第八話 勇者は行き倒れた、しかし命の恩人がターゲットである事を知らない
「おはようございますセリさん!」
「おはようございます。」
「元気ですか!」
「元気です。」
「何ですかこの会話!」
「始めたの貴女でしょう。こちらが聞きたいくらいです。」
朝食の場所と指定されたダイニング(大広間とも言う)に来てみれば既に黒コート人影が。他愛もない会話が出来るくらいには打ち解けた、と考えて良いのかな。
初恋相手とのLINEはこんな感じだったな、などという思い出は置いといて。
席に座るのを待ち構えていたかのような完璧なタイミングでメイド服を着た人形たちが料理を持ってくる。
因みにメイド服は私の提言だ。かわいい。
『朝食 でス』
「わぁ…!もう完璧じゃないですか!美味しそう!私超えてますよこれ!」
料理は生姜焼きを筆頭に2,3しか教えていない筈なのに、朝食にはシーザーサラダからエッグトーストまで様々な物が並ぶ。
「え、え?ドレッシングとか教えてないんですけど。」
『ナツキ様に ご教示頂イた レシピを 我々で 発展させました
お気ニ 召されマしたか ?』
「すっごい美味しいよ!」
『光栄 デス』
セリさんの自律人形が優秀すぎる。そして可愛い。
「よしよしよしよしよし…あー待ってー」
髪がさらっさらでいつまでも撫でていたいのだが、仕事は終わったとばかりにどこかへ去ってしまう。そしてしょうもないことを思い付くのは私の性か。
「セリさん」
「どうかされましたか?」
「あの子たちのほっぺぷにぷににできます?」
「ふっ」
「本気ですよ!?」
「ちょっと…ちょっと待ってくださいね…w」
笑顔は結構見せてくれるが、何気に笑った所を見るのは初めてかもしれない。
「…ッはぁ。無論良いですよ、コラーゲン等の材料を取りに行くので1日待ってくれればできると思います。」
「錬金術は使わないんですか?」
「使えばまぁ早いんですけど…何でも魔法で済ませてしまっては面白くないですからね。長く生きるコツは面倒臭い事を沢山こなす事ですよ。」
何事も刺激が大事、って事か。
「さて、それでは朝食を食べ終わったら私は行きます。何があるか分からないので外には出ないでくださいね。今のレベルであればパンドラ程度なら余裕だと思うので、城の地上部分は自由に探検してもらって構いません。自律人形達も仕事がそうある訳では無いので、話し相手に使っても良いでしょう。」
「了解!」
彼女らは流暢に話すけれど、命や魂がある訳では無いらしい。ただ人間と同じ様に学習して成長するらしいので、ただの機械でも無い。難しい立ち位置だ。
熟練の人形は感情も獲得するとかしないとか。すると良いな。
それなりに見慣れた魔法陣を刻み、セリさんは私のわがままによってどこかへ。
『『『行ってらっしゃいませセリ様』』』
なるほど、上の階では人形ちゃん達が挨拶するんだ。
さて、それじゃあ城内を探検しつつメイドちゃんにダル絡みに行くか…
「ッ」
悪寒。
金属が擦れる音が微かに聞こえる。
周りは自然音しか聞こえない環境。異質な音は、レベルによって強化された耳によく届く。
音は重なっていない…なら、1人か?
誰が?何のために?
目を閉じて視覚へ向ける意識を耳に集中させる。
音の原因は鎧…それもチェーンなどでは無く、鉄製の重鎧だ。
しかし音の間隔は不規則で、テンポも遅くなっている。
疲れか、或いは怪我か。どちらにせよかなり危ない状態だ。
震えは未だ治らない。何故…?
そうだ、今感じている空気が天使のモノと酷似しているからだ。
自身に従わない物を正義のもとに迫害する様な、狭心的な…聖属性、の魔力。
光とはまた違うもの。いつのまにかトラウマになってたんだな。
だが、無視する事はできない。
彼…彼女?ともかく門の外で倒れそうな人間は天使と違うかもしれない。
自己を省みようとしない甘さは何とかなるだろうと思う平和ボケか、それとも善意が勝っただけなのか。
自分でもよく分からない内に足を動かして城の外に出る。
「…私に挨拶はしないんだな」
新たな発見だ。
▽ ▽ ▽
音の主は結界を少し超えた所に倒れていた。
純白だったはずの鎧は泥と血で薄汚く汚れ、大きく切り裂かれた脚から血が少しずつ流れ出している。
髪は真紅、顔は貴公子系のイケメン。多分だが、中世程度の価値観や技術であろうこの世界で肌が綺麗に保たれている所でもかなり高い御家柄の雰囲気がする。
と、そんな事を言っている場合では無い。
魔法に関しては一切習っていないが、取り敢えず魔力を込めるだけでも助けになるらしい。持ってきておいた布で止血し、口を開けて水を飲ませ、傷よ治れと念を込めて魔力を送る。
なぜ布があるかって?メイドちゃんに頼んだから。
因みに朝食を持ってきてくれた子と同じだった。不思議な縁だね。
「…ぐ、う…」
私の(多分)そこそこある魔力が半分を切った辺りで反応が見られた。ただの体力切れ、もしくは血液不足の様で何より。
「大丈夫ですか?」
おっと、トラウマのせいで随分声が低めに。威圧したいんじゃない。
「ッ誰だ!?ぐぁっ…」
「その傷を止血して魔力を送り続けた通りすがりです。」
ほら飛び起きようとして悶絶してる。まだ傷は治ってないんだっての。
「ああ、それはすまん…命の恩人に失礼を働いてしまった。」
「大丈夫です。でも、どうしてこんな所に?」
「勇者の行軍だ。そう言えば伝わるだろ?」
「…はい」
ヤバい何も分かんない。そんな[キラーン!]みたいな歯を見せられたところで分かんないもんは分かんないんだよ!くっ、隠居の人と暮らしているせいか…!
