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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
第二章

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55.異世界転生の真相

 55.異世界転生の真相


 今、俺たちの前には、

 死んだはずの天才魔導士キース・ローマンエヤールが立っている。


 数年前、王家の強い要請により

 彼は妖魔の融合実験を行った。

 しかしそれは失敗に終わり、彼の魔力は暴走。


 王都の大規模な暴発を防ぐため、

 兄であるローマンエヤール公爵がみずから弟に手を下し、

 それを防いだのだ……とされている。


 だが、それは偽りだった。

 目の前に立つ、皮肉な笑みを浮かべた美貌の男は間違いなくキースだ。

 エリザベートの大好きな、彼女の叔父。


 生きているのは緑板(スマホ)の情報で知ってはいたが、

 実際に目にすると激しく動揺してしまう。


 何しろコイツは、俺の母親の死因である

 ”馬車の事故”の実行犯であることは間違いないのだ。

 とはいえ、殺した理由を検索しても、

 緑板の答えは”未検出”なのだが。


 キースはゆっくりと歩いてきた。

 そして数メートル手前で立ち止まってつぶやく。

「……本当に母親そっくりだな」


 ダルカン大将軍、そしてユリウス神官と全く同じことを言う。

 しかし彼らと違い、その言葉の後、

 ”あの男の血をみじんも感じさせない”、と続かないのは

 俺の父親が誰であるかを知っているからなのだろう。


 だからあえて、俺は(あお)ってみる。

「じゃあ、たいしたことないのは父親似なんだろうな」


 ”たいしたことないね、レオナルド”

 先ほどそう言ったキースに腹を立てているわけではない。

 彼の()()()()が知りたいだけだった。


 キースは首をかしげ、フッと笑った。

「違うな。あの男を父親だと思って育ったせいじゃないか?

 あれは本当につまらない男だからね」

 雑魚も雑魚だよ……そう呟き続けるキース。


 シュニエンダール国王をここまで馬鹿にするということは

 キース生存の真相は、やはりローマンエヤール公爵家が

 彼を王家から解放するために仕組んだことなのだろうか。


「それにダンがたいしたことないのは、能力値だけだからな」

 キースのその言葉に、親父に対する深い敬愛や信頼を感じる。

 なんなんだ? 敵なのか? 味方なのか?


 彼は俺たちを順番に眺める。

「ふーん。お前と可愛いエリザベートの他に、

 もう2人も()()()()のは予想外だな」


 何のことだ? 俺たちはうろたえる。

「呼ばれた? 誰にだ?」

 俺の問いを聞き、キースは軽く驚いて答える。

「俺に決まってるだろ? まだ()()()()()のか?

 天から落ちた青いイナズマ。あれは俺の魔法だ。

 ”大いなる力”を()()()()()、究極の闇魔法だよ」


 俺たちに衝撃が走った。

 俺たちの異世界転生をもたらしたのは、なんと彼だったのだ。


 彼は参ったな、というように苦笑を浮かべる。

「念のために仕込んでおいたけど、まさか発動するとはね」

「どうやって発動を? どこかで私たちを見ていたんですか?」


 フィオナの叫びに、キースは肩をすくめる。

「そんなメンドクサイことするわけないだろう?

 自動的に発動する魔法だよ、ある条件を起動装置(トリガー)にしてね」


 俺は思い出す。俺たち4人の、あの時の共通点を。

「おそらくその条件は、”絶望”……だろ?」

 キースは肩をすくめて言う。

「んー、惜しい。発動の条件はね、”真の絶望”だよ」


 そうだ、あの瞬間。

 オリジナルの彼らは、4人とも深く絶望していたのだ。


 俺は王家によって、大切なエリザベートを巻き込みながら

 このまま”惨めな死”を強制される運命を。


 エリザベートは”公衆の面前での婚約破棄”という屈辱を飲まされ

 もう誰にも愛されることはないだろうという境遇を。


 フィオナは婚前からすでに虐待してくる公爵家に嫁がされ、

 さらに聖女ではないとバレて断罪される未来に。


 ジェラルドは必死に努力した討伐などの成果を横取りされ

 悲願だった聖騎士団に入団できず、今度も利用され続ける人生に。


「どうだい? ”大いなる力”。使いこなしているかな?」

 俺たち3人は目をあわせる。

 キースはその正体を、”異世界から来た者の精神”だとは知らないのか?


