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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
第三章

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75.王族の手柄

 75.王族の手柄


「”大連続狩猟”の”ソロ周回”より、(ラク)でした」

「……まじかよ」

 ジェラルドの報告に絶句する俺の背後で、

 フィオナが、(はてな)顔のエリザベートの耳元に

 ”例の、モンスターを狩るゲームの話ですよ”

 とささやいているのが聞こえる。


 俺たちは討伐を終えたジェラルドと合流するため、

 フリュンベルグ国の王宮に来ていた。


 そこで久しぶりに会ったジェラルドは、

 かなり疲れているはずなのに瞳を輝かせ、

 さらに貫禄のようなものをにじませていた。


 彼の活躍は緑板(スマホ)とフリュンベルグ国からの連絡、

 そして同行したローマンエヤール公爵軍兵からの報告で、

 知ってはいたのだが。


 一緒にここに来たライザ・ローマンエヤール公爵夫人が言った、

ジェラルド()を私の隊に譲って欲しいと本気で願うが……

 どうせ時間の無駄となる。だから交渉はしない」

 という言葉も、彼の活躍ぶりを実感させた。


 しかしそれ以上に、他の兵が彼を見る眼差しが、

 あまりにも特別であることに感動していた。

 憧れるような、崇拝するような視線なのだ。

 そのことが何よりも、彼がここで

 十二分に成果を上げたことを物語ってる。


 砂塵の舞う火山のふもとに立ち、

 ”まるで彼に引き寄せられるように”現れる魔獣を一網打尽に叩き切る。


 火山を少し登ったかと思えば、

 ”そこに現れることを知っていたかのように”

 地中から現れる妖魔を次々と殲滅(せんめつ)する。


「何もかも動きに、まったく無駄がないんだ。

 移動も最小限、発見したらすぐに弱点を攻撃。

 本当にあっという間に倒してしまうんだよ」


「剣技のバリエーションや倒した数もすごいが、

 倒し方もいろいろあったなあ。

 性質や動きを知り尽くしていて、それを利用するんだよ。

 魔獣2体をわざと対峙させて、

 攻撃させ合って弱ったところを仕留めたり。

 水が苦手なやつをわざと湖まで追い込んだりさ」


 同行したローマンエヤール公爵家の兵だけでなく

 討伐に居合わせたフリュンベルグ国の兵までが

 興奮気味に彼の戦いぶりを語り合っているのだ。


 彼はすでに”疾風の武神”だの、”剣技無双の剣聖”だの

 さまざまな二つ名が付けられ、

 国内外で有名人(ヒーロー)と化していた。


 エルファラ高原で聖騎士団の代わりに

 魔獣デスワームを倒した時より

 比べられないほどの知名度と名声を得たのだ。


 これは、三つ目の”騎士の称号”はカタいな。

 俺は内心ほくそ笑みながら、案内された王宮内に入っていった。


 ************


「……どういうことだ?」

 俺は思わず声を荒げる。

「レオ。まずは話を聞こう」

 ライザ・ローマンエヤール公爵夫人が

 落ち着かせるように、俺の肩に手を置く。


 目の前には壮年のフリュンベルグ国王と、

 彼の息子であるフリード王子が立っている。

 二人とも黒目黒髪、涼しげな切れ長の目の整った風貌で

 ”どう見ても親子”といった雰囲気を醸している。


 ”形式的な無駄を嫌う”というこの国の性質は嫌いじゃないが

 久しぶりに会ったフリード王子は挨拶もそこそこに

 俺たちに不平そうな声で言い放ったのだ。

「ジェラルド殿のご活躍は、国全体で感謝しております。

 しかしながら”騎士の称号”は授与することはできません」


 その言葉を聞いて、俺の”どういうことだ”が発せられたのだ。

 眉をひそめるエリザベート、悲し気なフィオナを一巡し、

 フリード王子は俺を睨みつけながら言う。

「どうしてって、貴方のせいですよ」


 フリュンベルグ国王は息子を制しながら言う。

「……正確には、シュニエンダール王家の要請だから、だ。

 我が国に出兵する条件の中に何故(なにゆえ)

 ”どんなに成果を残そうと、この討伐の報酬として

 騎士の称号を与えてはならない”とあったのだ」


 理由が判り、俺はがっくり肩を落とし、両手で膝を抑える。

 ……あのクソじじいども!


