかった。もし気付かずに高森さんが家まで持ち帰ってしまったら、もっと大事になるところだったから」


 俺の言葉に笹山が苦笑する。


「慰めてくれてありがとう。高森さんの件は、私からクラスのみんなに説明しておくわ。余計なことしたお詫びも兼ねて」


 律儀な笹山らしい。信頼の厚い笹山の言葉なら、クラスメイトも聞く耳を持ってくれるだろう。


「それにしても」


 時間割を書いたメモを取り上げると、笹山がぽつりと呟いた。


「いったい誰がこんなことをしたのかしら」




 ◆◆◆




「では、夏休みはできるだけ一人で動けるように特訓しますね」

「うん。無理はしなくていいけど、少しずつできることを増やしていこう」


 明るい返事が聞こえる。

 今日、クラスで起きたことを、高森は俺に話そうとはしなかった。意識的に避けているのか、それとも、話すほどのことでもないからか。あるいは。


「それでは、次は夏休みですね」

「うん。それじゃ、また」

「矢口さん」


 電話を切ろうとした俺を高森が呼び止めた。


「夏休み、楽しみです」


 嬉しそうな声にこちらまで明るい気分になる。


「では、また来週に」

「うん。それじゃ」


 電話を切り、携帯電話をポケットにしまう。


 夕暮れの道を歩きながら考える。

 誰がこんなことをしたのかと笹山はいった。八組の机や鞄から私物を抜き取り、偶然目の前にあった高森の荷物に放り込む。イタズラにしては度が過ぎている。


 ……本当に偶然だったのだろうか?


 はじめから高森が狙われたという可能性はないか?


 悪意の手の存在を感じるが、確証はどこにもない。夜の気配が混じっていくオレンジの空が、少しだけ不気味な色に見えた。

読んで頂いてありがとうございます。いつも励みになっております。

次話より更新時間を19時に変更致します。

引き続きどうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