「すみません、何分数年前から隠居していたもので…」
「?勇者はずっと前から居るぞ?」
終わったァー!!確実に選択肢間違えたァー!!
「…どこからが嘘だ。本当の事を言ってくれ、俺も恩人を斬りたくはない」
先ほどの申し訳なさそうな顔から一点、訝しげな目を向けられる。
くっ!こうなったら…社会人の秘技を使うしかない!
「全て嘘です!」
「何!?」
「実は、私はここで遭難していたみたいで…記憶が無い状態で、この近くに住む主人に拾ってもらったんです。その方が隠居していて、私も一緒に暮らしているのですが…何分常識や知識がどこまで抜け落ちているか分からないので、人とは近寄るな、疑われたら隠居していると言えば大体はなんとかなる…と」
秘技1、落としてから上げる!大きな事を言って疑って貰いそこから事実を話す事で相手を安堵させ、精神的に油断させる!
そして秘技2、嘘は付かないが本当の事を捻じ曲げて話す!
記憶が無いのもセリさんに拾ってもらったのも本当だ!しかも隠居云々など色々な対応を主人が言ったとはどこにも書いていないッ!!
「…確かに、嘘はついていないな。話そのままなら合点も行く。
まさか勇者を介抱する事になるなど、ご主人も考えてはいなかっただろうからな。」
乗り切った…ッ!!生きてる!しっかしこの子純粋だなぁ!
「ならば、ご主人に会わせて貰えないか。お礼もしたい。」
ヤヴァイッッ!!
何がヤバいかって?必死で私から隠そうとしてるけど彼は多分魔王だからだ!
思いっきり「魔王様」って言われてるの何回か聞いたし!!
古来より勇者と魔王は敵同士。古事記伝にも書いてある。
しかもあの人は理性的に見えてかなり喧嘩っ早い。目の前で剣を抜かれてまあまあ対話を…なんて言い出す人じゃ無い。
つまり?
セリ&勇者邂逅→即バトル→ひ弱な障壁を張る私→消滅!
さらに隠れていたであろうセリさんの居場所はバレて人間界との全面戦争!
どうしよう!何とかしてコイツを追い返さないと!
「なぜ主人に会う必要が?お礼なら私でもできるでは無いですか。」
「それはな」「そもそも、貴方が本物かどうかすらわからない!」「は!?」
さあ純粋君め怒涛のヒス構文を喰らえ!
「ここに来た理由も傷を負って倒れていたのも私には何もかも明かされないのにお伽話にしか存在しない筈だった勇者とだけ聞いて信じられると思います?貴方が連続殺人鬼で追手から逃げていたと言われる方がまだ信憑性があります。「わかった、わかったから」分かったじゃありません。貴方はまだ半分も理解していない。私の家を特定して乗り込んでどうするつもりですか?きっと周りには仲間が沢山待機していて合図を鳴らしたら一斉に乗り込んで金品を奪うんでしょう!?女の私と歳のいった主人では貴方の仲間どころか剣を持った貴方にも勝てるかどうか分からないんです!家に溜めてある食料もそう多いわけではない!頼むから見逃してください!」
「何をッ…だが、確かにそうだ。後半の部分には大いに異論を唱えたい所だが、俺が何も明かす事ができないのは事実だ。助けて貰った事は紛れも無い事実だが、こんな森の奥地で人と出会う事自体無くてな…
お嬢さん、最後にこれだけ確認させてもらえないか。」
「ここでできる事なら。」
「縺雁燕縺ッ莠コ髢薙°」
今、彼が上げたのは言語…とも思えない様な歯車の軋むような音。
セリさんの翻訳魔術のお陰だろうか、意味は分かるが…
直感で、人間は分からないモノだと感じた。
「…え?」
だからすっとぼける。何のことかわからない様に。
静寂が、流れた。
「そうか、俺の心配は全くの杞憂だったな。今までの非礼を重ねて詫びよう。そして、命を救ってくれてありがとう、お嬢さん。」
「いえいえ、お大事になさってください。それと…今の声は?」
「気にするな。ちょっとした…呪文みたいなものだ。」
「そうですか…」
後でセリさんにでも聞くとしよう。彼は聞いてほしく無さそうだから。
「俺はここら辺に用事があるからな、もしかしたらまた会うかもしれない。
そうだ…名前は?」
「私はナツキと言います。九堂 夏樹です。」
「というと、東国の生まれか…俺もこの任務が終わって思い出したら探しておく。記憶、戻ると良いな。」
やっぱりこの子超優しいぞ。
「ありがとうございます。」
こうして勇者は熊の如く森の中へ帰って行った。




