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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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93.国王の宣誓と王妃の天啓

 93.国王の宣誓と王妃の天啓


 友人の領地であるカデルタウンを一瞬で”死の町”に変えた、

 恐ろしいまでに強大な王妃の力。

 これに対抗するには全世界を巻き込んで

 迅速に、かつ派手にやらねばならなかった。


 中途半端な反撃では、その周囲の人々を巻き込んで

 王妃の異常な光魔法”大光明トータルステロウ”を食らい、

 あっという間に”生ける屍”にされるだけだろう。


「……まあ、冷静に考えたら、この国全体をあの魔法で攻撃し

 国民を全員アンデッドに変えたところで、

 王妃(あいつ)にメリットはないんだもんな」

 俺がそう言うと、ジェラルドもうなずく。


「自国に核兵器を撃つようなものですからね。

 脅しには使えても、早々執行できるものではありません」

 とはいえ、底なしの魔力や未知の攻撃呪文は

 やはり途轍(とてつ)もない脅威に違いない。


 だから俺たちは、盛大に()()()()ことにしたのだ。

 俺とフィオナは第二王妃に接触を図り、

 エリザベートとジェラルドは次兄を助ける。

 そして彼らに俺の無実を証言してもらうだけでは飽き足らず、

 暗殺未遂の一部始終を”実況中継”することで、

 シュニエンダール王家の醜聞を引きずり出したのだ。


 作戦はおおむね成功し、無事に次兄の暗殺を阻止し、

 濡れ衣をかけられることは逃れたが。

 今の状況としては”混沌(カオス)”、その一言に尽きるだろう。


 ”他国で活躍したのは第三王子ではなく、本当は第二王子だった!

 第三王子はその成果を奪った挙句、第二王子を口封じのため()()()

