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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
第三章

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68.光の乙女

 68.光の乙女


「エリザベート」

 名を呼ばれて私は振り返る。

 そこには母が、いつもの無表情で立っていた。


「王宮に行くなら、これを持っていくが良い」

 (よろい)姿の母が指し示したのは、

 滅多に手に入れることができない貴重な宝物の数々だった。


 私はうなずいて言う。

「ええ、()()()()()()()納めて参りますわ」


 ローマンエヤール公爵は過剰なほどに

 王家に対し数多くの献上品を納めている。

 それが彼らに対する”忠誠の証”として。


 王宮に着き、決まりきった挨拶を交わした後

 それらを渡すと案の定、国王の頬はゆるんだ。

「……うむ。見事な杯だ」

 ごてごてと宝石の付いた黄金の盃を手にうなずく。


 王妃は相変わらずの不満顔だが、

 献上品の中に大きなサファイアを見つけると、

 さすがにその口角を上げた。


「これだけ大きなものは滅多に手に入らないわね……」

「王妃様がお持ちの指輪と対になる”ロイヤル・ブルー”を、

 やっと見つけることができた、と母が喜んでおりました」


 私の言葉に、王妃はこちらを上目遣いに見ながら言う。

「このような貴重な品、ローマンエヤール公爵夫人は、

 ご自分のものにしたかったでしょうにねえ」


 ここで”そんなことはない、()()母が宝飾品など興味を持つものか”

 などど正直に答えるのは不正解だ。

 私はオリジナル(転生前の)・エリザベートの記憶を必死にたどって答える。

「ええ、母だけでなく、この国の誰もが

 これを身につけた王妃様をさぞかし羨むことでしょう」

 私はうまく正解を答えることができたようだ。

 吊り上がったやぶ睨みの目をいっそう細め、ニヤッと笑った。


 満足そうな彼らを見て、

 私は今回の()()を無事に果たしたと認識し

 仕事を理由にその場を辞したのだが。


「おい、待て。エリザベート」

 王太子カーロスに呼び止められ、私は振り返った。

 私が何か返事をする前に、彼はあごをしゃくりあげて言う。

「話がある。ついて来い」


 三白眼の吊り目は、断るなどあり得ない、

 という傲慢さをにじませ私を見ていた。

 頬骨(ほおぼね)が目立つエラの張った顔は無骨なのに

 口元や仕草には”小物感”が醸し出されている。


 私はこの男が死ぬほど嫌いだった。

 幼かった頃のレオナルドに対する”数々の虐待”も万死に値するが

 長じてからもその性格はおぞ気が走るものだった。


 自分を過大評価し大口を叩くが努力は嫌う、

 狭量で(ひが)みっぽいうえに、(ねた)み深い男なのだ。


 それに加え、そのゾッとするような視線だ。

 私が歩いていても、礼をしても、

 ネットリとまとわりつくように絡みついてきて

 早く物陰に隠れようと必死になってしまうくらい不快だった。


 今になって両親が、この男との婚約を阻止するために

 私を最強の”兵器”へと育て上げ、

 常に軍務に忙しくさせていたと知り

 今さらながら感謝の念が絶えないでいる。


「……承知しました」

 私が仕方なく彼についていくと、

 案内された部屋にいたのは、

 なんと王太子妃ステラだった。


 形の良い小さな顔に、白い肌。

 瞳は淡い青で、髪も淡い金髪だ。

 とても綺麗な方だと思うが、どこか儚げな印象が拭えない。


 まあ、この男に嫁がされたのだ。

 この国一番の”悲劇のヒロイン”なのかもしれない。

 ……申し訳ないけど、

 異世界転生したのが彼女の体じゃなくて良かった。


 私はそんなことを思いつつ、彼女に礼をする。

 ステラ様は弱々しい笑みをうかべ、私に問いかけた。

「ロンダルシアとガウールでのご活躍、お聞きしております。

 さすがはローマンエヤール公爵令嬢様、

 この国で最も、王家の力となれる方ですわ」

「お前と違って、な」

 王太子カーロスがすかさず彼女を(おとし)める。


「とんでもないことでございます。

 私など、この国にとっては取るに足らない者ですわ」

 私がそう言うと、ステラは困ったように眉を寄せた。


 カーロスは私と彼女を交互に見た後、

 フン、と鼻で笑い、腕を組んだまま私たちを見下ろして言った。

「やっぱり、光より闇だな。

 いつ見ても、輝くように美しいのは闇のほうではないか。

 ステラよ、お前は何かひとつでも、

 エリザベートに勝っているものがあるか?」


 私は慌てて否定し、彼女の美しさや

 立ち居振る舞いの優雅さを褒めようとしたが、

 まさに光の速さでステラがそれを肯定したのだ。

「ええ、何一つございませんわ。

 全てにおいて、エリザベート様に劣っております」

 などと、嬉しそうに言ったのだ。


 カーロスは馬鹿にした笑みを浮かべたまま、

 大仰な仕草で頭を抱えてみせる。

「まったく、父上はなにゆえ、

 このようなつまらぬ女を俺に合わせたのだろうな。

 光の属性というだけではないか」

「本当にその通りでございます。

 私の属性など、王家にとってたいしたお力にはなれません。

 カーロス様には、もっとふさわしい方がいらっしゃったのに」

 ステラ様は悲し気にうつむく。

 しかしこちらを伺うその目は、何かを期待しているようだった。


 私は思いのほか饒舌な彼女に驚いていた。

 前に会った時は、言葉を発せないのか?