 まあ、あの頃からはずっと状況は良くなったかもしれないが、

 問題がすり替わっただけな気もしなくはないのだ。


 俺は首を横に振る。

「下がらないのに必死で、上がるまでには至らないよ」

 キースは満足そうにうなずく。

「ああ、全然まだまだだよね。自覚しているなら安心だ」


 そう言って、首をかしげて俺に問いかける。

「で、いつまでここにいるつもりだ?」

 なんで、そんなことを気にするんだ?

 そう思いつつも俺は正直に答える。


「シュニエンダールにかけられた疑惑を晴らし、責任を果たすまでだ。

 ガウールまでの道のりの危険度を下げ、

 再び魔獣が集まらないよう、原因を断たないとならない」

「なんだよ、そんなことか。

 んー、思ったよりも未完成だな。

 お前たち、ちゃんと()()を使いこなしているのか?」


 俺は震撼した。他の二人も硬直している。

 キースは、緑板(スマホ)の存在を知っているのだ!


「”大いなる力”で”エメラルドタブレット”を使えば、

 たいていの問題は片付くだろうに」

「エメラルドタブレット?! あれ、エメラルドなんですか!?」

 フィオナが思わず叫ぶ。

「こんな大きさのエメラルド、

 元の世界ではニュースですら見たことありませんね」

 ジェラルドが胸ポケットを抑えつつ言う。


 エメラルドタブレット。

 その名を、俺は元の世界でも聞いたことがあった。

 確か錬金術の重要な原理を彫り込んだ

 エメラルドの板のことだったような……。


 俺たちが何を言っているのか分からない、という顔をして

 キースは眉をひそめて言う。

「知りたいことが何でもわかるだろう?」

 まあ、そうだが。俺は言い返す。

「何でもって訳ではないけどな」

 何でお前が俺の母親を殺したのかは、答えてくれないんだぜ?