 王家が国内に広めていた、強引で根拠のないデマ。

 元世界で言えば、スポーツ紙の見出しレベルの情報だ。


 俺を”極悪人”として仕立て上げたかったのだろうが、

 この情報のせいで王家から発信される情報は

 ”信ぴょう性がゼロ”だと鼻で笑われたり、

 ”何か裏がある”と懐疑的な目で見られるようになっている。


 そして今、人々は興奮気味に、

 王家の中で起こっている争いについて、

 さまざまな推測を飛ばしているようだ。


「王族に冤罪をかけるための、王族による、王族暗殺計画……」

 フィオナがつぶやく。

 ……リンカーンみたいに言うな。


「……それにしても、だ。王妃だけじゃなく、

 ”国民を人質にしてる”のは俺も、だったんだな」

 俺が生まれた時に下された”天の啓示”は

 ”俺が国を去れば、シュニエンダールは滅び、

 国に留まるとこの国は破壊される”、という物騒なものだった。


 俺の動きひとつで、この国の行く末が決まるのだ。

 国王たちがいままで、中途半端にしか

 俺を攻撃できなかった理由はそれだろう。


「すごい情報だったわね。たぶん公爵家(うち)の両親も知らないわ。

 国王たちがどうして、あなたの扱いに手を焼いているか

 父も母もずっと、謎だったのよ。

 あなたには何かある、そう思ってはいたみたいだけど」

 エリザベートはそして、気まずそうな顔でつぶやく。


「私、あなたに”ガウールで辺境伯になって、

 なんて言ってしまったけど。

 大変なことになるところだったわ」

「大丈夫さ。どうせ連れ戻されたろうし」

 俺はそう言って慰め、国王たちのことを考えた。


「去るのも、留まるのもダメ……

 あいつら、俺を殺したかったろうなあ。

 キースが国王に”神に対する誓約”をさせてなかったら

 とっくに始末されてたぞ」

 ”神に対する誓約”は絶対であり、強制力も半端ない。

 あの天才魔導士の先見の明には頭が下がる思いだ。


 以前、国王がどのような宣誓をしたのか緑板(スマホ)で調べたら。

 母上が第三王妃としての立場を受け入れることを条件に

 ”自分の血縁の者すべての命を守り、

 他の王族や貴族にも手出しはさせない”、という誓約だった。


 それに平民が含まれていないのは、

 さすがにキースの魔力を持ってしても、

 そこまでを宣誓対象にするのは難しかったらしい。


 だから”クズの大悪党”に仕立て上げ、

 民衆の悪意を俺に集めて殺させたかったのだろう。

 もしくは危険な任務で魔獣に殺させるか。


 それでも国王は、俺の暗殺を命じることは不可能だし、

 王妃や他の誰かが俺を殺そうとするのも、

 全力で阻止しなくてはならないのだ。


 緑板(スマホ)で過去の経緯を読むと、

 以前国王に、俺を()()()()ことを進言した者がいたらしい。

 するとつい先ほどまで、”邪魔”だの”クズ”だの

 俺を激しく(ののし)っていた国王の態度が急変し

 顔を真っ赤にして立ち上がり、叫んだそうだ。

「この者を捕らえよ! 牢に入れず、そのまま処刑せよ!」


「酒の席の軽口です、お許しください!」と

 必死に泣きながら許しを請うその者を蹴り上げ、

 その場で斬首させたそうだ。

 ……すごいな、”宣誓”の力って。


 それ以降、俺に手出しをする者はいなくなったらしい。

「自分が一番、俺を消し去りたいんだろうに、

 それどころか守らなきゃいれないとは。皮肉なもんだ」


 国王は、母上が親や兄弟を守るために

 こんな条件を出したと考えたのだろう。

 だから易々とこれに同意し、まんまと宣誓したのだが。


 実際は、お腹の中の俺を守るための誓約だったのだ。

 だがそのせいで、母上は一か月弱の間、

 あの男の第三王妃として過ごさねばならぬ地獄を見たのだ。

 俺を”国王の子”だと思わせるためには、それしかなかったから。

 どれだけ不快で、屈辱的だったことか。


 勇者(父親)の安否がその時点で分からなかった以上、

 絶対に俺だけは守ろうとしてくれたのだろう。


 申し訳なさと怒りにうつむいていた俺に、

 エリザベートがふと、緑板(スマホ)に入力を始めた。

 そして眉をひそめながらつぶやいた。

「……カデルタウンにレオナルドが居ると知っていながら、

 王妃は攻撃したのよね? それって……」


 俺たちは立ち上がり、エリザベートのスマホを覗き込む。

 それは確かに、俺を傷つけたり殺そうとする振る舞いだろう。

 ”誓約”としてはマズイんじゃないか?


「……やっぱり!」

 エリザベートは思わず声をもらす。

 検索の内容は”シュニエンダール国王の現在の状態”だ。

 そしてその結果は。

「”心神喪失し、危篤”か。

 ……王妃め、国王を切り捨てることにしたのか」

 俺は眉をひそめ、フィオナはため息をつく。


 国王は王妃の”攻撃”を止められなかったのだ。

 そして重要な手駒であるはずの国王の命を削ってでも、

 自分の立場を脅かす俺を、王妃は絶対に排除するつもりなのだろう。


 フィオナがめずらしく、神妙な面持ちで言う。

「でも、王妃にはもう一つの縛りがあります。

 彼女にとって、その方がやっかいかもしれません」

 俺はうなずく。その通りだ。


 ”俺がこの国を出て行くと、この国が滅びる”。

 そう天啓を受けたのは彼女自身であり、

 それが間違いないことであるのは、

 誰よりも本人が知っているからだ。


 彼女は絶対に、俺をこの国から逃しはしないだろう。

 そして生かしておくつもりもさらさら無いだろう。


 その時。

「大変です! 見てくださいっ!」

 今までずっと黙って検索していたジェラルドが叫んだ。

 俺たちはさまざまな人物の動向を抑えなくてはならないので

 その作業は当然なのだが。


 俺がジェラルドの緑板を覗き込むと、その表示に衝撃を受ける。

 ”今回の第二王子暗殺の主犯は、王太子カーロスの疑い。

 彼が国王に成り代わり、暗殺部隊を使って犯行を企てた”


「……すでに国内外に広く報じされているようです」

 ジェラルドが俺の横でつぶやく。


「なんで、あいつが……」

「理由は、”光属性”を持つ王太子妃との離縁により、

 自分の立場が弱くなり不安に駆られ、

 王位継承権を持つ他の王子をまとめて排除することにした”

 ……ですって。ちょっと強引だけど」

 エリザベートは首をかしげるが、俺は首を横に振った。

「王命でしか動かない暗殺部隊が動いたんだ。

 王族が関与していたことを否定するのは不可能だ。

 これしかなかったんだろうが……あいつ……」

 王妃は夫である国王だけでなく、我が子すら犠牲にしたのだ。

 自分の立場と目的を遂行するために。


 親父の生存をキースや公爵家が公表しなかった理由は

 ”世界が危険にさらされるから”だった。

 王妃イライザが戦争を起こし多数の犠牲を出してでも

 ”勇者(自分を振った男)”を殺そうとするのは間違いないから。


 王妃は自分の目的のためなら、どんな犠牲もかまわない女なのだ。

 今さらながら、その強烈なエゴイズムに不快感を覚える。


「あの人は聖女でも、魔族でもありません」

 後ろからフィオナの声が聞こえ、振り返る。

 彼女は怒りに震えていた。

 そしてまっすぐに俺たちを見て、神託のように告げた。


「……彼女はただのクズです。

 ただの、自己中で傲慢なクズ王妃です」


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