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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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96.いきなり戦闘

 96.いきなり戦闘


「ここって……」

 エリザベートが辺りを見渡しながら言う。

 俺たちが乗った馬車を、4匹の飛竜が着地させたのは、

 どこか見覚えのある、森に囲まれた原っぱだった。


「……ガウールじゃないですか!」

 ジェラルドが遠くに見える山々から位置を割り出したらしい。

 それを聞いてフィオナが喜びで叫んだ。

「ええっ! メアリーにも会えますね!」


 無邪気に喜ぶ彼女に、キースは真顔で告げた。

「まあ、生きてこの森を抜けられたらな」

「……どういうことだ」

 キースが指し示した先を見ると、森の手前の地面に

 大きなひび割れが入っているのが見えた。

 地割れなんて。この辺りで地震でもあったのだろうか?


 それは縦に5メートルくらいだが、

 一番開いた部分でも幅は30センチに満たないものだった。

 俺たちはその亀裂へと向かい、ゆっくりと覗き込む。


「意外と深いな……」

「なんで裂けたんでしょう」

 俺とジェラルドは首をかしげる。

 手をかざすと、亀裂からは風が吹いてくるのを感じる。

 結構、強い風だった。下は空洞になっているのか?


 ふと振り返ると、遠く離れたままエリザベートとフィオナが立っている。

 二人の間でキースが、彼女たちの肩に手を置いているのが見えた。

 ……と、いうことは。


「離れろ! ジェラルド!」

 俺が叫び、彼と共に後方に飛び下がった瞬間。


 シュワッ……シュワシュワッ……


 どこか炭酸が抜けるような音をさせて、

 その亀裂から白い何かが噴き出してきたのだ。

「うわっ! なんだこれは!」


 大慌てて後ずさるが、それは3メートルぐらい噴き上がった後、

 ドロン、という粘性をみせながら、こちらに流れ込んできた。

 そしてグニャグニャと波打った後、少しずつまとまってくる。


「レオナルド!」

「大丈夫ですか?」

 エリザベートとフィオナが駆け寄ってきた。

 さっきキースが二人を行かせまいと

 ガッチリ制止しているのを見て気付いたのだ。

 この亀裂は危険なものだ、と。


 キースは彼女たちにこれが直撃しないように気を配ったのだろう。

 ……中途半端な紳士だな、おい。


 俺たちの目の前で、白くネバついたそれは3個の塊になった。

 やがて細長く縦に伸び、先が丸くなり……その下から2本の腕が生え……

「……おい、人型になったぞ」


 白い粘土で作った、つなぎ目の無いデッサン人形のようだ。

 ベトベトした質感で、表面は泡を含んだようにデコボコしている。

 真夜中の呪われた洋館の廊下に歩いていそうな風貌だ。

 気持ちの悪さと不気味さが、昼間の爽やかな草原に不似合いだった。


 3体はそれぞれ、ぶるぶると震えながら前進してくる。

 どうして良いかわからず、それを見ているだけの俺たちだったが。


「ぱうっ!」

「ぱうぱうぱう!」

 ファルたちが眉毛をキリッと上げ、

 それらに向かってさかんに吠えたてている。


「もっと下がれ! こいつら攻撃してくるぞ」

 ファルファーサは敵意を読むのが上手い。

 ”白い人型”は案の定、頭部の中央に丸い穴が開けたかと思うと

 そこからボゴッ! っと何かを吐き出したのだ。


「うわっ!」

 のけぞった俺の足元でそれは地面へと張り付く。

 するとそれがまとわりついた草が、みるみる枯れていったのだ。


「これはまた……強力な除草剤だな」

 俺がキースに向かってそう叫ぶと、彼から返事が聞こえた。

「除くのは草だけじゃないよ。生き物全てだ」


 そして苦々し気に続ける。

「これのせいで、ダンの利き腕はダメになったんだ。

 だいぶ回復はしたけど、もう剣では戦えない」

 父は”死の断層”に落ち、2年かけて這い上がって来たと聞いた。

 こいつらと戦い、怪我を負いつつの日々だったのか。


 それを聞き、俺よりも怒ったのはエリザベートだった。

 順番にボコボコこちらに打ってくる奴らに

 強力な火炎魔法”ファイアストーム”を浴びせる。