 というくらい無口だったのに。


 しかもなにか違和感を感じる。

 ただ褒められているだけではない気がするのだ。


 私は彼らの目的、いや願いを察して答えた。

「まあ、お二人とも。そのようなお言葉、

 かえって仲の睦まじさをうかがわせますわ」

 お互いをけなし合い、じゃれ合うカップルに仕立てられ

 ムッとした二人に、私は微笑を保ったまま瞳に力をこめて言う。


「王命によって結ばれたお二方ですもの。

 あまり度を超すようでしたら

 国王様がご心配になりましてよ? 

 ……そして、わが父も」

 ぐっ、と押し黙る二人。

 離縁したいのかもしれないけど、それは無理というものよ?


 カーロスは最初、美しい彼女が王太子妃候補になったことを

 まんざらでもない様子で受け入れていたが、

 いざ話が進むと急に、”側室で良いだろう”などと言い出し、

 激しい抵抗を見せたのだ。


 しかしそれを王太子の正妃として決定付けたのが

 国王と、私の父であるローマンエヤール公爵だ。


「王家にとって光属性は必要なのだ」

 と、国王は彼女以外を認めず、

「正妃もとらずにいきなり第二夫人を持つのは言語道断」

 と、私の父が側室ではなく王太子妃にすべき、と主張したのだ。

 外交面や嫡子など多くの問題を起こす懸念がある、と。


 その本意はもちろん、私を王太子妃の候補から確実に外し

 さらに側室の可能性も潰すためだったのだろう。

 伯爵家の娘が正妃で、公爵家の娘が側室などあり得ないから。


 国の二大権力者に押され、王太子はやむなく折れたのだが。

 その怒りはステラ様へと向かってしまったようだ。


 カーロスはイライラしながら、

「……そんなことは最初からわかっているっ!

 父上にいまさら何か訴えるつもりはない。

 ……お前の父親にもな!」


 そう言っていきなり、ステラ様の髪をつかみ低い声で言う。

「だから時々、コイツを教育してやらないとな。

 自分が王太子妃だなんて、分不相応だって。

 思い上がったり、調子に乗らないように」

「おやめください!」

 私が思わず叫んだのは、逆効果だった。


 彼は私を見ながら、不気味な笑みをうかべて言う。

「いいんだよ、こんな奴。

 そのうち側妃か、それ以下に落としてやるんだから」

「もう一度言います。手をお離しください。

 私には公爵家として国民を守る()()があります」

 私はそう言って、左手を伸ばして掲げた。

 自分の目が赤く光ることを感じる。


 それを見た王太子は、あわてて髪をつかんでいた手を離した。

 こういうところも大嫌いだ。

 私に歯向かってくるくらいの気概はないのか。


 カーロスは気まずそうに、フン、と横を向き、

「……まあとにかく、お前なぞ、

 機会を見て捨ててやるからな。

 エリザベートもこいつのことなど

 まったく気に留める必要などないからな?」


 カーロスはそんなことを言いながら、

 その部屋を出て行った。


 部屋に残された私たちは、気まずい空気の中、

 互いに謝りあった。

「ごめんなさい、すぐに止められなくて。

 痛かったでしょう?」

 私が彼女を気遣うと、彼女は小さく笑って言った。

「……大丈夫です。あれくらい。

 いつもだったら張り手で頬を叩かれるか……

 アザになるくらい蹴られますから」


 私は怒りとショックでめまいがしたが、

 彼女を椅子に座らせて話を聞いた。


「なんて酷いことを! ご実家には伝えたの?」

 私の言葉に、彼女は首を横に振って答えた。

「言っても無駄でした。

 両親も姉も”それくらい我慢しろ”って。

 幼いことからずっと、そう言われてきましたから」


 言葉に詰まる私に、彼女は静かに語り出した。

「……本当は姉も、光属性だったのです。

 でも”王太子妃などになりたくない”と言って、

 私に押し付け……譲ってくれたのです。

 両親も”あなたが我慢しなさい”って」


「ステラ様は、そのことを王家には……」

「言っていません。

 言えば、姉や両親が危険に晒されますから」

 冷遇されても、家族は大事なのだろう。

 かばう気持ちもわからなくはないが、ちょっとおかしい。


 ステラ様はハンカチを握り、小さく震えながらつぶやく。

「伯爵家の……家族の役に立てるならと思って

 私は了承したのですが……ここは地獄でした」

 そう言って大きな瞳から涙をこぼす。


 彼女が虐げられていることは宮中では有名な話だ。

 ……噂以上の外道だったけど。


 私は王太子や王家だけでなく、彼女の家族にも不満を感じていた。

「我慢しろなんて、ひどいわ。

 病気を理由に別居など、なんらかの手だてはあるでしょうに」

 しかし彼女は予想外の反応をした。


「いえ、違うんです。お父様もお母様もお姉さまだって、

 きっと私のためを思ってそう言ってくださったんです」

「えっ?」


 涙をためた目で、私をまっすぐに見ながら、

 ステラ様は無理に作ったような笑顔で言ったのだ。

「王太子様も、いつかきっと、

 わかってくれると思うのです」


 ”光の乙女”。

 彼女がそう呼ばれていたことを唐突に思い出し、

 なぜか私はゾッとしたのだった。


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