 心の中でそうつぶやく。


 そんな俺を、キースは鼻で笑い、

 出来の悪い生徒を諭す教授のような口調で語り出す。

「”情報”をサーチするっていうのはさ、

 この世に存在する大量のデータの中から

 自分の”目的”に合った情報を見つけ出す作業なんだよ。

 大事なのは”自分が何を知りたいのか”、

 それを明確にすることだ」


 俺は今さらながら、緑板がスマホだということを痛感する。

 検索で重要なのは、検索する”キーワード”の選び方だ。

 曖昧な言葉では該当する大量の答えがヒットしてしまうし、

 選択を誤れば間違った答えに行き着く可能性もあるのだ。


 考え込む俺たちを気にも留めず、

 やれやれというようにキースは息をついて言う。

「仕方ないなあ。あんまり時間がないんだよ」

 ガウール周辺の主だった魔獣と妖魔を殲滅か……

 そう呟きながら、彼は手に持っていた魔導士の杖を掲げる。


 そして天才魔導士は、

 詠唱もなく、その力を俺たちに示したのだ。


 たちまち天には濃い灰色の雲が立ち込めてくる。

 それは生き物のようにうごめき、重圧感をもたらしてきた。

 広域にわたり、雷鳴が鳴り響く。

 彼は闇属性とともに、雷魔法の名手でもあったのだ。


 やがてザアアアアアアと勢いよく雨が降り注ぐ。

 強く、早く、矢のように。

 それが雨ではないと気付くのに時間はかからなかった。


「これ……”闇の槍(ダーク・ランス)”ですね」

「えっ? ”雷矢”でなくて?」

「その両方ともだ。……よく見ろ、他にもいろいろ混ざってるぞ」

 全員、声が震えている。

 俺たちはフィオナの張ったバリアの内側で

 呆然とそれを見守っていた。


 オオオオオオオオオオ……

 キシャアアアアア……


 時おり大きな雷が落ち、魔獣の断末魔の声が聞こえる。

 大型の魔獣や妖魔は、そうやって倒しているのだ。


 この地に潜伏する魔獣たちが、みるみる殲滅されていく。

 これが、勇者のパーティーにいた天才魔導士の実力なのだ。


 ************


 全てが終わると同時に、空から雲が消え去った。

 何事も無かったように晴れわたっているが、

 この地はすっかり生まれ変わった。


 何も言えない俺たちに、キースは飄々と言い放つ。

「原因のほうはね、面倒だから教えるけど、もう解決してるよ。

 ユリウス、この地にいなくなったから」


 俺たちはああっ! と叫んだ。

 この地にあった”巨大な聖なる力”とは、

 ユリウス神官のことだったのだ。


 キースは苦笑いしながらつぶやく。

「まったく、妖魔の体内に取り込まれていたとはな。

 探しても見つからないはずだよ。

 おかげで苦しんだ魔人が彼の”聖なる力”を滅するために

 大量の魔物を呼び寄せたってわけだ」


 ユリウス神官は、あの魔人が村人を食うのを体内で阻止していた。

 自分ではどうもできない魔人は、

 仲間である魔物をとにかく呼び寄せていたのだろう。

 アリが巣の中で外敵を発見した際に、

 警報フェロモンを放出して仲間に外敵への攻撃を伝えるように。


「でも大昔から”禁忌の印”をつけられた妖魔が数多くいた、って」

 フィオナが恐る恐る言う。

 そうだ、それでメアリーが討伐のために来たのだから。


 それを聞き、キースはがっくりと肩を落とす。

「なんてことだ、情けない。

 期待はしてなかったが、それ以上に不出来だな、君たちは」

「ひゃー! ごめんなさい! 自分で調べますー!」

 フィオナが涙目で謝る。


 キースはそんなフィオナを面白そうに見ながら説明する。

「いや、その必要はない。……とにかく時間が無いからね。

 いいかい? ”いる”、”いない”というのは”人の認識”だ。

 ガウール周辺では認識されやすかった、それだけだ」


 つまり、人が見つければ”いる”。

 見つからなければ、実際はいたとしても”いない”。


 思考にはまり込み、返事すらできない俺たちを見て、

 キースはめんどくさそうにつぶやく。

「ま、いいか。後ろの二人はなかなか力を付けたようだし。

 あんまり勝手なことをされても困るからな。

 ……この辺でいいだろう」


 俺たちはハッ! と気付いて顔をあげる。

 彼は俺たちの前に、何のために現れたんだ?

 さっき、”いつまでここにいるんだ?”って尋ねてきたが、

 俺たちがここに居るのはマズイのか?


 向き合った俺たちに、緊迫した空気が流れる。


 彼が魔獣を殲滅したのは、俺たちがいなくなっても、

 ”激闘の末に魔獣と相打ちになった”とするためか?


 キースは恐ろしい笑みを浮かべて言い放つ。

「……では、お前の母親に会わせてやろうか」


 一気に空気が凍り付き、

 ジェラルドが剣を構えて俺の前に出る。

 フィオナが出来る限りのバリアを俺たちの周囲に張った。


 キースは片眉をあげる。歯向かう俺たちが意外なのだろう。

 さっき、彼のものすごい力を見たばかりなのだ。

 敵う相手ではないとわかってはいるが。


 俺は身構えつつも彼に言う。

「まだ会うのは早いな。手土産を用意してからだ」


「手土産ってなんだ?」

 キースは子どものように俺に尋ねる。

「どっかの国王の首とか、がいいんじゃないか?

 ”つまらないものですが”って言いながら渡すのにちょうど良い」


 キースは目を見開いた後、吹き出した。

「それは確かにちょうど良いな。

 彼女にはめちゃくちゃ嫌な顔されると思うが。

 ……では勝手にしろ」

 そう言ってキースは振り返り、去って行こうとする。


 え? 引くのか? 攻撃してこないのか!?

 俺たちに動揺が走る。


 その時、俺はやっと気が付いた。

 ファルファーサたちが、その場で居眠りをしていることに。

 それはキースが俺たちに対し、

 敵意を持っていなかったということだ。


 霧に紛れ、最後に彼の声が聞こえた。

「お前はあの国から離れるな。……早く戻れよ」


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