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47.『化粧直し』ってやつ

「……面白かった?」

那青さんが、想像してたより楽しそうではなかったので気になって訊いてみた。

「うん、遊びに付き合ってくれてありがとう」

那青さんも遊びに付き合ってただけなのかも知れない。

「ツルさんはこんなこと彼氏にすりゃいいのにね。帰ったら会いまくるんだろうし」

「いや、なかなかね、ヤタ君みたいな肌の男の人ってあんまりいないかもしれない」

「まあこんなもんでツルさんの心残りがなくなるってんならお安いもんだけど……。女の人ってさ、こんな大変なこと毎日やってんの?」

「やってる人は、しっかりやってると思うよ」

那青さんは、あまりやってないという風に聞こえた。

「大変だねぇ」

「大変だよ」

「ん?那青さんもそうなの?」

「うーん、まあね」

僕の感想と那青さんの返答が微妙にずれた。


そんな会話をしていると、ツルさんが慌てた様子で戻ってきた。

「彼氏がさ、かなり早くこっちに着くみたいでー!言い難いんだけどもう行かなきゃって感じなの」

ああ、別件の夕飯の予定ってやつか。

「明日香ちゃん、行っておいでよ?」

ええー?そうなの?

「ありがとー、ごめんねー。後片付けとかも残ってるのにー」

「いいから、いいから」

「本っ当ごめんねー。じゃ、また……」

何か言い淀んでいる?

「うん、またねっ那青ちゃんと、ヤタ君も!」

ダダダダと階段を下る遠慮のない音が聞こえ、続けて「カブキー!ずっと元気でねー!」という声が聞こえた。そして玄関ドアが開き、閉まる。家が急に静まり返った。

「ええ?帰ったらいくらでも会えるのに?」

僕にはツルさんの優先順位の方針が理解できなかった。

「まあそうなんだけど、明日香ちゃんは今まで会えなかった分を早く取り戻したいって思ってると思うの。距離が離れていた上に卒論とかもあったからずいぶん我慢してたんじゃないかな。彼氏さんも明日香ちゃんの帰郷直前にわざわざこっち来るくらいだし」

当事者同士にしか分からないもんか。

……そう言えば。

「化粧されてる時に気付いたんだけどさ、ツルさん黒い涙の跡があったよ。『化粧直し』ってやつ?しなくていいのかね?」

「あっ、しまった!私も、完成ヤタ君と並べて撮ったら面白いと思って言ってなかった!」

言い終えるや否や、那青さんはスマホを慌てて操作しツルさんにメッセージを送った。

「まあ涙の跡があったからって幻滅するような彼氏さんじゃないだろうけど、明日香ちゃん的にはベストで会いたいはずだしね。ヤタ君、グッジョブ!」

「ツルさんとか見てると、化粧ってさ顔が変わるよね」

「明日香ちゃんは研究熱心だしね」

「僕は個人的には化けた!って感じはしなかったんだけど化粧の威力はわかった。ほくろが無くなっているのはすごい」

急に2人になると緊張して不自然に饒舌になってしまう。そういやここは那青さんの部屋だし。何だか気まずく、とっさに思い出したことを口にした。

「あっ、そうだ、オーパーツの本持ってきてるんだった」

「じ、じゃあお借りしようかな……」

「……」

何でか話が広がらず結局沈黙する。那青さんは少し考えた素振りを見せた後、言った。

「化粧直ししてもいいかな?」

「ん?あ、どうぞどうぞ」

なんとなく化粧直しって宣言せずするもんだと思っていた。漫画か何かでそういうシーンがあったのだろう、化粧直しは、「お花を摘みに行く」とか言ってトイレにポーチを持って行ってやる、そんなイメージがあった。

那青さんはニヤリと悪い顔をして「じゃあ失礼して」と僕の前に立つ。

「えぇ?那青さんじゃなくて僕の化粧直し?」

「ふふ、そう」

また顔触られるのか。マンツーマンだと、那青さんと僕が見つめ合い続ける状態になるわけで、それは恥ずかしくてしょうがない気がする。


鉛筆で鼻の頭をグリグリ……

頬にちょんちょんちょん、反対側もちょんちょんちょん。

鏡で確認しなくてもわかる。

「僕を……犬にしたね?」

「あはははっ、すっごい似合ってる!」

これは化粧直しじゃなくて、仮装だ。

「ちょっ……那青さん那青さん、交代」

「えっ?」

手を引き少し強引に那青さんを椅子に座らせて、グリグリ……ちょんちょんちょん、ちょんちょんちょん。

「ひっどーーーい!!」

「お互い様お互い様、記念写真撮ろうか?」

流れに乗って、大胆な要求をした。那青さんの写真が欲しい。

「えー。一緒に写るならいいけど」

「じ、じゃあ隣、失礼」と那青さんの隣で中腰になる。

「ディスプレイ見て!犬2匹おっかしいー!」


パシャッ


距離が近いだけでも緊張しそうだったので、早々に2人ともキメ顔をする前に撮ってしまった。


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