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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
第三章

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62.第二の王族

 62.第二の王族


「魔獣ギドラスの牙。

 カトブレパスの角。

 魔獣アラサラウスの爪。

 あれらが森で落ちているものだとは驚きですわ」

 怒りを顔に隠さず、エリザベートが言い放つ。

 その冷たさと刺々(とげとげ)しさに、大臣たちは身をすくめた。


「たいしたものも、使えるものも無い。

 確かにそう言ったな?

 私も全て確認したが、どれを取っても一級品だったが……」

 公爵夫人とは思えぬ口調で、彼女の母君がつぶやくと、

 国王までが動揺のあまり目が泳いでいる。


 しまった! と今さら焦りまくる大臣たち。

 今回は”ローマンエヤールの切り札”と呼ばれる

 最強の令嬢エリザベートも同行していたのだ。

 その成果を馬鹿にするということは、

 彼女を馬鹿にしたことになってしまう。


「まあ良い、今度からは貴殿らに取りに行ってもらおう。

 子どもでも拾えるようなものとのことだからな。

 エリザベート、我々はどうやらお役御免らしい」

 無表情で娘を見つめる鎧姿の麗人。


 ライザ・ローマンエヤール公爵夫人。

 ストレートの黒髪を動きやすそうなショートボブに整え、

 鎧を身にまとい、化粧っ気は全くないが、

 大きな黒い瞳の理知的な美人だった。


 誰に対しても冷静な対応であり、

 それは夫や娘に対しても同様だ。

 日々、休むことなく淡々と任務をこなし、

 国はおろか世界中を飛び回っている女性(ひと)で、

 ”公爵よりも会えない”と言われているのだが。


 国王も大臣も、エリザベートが同行していたのは知っていた。

 しかし女性の権利が現実世界以上に低いこの国では

 ”エリザベートの成果”などという考えは

 微塵も起きなかったのだろう。


 国王は苦し紛れの言い訳で話を終えようとする。

「報告に誤りがあっただけだ」

 自分のせいにされそうになった大臣が焦って叫ぶ。

「鑑定した者が無能だったのです!

 ご息女の成果でしたら、

 大変素晴らしいものだったに違いございません!」

 情けないまでの責任転嫁の行く末は

 罪もない下級の鑑定士が処罰されてしまう結末だ。


「いやいや、俺と一緒にご覧いただいたはずだが?

 見た上でのご自身の判断だろう?」

 エリザベートもうなずく。


 公爵夫人は表情一つ変えずに言う。

「鑑定士にはすでに確認がとってある。

 全ての物に、正しい評価を行っていた。

 彼らに問題は、まったく無い」

 大臣たちは逃げ場を無くし、顔を歪ませる。


 そんな彼らを気にも留めず、公爵夫人は話を進める。

「では全ての品は我がローマンエヤール公爵家が買い取り

 すぐに研究施設や各地の戦場に送ろう。

 ひいては国の利益となること。

 ……異存はございますか?」

 てきぱきと言い切る彼女に、誰も反論はできなかった。


 イライザ王妃は悔し気に眉をしかめ、

 王太子は歯を食いしばって、親子で俺をにらんでいる。

 国王はまだ何か言いたそうにしていたが

 ドサッと椅子に座り込んで、つぶやいた。


「良かろう。結局は全て、私のものとなるのだ」

 そう言って俺たちを見据える。

 ……この負けず嫌いめ。


 ”ローマンエヤール公爵家は第二の王族”。

 陰でそう言われているが、

 実際はそれ以上の権力を有しているのかもしれない。


 ************


 部屋を出て、成果の入った箱を(すみ)やかに回収する。

 悔し気にそれを見守る大臣たちに手を振り、

 俺たちは宮殿を後にした。


 かなり離れてから、公爵夫人がいきなり

 声が漏れない魔方陣を張り、俺に向かって言う。

「レオ。剣を抜くにはまだ早い。

 剣を持っていることすら、知られてはならないくらいだ」

 俺は無言で彼女を見た。

 エリザベートも不安そうに母親を見ている。


 ライザ・ローマンエヤール公爵夫人は無表情のまま

 教師が指導でもするかのような口調で語った。

「殿下はこの国をまだ十分に理解していない。

 それ以上に自分自身についても、だ」


 確かにまだまだナゾだらけだ。

 国王が、何か腹黒いことを企んでいるのは間違いない。

 ロンデルシアを魔獣が襲撃した件の真犯人はこの国王だしな。

 その目的はロンデルシアの国宝”勇者の剣”を奪うことだったが

 大失敗に終わり、苛立っている様子だった。

 しかし、奪ってどうするつもりだったのだろう?


