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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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95.醜悪な光

 95.醜悪な光


「なあ、親父たちが戦っている相手って、具体的には何なんだ?」

 緑板(スマホ)で検索しても、その問いの答えとして出てくるのは

 ”(せま)()る光明”、という言葉だけだ。


 俺たちは今、飛竜を4体使った乗り物で移動している。

 元世界ではもちろん飛行機に乗ったことがあったが、

 ”馬車の4隅に頑丈な鎖を付け、それを飛竜の首に付ける”、

 という、ファンタスティックかつホラーな乗り物に乗るのは

 この異世界に来て初めてだった。


 エリザベートは、オリジナル・エリザベートの記憶を引っ張り出し、

 なんとか自制しているようだったが、

 俺やジェラルドは涙目になって顔を見合わせていた。

 ファルたちは団子になって、俺たちの足元でぐうぐう寝ていた。

 ”空を飛んでいる”、ということに気付いていないのだろうか。


 フィオナは最初怖がっていたが、だんだん楽しくなってきたらしく

 興奮気味に外の様子を実況してくれる。

「きゃー! 高いです! 人が豆からゴマになりました!」

「ああっ! 山のてっぺんにぶつかりそうです!」

 ……偏見かもしれんが、なんで女の方が、

 絶叫系アトラクションに強いヤツ多いんだろうな。


 俺は気を紛らわせようと、キースに質問することにしたのだ。

 勇者の敵って、やっぱり魔王なのか? そう思って。

「やはり魔王、とかでしょうか?」

 フィオナも俺と同じ考えのようで、キースにそう問いかけるが、

 キースから馬鹿にしたような目で見られ縮こまる。

 ああ、声に出して聞かなくて良かった。


「……あれは人間でも魔物でもない。

 意識が具現化したものの集合体、かつ個体なんだよ。

 だからやっかいなんだ。実に戦いにくくてね」

 キースはめんどくさそうに答える。

 そして足を組み替え、俺たちに説明してくれた。


 フリュンベルグ国の北側の大渓谷、

 ”世界の果て”、またの名を”死の断層”。

 そこから凄まじい光の魔力が、不定期に沸き上がって来るのは

 エリザベートの母であるローマンエヤール公爵夫人から聞いていた。


勇者(ダン)はあの場に異変が起きている、と王家に命じられ、

 王家が用意した部隊を引き連れて見に行ったんだよ。

 その部隊が全員、自分を殺すための刺客だったとも知らずにね」


 勇者を亡き者にし、母上を手に入れるため

 シュニエンダール王家がそんな汚い罠を仕掛けたのだ。


「ダンは途中で気付いたが、()()()()()()した挙句、

 なんと自ら”死の断層”へ飛び込んだそうだ。

 まあ、生き残る可能性に賭けたんだろうな」


 怒りに震えるエリザベートが、キースに尋ねる。

「その刺客たちはどうなりました?」

「ん? もう一人もいないよ。彼らには天罰が下ったからね」

 安心しなさい、と言わんばかりに彼女の頭を撫でるが、

 おそらくそれはキースによる”人罰”だったろう。


 キースは親父を後から追いかけたと聞いていた。

 だから一人残さず、彼が抹殺したのではなかろうか。


「誰も生き残っていないから、王家も真相がつかめなくてね。

 とりあえず死んだってことにしたようだけど」

 でも、親父は生きていた。

 そして運よくキースと会うことが出来たのだ。


「ずっと叔父様は、探しに行ってくださったんですよね?」

 エリザベートが尊敬と愛情の混ざった眼差しを向けて言うと、

 キースもうれしそうな笑顔でうなずいた。

「ああ、ダンがあんなことで死ぬわけないって思ってたし。

 拷問にかけた刺客から”谷底に向かって飛んだ”と聞いた時から

 迎えに行かなくちゃなって思ってたよ」

 ……やっぱり刺客たちはドエライめにあったんだな。


 フィオナが嬉しそうにたずねる。

「それで会えたんですね。ああ、良かったです!」

 何年も前のことなのに、フィオナは手を組んで喜んだ。


 キースは面白そうに彼女を見た後、話を続ける。

「ダンは”死の断層”の底から、2年近くかけて這い上がって来たんだ。

 補助魔法をフルに使って、慎重に、少しずつ。

 途中に生えてる草や小動物を食べ、雨水を蓄えてね」


 それだけでも苦労がしのばれるが。

 キースはさらに、あの場所の恐ろしさを告げる。

「何より、あれに見つからないようにするのが大変だったそうだ。

 遠目に見れば点々と光り美しいが、

 近くに寄って見れば醜く恐ろしい”光明”たち」


 エリザベートが眉をしかめて言う。

「醜い光……想像もつきませんわ」

 キースは彼女に、優しい口調で諭すように言う。

「いいや、君は知っているはずだ。

 正義のふりをした狂気を。善行の名をかたる迫害を」