 ……が、しかし。


「まったく効かないわ!」

 エリザベートが困惑した声をあげる。

 代わりにジェラルドが剣を構えるが、俺はそれを制した。

「あの粘性だ。剣がダメになったらもったいねえ。

 ……まずは石を投げてみようぜ」


 ジェラルドはうなずき、足元の石をひろって素早く投げつける。

 それはジュッ! と音を立てて、白い体を貫通していった。

 しかし空いた穴は瞬時に塞がっていく。


「”フレイムナイフ”」

 エリザベートが魔法で首を切断するが、

 それはポトリと落ちた後、足元で小さな人型に変形してしまう。

「ごめんなさい……増えてしまったわ」

 エリザベートはしゅん、と落ち込むが俺は笑って言う。

「重要なことが判ったんだ。必要なアクションだ」


 俺はもう判っていた。

 キースは俺たちに、ノーヒントで”これと戦ってみろ”といっているのだ。

 彼はすでにこの場を離れ、馬車にもたれながら

 腕を組んでこちらを笑顔で見ている。

 俺の視線に気が付くと、ご機嫌な様子で片手をあげた。

 ……ちくしょう。


 フィオナがすでに緑板(スマホ)で検索していたので

 他の三人は期待に満ちた目で待ち構えていたが、

「”倒す方法”を検索しても、”無い”って出ますっ!」

 という絶望的な回答を返され、がっくりと肩を落としてしまった。


 どうすんだよ、これ。

「倒せないなんて……この先を考えるとマズいだろ」

 これが例の、王妃が操る光魔法の一部であるのは間違いないのだ。


 ”白い人型”はじわじわと、足元を粘つかせながら歩いてくる。

 粘性が高いことを表すように、時おりブルルル、と震え、

 顔の中央に空いた穴を、呼吸するように伸縮させている。


 めちゃくちゃ不気味で奇怪な姿なのに、

 全身からものすごい光の属性を放っていた。

 ただし、俺たちの知っている光属性とは別物の。


 これをどうやって親父は……そこまで思って、はたと気が付いた。

「倒せなくっても、動きを抑える方法はあるんだろ?

 親父たちはそれをやっているはずだ」

 エリザベートが緑板(スマホ)で検索を始める。


 するとフィオナが叫んだ。

「危ない! 逃げて!」

 フィオナが案じたのは俺たちではなく、

 ”白い人型”の足元にいた小さなヤモリだった。


 運悪くヤモリは、白いドロドロの一部をその尾に浴びてしまう。

「嫌っ!」

 フィオナは叫び、聖なる力でヤモリに”癒しの風(ヒールウィンド)”を浴びせたのだ。

 たちまち吹っ飛んでいくヤモリ君。


 彼が落っこちた先をみんなで探すと……

 大慌てで去って行くヤモリの姿を見つけることが出来た。

 シッポはまた生えるさ、良かったな。


 すると後方でエリザベートが叫ぶ声がした。

「見て! 動きが止まっているわ!」


 慌てて人型を見ると、彼らは完全に動きを停止していた。

 それどころか粘性を失い、凝固してしまったかのようだ。

「もしかして?」

「……たぶん」

 とまどうフィオナを俺が促す。そして彼女はもう一度、

 今度は威力を強めて”癒しの風(ヒールウィンド)”を直撃させる。


 真っ白な体が化学変化を起こしたかのように、

 ゆっくりと透明になっていった。

 そしてそのまんま、凝固している。


 しかしすぐにゆっくりと、ふたたび白く濁り始めたのだ。

 俺はジェラルドとエリザベートに向かって叫んだ。

「試しに攻撃を……」

 そこまで言った時。

 ヒュン… ヒュン… ヒュン…

 

 どこかで風を切る音が聞こえた。そして。


 ガシャン! ガシャン! ガシャン! 


 ガラスが割れる音がして、三体が目の前で砕け散ったのだ。

 砕け散ったそれは、さらさらと細かく崩れ落ち、

 最後には水のように大地へと吸い込まれていった。


 俺はそれから視線を外し、ゆっくりと左の森を見た。

 そこに立つ人を見た時、息が詰まって言葉を失う。


 俺と同じ濃い金色の髪、同じブルーの瞳。

 真っ白だった肌は日焼けし、化粧など全くしていない。

 しかし、記憶の中よりもずっと美しいと思えるその姿。


 優しい笑みを浮かべ歩いてくるその人を見つめ、

 俺の中のオリジナル・レオナルドがつぶやいた。


 ”……母上”、と。


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