 それにイライザ王妃の思惑だ。

 モテない男の思考で申し訳ないが、

 彼女は何で、父ではなく母を殺さなかったのだ?


 何故、好きだったはずの勇者を殺させ

 憎い女を自分の(そば)で生かしたのだ?


 王妃は昔、何かの祭事で会った時

「そのような()()()()()、あわれなこと!」

 と、俺の補助魔法をせせら笑ったことがある。

 その時は、意味が判らなかったが、

 今となってはなんとなくわかる。


 母が天才魔導士キース・ローマンエヤールに頼み、

 俺の属性を勇者(母の想い人)と同じものにしたんだと思ったのだろう。

 もし俺が二人の子どもで、しかも二人とも生きていて、

 さらに子どもに恵まれて一緒に暮らしていると知ったら……


 たぶん、恐ろしいことになるな。


 そもそも親父が生きていたことを世間に公表しなかった理由は

 ”世界が危険にさらされるから”だったのだ。

 元・聖女である王妃イライザが

 世界中の人々を敵に回しても、たとえ戦争になっても

 手段を選ばず”勇者親父”を殺そうとするから、だと。


 キースの目的を検索した時にも、

 ”シュニエンダール王妃の行動を抑制する”

 というのがあったのだ。

 あの女が本気でキレたらやばいことになるのかもしれない。


 いろいろ考え、俺は反省し、公爵夫人に向かってうなずく。

 確かにあそこで国王に喧嘩を売るのは勇み足だったな。

「いろいろな事実関係を知りましたが

 確かにまだ不十分ですね。

 ……ご介入していただいて助かりました」


 公爵夫人は俺の目を見ながら言う。

「まずは知ることだ。そして静かに動く。

 絶対にこちらからは手出しはするな。

 下手をすれば、()()()()()()のはこちらのほうだぞ?」


 返事をしようとして、俺は思わず目を見開く。

 ……そうか、そうなのか。

 意志が通じたことを確認したのか、

 ライザ公爵夫人は口元をほころばせた。


 彼女が去ってから、俺は残されたエリザベートに言う。

「公爵家はずっと、アイツと連絡を取っているんだな」

「私には内緒で、ですけどね」

 エリザベートは口をとがらせるが、目は笑っている。


 母への手土産は国王の”首”にすると、俺はキースに言った。

 そのことをアイツは、公爵夫妻に伝えたのだ。


 ************


 俺たちは以前のように、俺の宮殿に集まっている。

 以前と違うのは、足元にファルたちがいることだ。


「今日の議題なんだが……」

 何と言い出して良いか分からず、俺は言いよどむ。

「醤油の本格製造ですよね?

 メアリーがマメに、研究結果を送ってくれますし」


 ジェラルドが苦笑いで首をかしげる。

「まずは王家や軍、教会に対する対策を考えないと。

 絶対、何かを仕掛けてくるはずですから」


 俺は首を掻き掻き、彼らに答える。

「まあ、どっちも早く考えなきゃいけないことだが、

 それより前に、報告したいことがあるんだ」

「はい? なんでしょう?」

「どうしました? 王子」

 フィオナとジェラルドは不思議そうだが、

 エリザベートは沈黙している。

 なぜかちょっと恥ずかしそうだ。


 意を決して俺は話し始める。

「チュリーナの神殿で、アーログが暴れた時。

 俺は急に動けなくなった」

「そういえば、いきなり攻撃をやめて

 エリザベート様を追いかけて行かれましたね?」

 うなずきながらそう言うジェラルド。


「あの時、体を支配していたのは俺じゃなかった」

「えっ!?」

「どういうことですか?」


 俺はいったん黙り、心の中に問いかける。

 おい……しかし返事はなかった。


 そして顔をあげ、みんなに告げたのだ。


「あの瞬間。オリジナル・レオナルドの意識が戻ったんだ」


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