 ジェラルドがこれ以上、世界的に地位を高めることを恐れたのだ。

 彼が国内では聖騎士団にすら選ばれず、

 まったく評価されていないことは、

 シュニエンダール国の軍がいかに

 ”貴族重視の形式的なもの”であるかを露呈するから、だろう。


 フリード王子は呆れたような目で俺に言った。

「それだけではありません。

 ”シュニエンダール兵への報酬は、金品も名誉も全て、

 シュニエンダール王族へ献ぜよ”とのことだ。

 まったくご立派な事だな」


 俺は情けなさと恥ずかしさで顔も上げられない。

 アイツらと血は繋がっていないが、

 俺はまだ、あの腐りきった国の王族なのだ。


 ジェラルドだけでなく、今回の討伐に参加した者達に、

 顔向けできるわけがないだろう。


 シュニエンダール国は今回の討伐に、

 何か新しい武器や鎧を用意したわけではない。

 それどころか、この地に来るのもほとんどの兵が

 馬を使って自力で来たのだ……それなのに。


 フリュンベルグ国王は俺に、

 あくまでも冷静な口調で告げる。

「貴国には貴国の事情があるのだろう。

 すまんが契約上、我々はそれを(たが)えるわけにはいかない」


 俺の後ろでライザ・ローマンエヤール公爵夫人が答える。

「承知しました。

 我が国の兵に対する報酬は、公爵家がご用意いたします。

 お気遣いは無用でございます」


 公爵家がそう言い出すことも、王家の計略だ。

 自分たちの代わりに出させようと仕組んだのだろう。

 そのためにこの場に、公爵夫人を派遣したようなものだ。


 うつむき続ける俺の後ろで、ジェラルドが朗々と告げた。

「もとより金品や名誉のために参ったわけではありません。

 少しでもこの国の憂いを(はら)えたなら、

 それで十分満足でございます」


「それはそうですけど……みっともない理由で

 ”騎士の称号をあげるな”っていう精神に、腹が立ちます」

 身もふたもないくらいハッキリと、フィオナが言う。

 彼女のこういうところは本当に良いと思う。


 それに応えるかのように、フリード王子も文句を言う。

「本当ですよ、”名誉”が最も適した報酬なのに。

 彼の働きに見合った報酬を金品で用意するのは

 我が国の経済情勢では苦肉の策ですよ。

 勲章の原価なんてたいしたものではありませんから」


 ”こいつ大丈夫か?”、と思いたくなるほど、

 国が財政難であることや、勲章で済ませたかったことなど

 彼はあけすけに言い放つ。

 しかし彼はその後、ジェラルドの目を見て言った。


「討伐した魔獣の種類と数。救った人々や守られた商隊。

 その成果は、金品などに置き換えられるものではありません。

 わずかの銀と鉄で作られた”名誉”こそ、

 その報酬にふさわしい利益を、彼にもたらすはずなのに」


 彼は、正しく理解しているのだ。

 ”騎士の称号”がジェラルドにもたらす莫大なメリットを。

 そしてそれを、俺たちが必要としていることも。


 息子を苦笑いで見ながら、フリュンベルグ国王もうなずく。

「我々の感謝の念を表すためにも、

 それを贈与することを心から望む。

 どんなに時を経ても、我らの気持ちに変わりはないだろう」

 そう言って、俺の目をじっと見つめる。


 そうか。そういうことか。

 俺は気が付いた。彼らは、敵ではない。


「ご厚情を賜り、感謝の念に堪えません」

 俺はゆっくりを片膝を付き、彼らと向き合った。

 そして前を見たまま、横のローマンエヤール公爵夫人に尋ねる。


「俺の素晴らしい剣を、そろそろ父上にもお見せしたいと思うが。

 ……まだ早いと思われますか?」

 ライザ・ローマンエヤール公爵夫人も前を見たまま答える。

「早いな。まだ、早すぎる」

 俺は唇をかみしめるが。

 続けて公爵夫人は言ったのだ。


「……しかし、物事は全てにおいて、

 早すぎるか、遅すぎるのどちらかだ。

 どちらでも好きな方を選ぶがいい、殿下」


 そうこなくっちゃ。俺はニヤリと笑った。

 俺はフリュンベルグ国王に向かって言う。

「ジェラルドの報酬について、いくつかお願いがあります。

 お聞き願えますでしょうか?」


 合理的で実利主義のフリュンベルグ国王。

 俺は彼らを味方につけるべく、

 その策を彼らに告げたのだ。


 ************


 そして後日、シュニエンダールだけでなく世界中に

 ジェラルドの素晴らしい活躍とともに

 それに対するフリュンベルグ国からの、恩賜の品が明かされたのだ。


 それはなんと、金品などではなく。

 ”王家が家宝としていた壺”、だったのだ。


 ……と、聞けば、かなりスゴイものをもらったようだが、

 実際は、そのへんで二束三文で売っているものだ。

 ジェラルドの成果に対する報酬は

 全てシュニエンダール王家に渡される決まりなのであれば、

 こんな物でも、もったいないくらいだ。


 侍女の部屋からそれを運ばせてきたフリード王子は

「今日からこれを家宝とする!」

 と叫び、さらには”これで予算を割かずに済む!”と喜んでいた。

 ……つくづく大丈夫か、この人。


 討伐に参加した兵に対する報酬は、

 経済的な利益をもたらした商家や、

 領地を守ってもらえた貴族、

 そして助けられたキャラバンや

 国民の寄付によって支払われることになった。


 これは民間人が主体となって行うことであり、

 王家は全く関与しないため、

 シュニエンダールとの契約に反してはいないのだ。


 そして、俺はフリュンベルグ国王に頼みごとをした。

 国王が”我らの気持ちに変わりはない”と言ったのは、

 ”今ではなく、時期を見てそのうち、

 ジェラルドに騎士の称号を授与するつもりだ”、ということだ。


 そのタイミングを、近々俺が作ることを約束したのだ。

 だからいつでも授与できるよう、

 準備だけしておいて欲しい、と依頼する。


 ……そして最後に、もう一つ。

 王族はジェラルドの報酬を”全て奪う”と決めていた。

 金品だけでなく、その名誉も。


 だから後日。

 フリュンベルグ国だけでなく、

 世界中にその”名誉”が報じられた。


 新聞だけでなく、臨時板が配布され、

「クライヤー(叫び屋)」と呼ばれる伝達人が街角で

 その内容を市井の人々に向かって叫んだのだ。


 ”シュニエンダールの第三王子レオナルド殿下は

 フリュンベルグ国における魔獣の大量出現事件において

 素晴らしき最強の剣士ジェラルドを(つか)わし、

 的確な指示を与え、数多くの人々を救った。

 フリュンベルグ国はレオナルド殿下に深く感謝し、

 彼に対し、感謝状と勲章をを贈呈した”


 たちまち世界中で跳ね上がる、俺への評価。

 良いんだよ……だって俺、シュニエンダールの王族ですから。


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