 困惑し瞳をゆらすエリザベート。

 俺たちも意味をつかみそこねて戸惑っていると。


 キースはそのまま、彼女から視線を外し話を続けた。

「ダンはあれと対峙しながら、あの異様な光魔法が

 ”イライザの魔力と同じ波長だ”と気付き

 彼女の良からぬ野望に勘づいたんだ」


 地中から湧き出た真っ白な光を思い出す。

 そうだ、きっとカデルタウンのようになるのだ。

 浴びた人々が一瞬で生ける屍と化した、あの町のように。


「俺もダンを探す2年間のうち、

 あそこから湧き出る光魔法の異常さには気づいたよ。

 それが王妃の”動き”とシンクロしていることにもね。

 調べる毎日だったけど、ある日やっと崖の下方にダンを見つけ

 飛竜で保護した時は……さすがに泣いたよ」


 キースは真顔のままで言うが、俺は胸が熱くなった。

 彼らの友情が報われたことに、今さらながら神に感謝する。


 キースはざまあみろ、という顔で言う。

「でも王妃がダンをあの場に追い込んだのは、

 結局自分の首を絞めることになったんだ。

 ダンと俺が()()の存在に気付き、活動を抑えたことで、

 王妃は世界を()()で覆いつくす計画を

 進めることが出来なかったんだから」


 そう言えば以前、緑板(スマホ)で”王妃は何を企んでいる?”と検索した時。

 応えは、”この国を光で満たす”だったのだ。

 教会がよく掲げているスローガンだから気にも留めなかったが

 世界をゾンビ化するとは、なんと恐ろしい計画だったのか。


「それでダンと相談したんだ。

 王妃の計画を阻止するには、死んだままにしておくほうが良いって。

 ただブリュンヒルデには伝えたが」


「そして機を見て、俺の宮殿に連れて来たのか。謎の行商人として」

「へえ! 気が付いてたのか!」

 感心するキースには悪いが、俺は首を横に振る。

「いや、最初にキースに会って、母上が生きていると知ってから、

 いろいろ遡っていくとあの行商人以外考えられなくてさ」


 キースは懐かしそうに眼を細める。

「お前が夜、寝ている間に、先にブリュンヒルデに会わせたんだよ。

 平静でいられるわけはないからな。

 お前の寝顔を見ながらダンは号泣してたよ。

 ”2年間の地獄が(むく)われた。

 ブリュンヒルデ、よくぞこの子を守ってくれた”って」


 幼過ぎる俺はそんなこととは知らず、

 行商人の持ってくる珍しいアイテムばかりに気を取られていたのだ。


「まあ、もうちょっと脱出のタイミングは後のつもりだったけど

 ルクレティアが生まれるまでに逃げないとならなくて」

 ……妹だったのか。ルクレティアって言うのか。


 兄妹のことを知り動揺する俺を気にも留めず、

 キースは外を眺めつぶやく。

「お、そろそろ着くぞ」

「久しぶりに皆さんにお会いできますね!」

 嬉しそうに言うフィオナに、キースは冷たい目を向けて言う。

「ダンやダルカンたちは、あの場を離れることはできないと言ったろ?

 会うのはブリュンヒルデだけだよ。彼女は”連携役”だからね」


 そう言えばガウールでも、キースが言った言葉は、

 ”……では、お前の母親に会わせてやろうか”、だったのだ。

 親父には会うのは相当難しいのかもしれない。


「沸き上がって来る()()と対峙しなくてはならないからね。

 王妃も力をつけてきたし、もう抑えるのが手一杯で。

 ほんと、ダルカンとユリウスが来てくれて助かったよ」

 キースはふうっと息をつく。本当に大変そうだな。

 俺に何か、出来ることはあるだろうか。


 ジェラルドが何かに気付いたように、キースに質問する。

「ブリュンヒルデ様が以前から、各国と交渉を?」

 俺の中の母上は、綺麗なドレスを着せられて、

 寂しげに窓の外を静かに眺めている姿だった。

 まさか世界を文字通り飛び回り、外交を請け負っているとは。


 キースは当たり前のようにうなずく。

「そうだよ。彼女が各国に赴いて、

 現状の報告と今後の作戦を話し合うんだ。

 ……彼女が頼んで動かない国は無いからね。

 なんといっても”実在する女神様”、だからさ」

 そこでやっと、俺はジェラルドの質問の意図を理解した。


 ロンデルシア国、チュリーナ国、

 フリュンベルグ国、そしてシャデール国。

 なんで世界がいつも俺たちに協力的なのか、

 やっと理由がわかったのだ。


 どの国も元・勇者が生きていて、

 まだ戦いは続いていることを知っていたからだ。

 そして世界はふたたび、さらなる脅威にさらされていることも。


 急に飛竜たちが急降下を始めた。

 どんどん下に降りていくことを感じる。


 フィオナが歓声をあげ、ジェラルドがそっと目を閉じ、

 エリザベートが俺の腕にしがみつき、キースに俺が睨まれる。


 俺は今さらながら数年ぶりに会う母上を前に

 ガチガチに緊張している自分に気付き

 苦笑いでキースを見返していた。


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