32.却下です
勝手知ったる我が街でツルさんへの餞別の品を探すこととなった。
予算は一人当たり五千円、計一万円を目安に設定した。
相場が分からないので二万円位なら出せると言ったところ、
「そんなに高いと相手が恐縮するよ」
と注意された。
「ヤタ君、これから節約生活でしょう?」
と却下された。
二万円はもちろん高い気はしたが、もともと先日のツルさんへの再評価の分、上方修正で背伸びをした金額だったため、まあそうか高いかと納得はした。
気持ちよく送り出したい門出の祝いで恐縮させてはかえって迷惑になりかねない。
さて……何を贈るべきなのか僕には全く見当がつかないが、贈るのであれば気品漂う、知性が零れ出て、浪漫に溢れたそんなものが良い。
「私、こういう時消えものを選びがちなんだけど、明日香ちゃんには記念品として残してもらいたいんだ、贈る側のエゴだけど」
「同意します、エゴを押し付けていいなら、僕は生活に絡むアイテムがいいなあ」
ちょっと良さげなものがあるからと、那青さんを連れ歩き出す。僕がなるべく車道側を歩くように神経を尖らせながら。
「これどうかな?」
と家電量販店で那青さんに先日から気になっていたモノを見てもらう。
「ギミック満載」
気になってたモノのお披露目に、僕は興奮を隠せない。
「そう、コーヒー淹れながらパンや目玉焼き、ウインナーなんか同時に焼けるんだよこれ!新生活で朝を大事にしたい人にはピッタリじゃないかな?」
「……ヤタ君、明日香ちゃんは実家から通勤するって知らなかった?」
「え?いや、うん、聞いたかな」
「明日香ちゃんは別に自分の部屋で全部の支度を済ませるわけじゃないよ?」
食い下がる。
「じゃあご実家のキッチンに……」
「多分、コーヒーメーカーもオーブントースターもコンロもフライパンもあるよ?」
「……」
撃沈した。
「これ、贈りたいってより、ヤタ君が欲しいアイテムなんじゃない?」
「……!!」
言われてみればそうだ。言われてみなくてもそうだ。
「贈り物なんだからさ、相手の気持ちになって選ぶべきだと思うな」
核心を突かれ、もうこれを推す気概がなくなった。
「ヤタ君、買えば?自分に」
「いや、コーヒーメーカーもトースターもあるし」
「ね?ね?ほらダメー。却下です」
……なるほど要領はつかめた。
「送別の品であると共に就職祝いでもあるわけだから、会社で使う物もいいんじゃないかな?」
「ああ、なるほど」
「ボールペン・万年筆とかハンカチとか人気みたいだけど」
と就職祝いのランキングサイトを見せられた。
「ハンカチだと十枚か……」
「いや、金額設定いっぱいまでハンカチで埋め尽くさなくていいんだよ」
そうか。10個前提なら色々なモノが入ってる方が楽しそうだもんな。
いや違う、せっかく予算を合算させたのだから1万円で1つのモノを買うべきだよな。分けて買うなら別個で渡すのが普通だもんな。
あと……個体っぽいものがいい。
ハンカチもいいけど、もう少し浪漫があるものがいい。
「とりあえず雑貨屋行こうか、雑貨屋!」
と言われ、那青さんにはそもそも家電量販店で選ぶ意向が無かったことを知る。
スチームアイロンも提案したかったのだが実用的過ぎていささか浪漫に欠けるか……と後ろ髪を引かれつつ、家電量販店を出る。