22.模倣がいずれオリジナルになる
那青さんは続けて話を振ってくれる。
「じゃあさ、友達になったんだからオーソドックスなところで趣味の公開でもしようか?」
こういう話題のフリが僕にはよくわからないのだ。
僕自身はともかく、キャラクターに適切な振る舞いを与えられないのは良くないので、覚えておくことにする。
「それは……是非知りたいな」
「『知りたいな』、じゃなくてヤタ君も私に語るんだよ?」
「え?じゃあ、漫画・ゲーム・音楽鑑賞」
「……」
「……」
言い切ると会話が途絶えた。
「え?以上?淡白!淡白ですそれじゃあ!一個一個理由を添えて教えて欲しいです」
何か会話が、僕へのチュートリアルのように感じられてきた。
「り……理由?ゲームは……え?理由か……理由じゃなくてどんなところが好きなのか、とかでもいい?」
「もちろん大丈夫、大丈夫。語ってもらうことで人となりとかを知れるのも大事だと思うから。趣味が合えば尚のことよしだけどね。ちなみに私もゲームやるけどヤタ君はどんなゲームする?」
僕の自発的な発言に早々と見切りをつけたのか、那青さんが進行役を始めた。
「えーと、大きなモンスターがバーンといて、それを色々な武器で討伐する……」
「いやプレゼンじゃないんだから。なんで、ゲームのタイトル言わないの?」
「え、不親切かなって。例えば僕、小説の題名とか言われてもわからないだろうし」
「私、ゲームのタイトルでまあまあわかると思う……あ、インディー含むとキツイかな。じゃあ初めはジャンルで括ろうか?」
「あ……そう?えぇと、ハンティングゲームとかシミュレーションRPGとかRPGとかかな……。」
「ハンティングね、ハンモンなら私もなかなかやるよ!新作は時期的に忙しかったから手を出せてないけど。」
「えっ、じゃあ今度共闘する?」
発言はサラッと軽やかに、実際は勇気を振り絞って誘ってみる。そんなん実現したらめっちゃ楽しいやつじゃん!え、僕、リアルで協力プレイできるのか⁉
「やるやる!あ、でもお互いすべきことを疎かにしない程度に、ね?」
「それは大事だね!」
なんてことだ。友達だけじゃなくゲーム友達も兼ねてくれるだなんて……。
一日に2人の友を得たに等しい。僕の友達延べ3人中、2人が那青さんになった。
RPG系は経験値稼ぎが退屈らしく、そのジャンルの話は盛り上がらなかった。好きなゲームはハンティングの他ではパズル系、経営系や育成系のシミュレーションとのこと。いずれ那青さんのハマってるゲームには手を出そうと決めた。
那青さんは次の話題として僕の趣味の列挙から『漫画』を挙げる。
「漫画はどんなの読むの?ヤタ君は描き手でもあるからかなり興味深いな。私も結構漫画は読んできたけど、雑食だから何々系とかには絞れないかな。好きな漫画家さんとかはいるけど」
「誰だろう?」
「河空泉とか、吉田サクとか」
「あぁ、わかる気がする。そういう感じか」
「うんうん」
「僕も大概雑食だよ。それこそ趣味半分研究半分って感じだけど。参考にしたり、こうはなるまいと反面教師にしたり。石明等先生の影響が一番強いかも。漫画家を志した原点でもあるし」
「あ、はいはい私も『寄生中』大好き!でも作風はそんなに似てる印象ないなぁ」
「色々なモノの影響によるツギハギの作品だからかな」
「ツギハギか。模倣がいずれオリジナルになる、その途中なんだね。作風確立するまでは基本的には純粋に作品を楽しめないよね?辛いところだね」
那青さんは、僕のように仮定でキャラに代弁させるのではなく、他人の立場に自分の思考を当てはめて考えられる人なんだな。綺麗で賢い。いよいよ何故恋人がいないのか不思議でならない。
「漫画はまぁ素直に楽しめないのは認めるけど、音楽とかゲームとかを普通に楽しめてるから、漫画が楽しめなくて辛いとか思ったことないなぁ」
これは本音だ。漫画が好きでその世界に飛び込んだというのに、僕の心は純粋な漫画観賞を拒む。好きな物事を仕事にすると辛くなるとはよく聞くが、これもそうなのだろうか。まぁまだ卵の分際だけれども。今の僕は漫画を純粋に楽しむ余裕がない。漫画家の卵たる眼がどうしても作品に対し何かしら有益・無益を探してしまうのだ。
立場がそうさせるのか、個人の資質としてそうなってしまうのかはわからない。それがいつまで続くのかもわからない。
ん……、今の思考は長くなかっただろうか?……と、そう考えている今の思考も含め、『沈黙』になっていなかっただろうか。