表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/132

54.生きていた魔導士

 54.生きていた魔導士


「この子の名前を決めないと!」

 夕食後、ファルファーサに囲まれながら

 フィオナは嬉しそうに宣言する。


 母親のファルの(あるじ)である俺に対して、

 小ファルたちが親密な態度だったように、

 フィオナに対して他のファルファーサも

 甘えたり遊んでもらいたがったりするようになっていた。


 家族の(あるじ)は仲間である、という認識なのだろう。


「名前? そんなの思い付きでパパっと決めようぜ」

 そう言う俺を横目に、フィオナは口をとがらせる。

「ファルファーサだからファル、なんて論外です。

 ダックスフンドにダックスと

 つけるようなものじゃないですか」

「確かに今回みたいに、

 同種を複数匹飼うとなると問題が生じるな」

 俺は素直に認めた。


 ”主たちは自分たちに関することを話している”

 と理解しているように、

 小ファルたちはずらりと並んでこちらを見ていた。

 その親であるファルは、俺の足元でスピスピ寝ている。


「そもそも見分け、つきますか?」

 ジェラルドが首をかしげる。

 三匹ともフサフサの丸い体に三角の耳、

 黒くて丸い目に、キリッとした一本眉。

 そしてωの口。

「どいつもポメラニアンを大きくして、

 ”キリッ”の顔文字みたいな(ツラ)してるんだよなあ」


 俺たちの物言いに、エリザベートが抗議する。

「あら、全然違うじゃない。フィオナの子は、

 他のファルファーサより毛の色が薄めだわ」

 確かに、他がゴールデンレトリバーみたいな色だが、

 こいつはややクリームに近かった。


「よく見れば、真ん中の子は耳が大きいですね」

 ジェラルドが特徴を発見すると、フィオナもうなずいて言う。

「一番端の子は大柄で、眉が太い気がします。

 ……意志が強そうかも」

 微妙な差ではあるが、なんとか見分けはつきそうだ。


 しかしいざ命名となると

 俺たちは全員、首をひねったり天井を仰いでいる。

 ……良い名がなにも思いつかないのだ。


 フィオナが苦し気に、横のジェラルドに問いかける。

「何か良い名前、思いつきます?」

「えっ?! 僕ですか?」


 ジェラルドは考え込み、ぽつりとつぶやく。

「……フサ太郎? モコ次郎? 毛三郎……とか」


 俺たちの間に沈黙が流れる。

 こう答えるのがやっとだった。

「この三匹の性別は、まだわからないだろ?」


 今わかっているのは、見た目のわずかな差異と、

 ジェラルドにネーミングセンスが無いことだけだ。


 エリザベートが苦笑しながら提案する。

「シフォン、マカロン、タルト、なんてどう?

 友だちの飼ってた犬、スイーツの名前だったのよ」

「あ! 可愛い! 良いじゃない、それ」

 メアリーが嬉しそうに賛同する。


 フィオナもうなづきかけるが、うーん、と考え。

「それも良いけど、この子たち、

 可愛いだけの存在じゃないんですよね。

 もうちょっとカッコよくても良いかも」

「確かにそうね。戦闘中に名前を呼ぶかもしれないし」

 女性陣は輪になって、

 あーでもないこーでもない、を始めた。


 ジェラルドは苦笑し、コーヒーを飲み始める。

 俺もめんどくさくなったので

 ソファーにごろりと横になっていた。


 ヒマそうな俺の横に、三匹はトトト……と歩いてきた。

 一番手前の奴は、オモチャをくわえている。


「ん? かまってほしいのか?

 それとも遊んで欲しいのか?」

 オモチャを受け取り、片手で一匹ずつ撫でてあげる。

「一号」「ぱう!」

「二号」「ぱう!」

「三号」「ぱう!」


 そしておもちゃを片手で適当に放り投げて叫ぶ。

「全員、出撃だー! ははは」

 転がるように走り出す三匹。可愛いなあ。


 輪になっていたエリザベートが、こちらを見て言う。

「……レオナルド?」

「ん? なんだ? 決まったのか?」

 俺が顔を向けると、エリザベートが歩いてくる。


「そういえばあなた、この子たちを

 今まで何て呼んでたの?」

「え? あれ? 別に何とも呼んでないと思うが」

 エリザベートの問いに、俺は答える。

 しかし彼女は不安顔のまま、

 オモチャを取り合う三匹を見ている。


 そして意を決したように、三匹に向かって呼び掛けた。

「一号!」

 すると、一匹だけがこちらを振り返ったのだ。

 ……嘘だろ? 偶然だよな?


 俺は起き上がり、震える声で試してみる。

「三号……?」

 すると別の一匹が、俺に向かってダッシュしてきたのだ。

 そして目の前で”何か御用ですか?”という顔で

 俺をみつめてくるではないか。


 メアリーの顔が般若のようになり

 フィオナが膝から崩れ落ちていく。


 エリザベートが声を詰まらせながら俺を責めた。

「無意識なのかもしれないけど、

 あなたって小さい頃から、

 正式な名前を覚えるのがめんどくさいのか、

 適当に命名してそれで呼ぶクセあったのよ!」


 俺はそもそも名前を覚えること自体が苦手なのだ。

 だからなんでも感覚で適当に名付けて呼び、

 それで便宜を図る癖があった。

 オリジナル・レオナルドもそうだったとは。


 ……親近感など感じている場合では無かった。

 みんなの目が冷たい。


 フィオナが小声でつぶやく。

「……一号、なの?」

 クリーム色のファルファーサが、

 大喜びでフィオナに向かって走っていく。

 膝に飛びついてきた”一号”を、

 フィオナはぼうぜんと撫で続けていたのだった。


 ************


 ファル、そしてイチゴー、ニゴー、サンゴーを従え

 俺たちは討伐に明け暮れた。

 チュリーナ国に抜ける道は収まりつつあった。 


 しかし、それだけではダメなのだ。

 この地に”禁忌の印”をつけられた妖魔が多かった理由。

 そして4,5年前、急に魔獣が増えた理由。


 それらを解明しなくては、たとえ危険度が下がっても

 この地が抱える問題は解決したとは言えない。


 それについて検索しても、どちらの理由も答えは同じ。

 ”ガウールには聖なる力が集まっているから”だった。


 身を滅ぼす危険のある”聖なる力”を

 どうして魔獣たちは欲しているのだ?

 そしてガウールのどこに、聖なる力があるというのだろう。


 俺たちは討伐を繰り返しながら、

 それを探っていたが、なんの手がかりも見つけられないままだった。


 俺はシャデール国王からと、

 そしてダルカン大将軍とユリウス神官からの手紙を思い出す。


 それらには、俺たちが成すべきことの重大さと

 同時に残された時間があまり無いこと、が記されていたのだ。


 ************


 ある日討伐から帰ると、エリザベートを

 チュリーナ国王からの使者が待っていた。


 それは、前日この村で傍若無人の振る舞いをし

 捕縛されたアーログたちの裁判に

 エリザベートにも参加を願う伝令であった。


「……仕方ないわね。自分で蒔いた種だし」

「一人では行かせられない。俺も行こう」

「そうですよ、みんなで……」

 それを聞き、エリザベートが首を横に振る。


「ロンデルシアに行った時のように、飛竜を使うわ。

 一人の方が迅速に動けるでしょう」

「お供無しで公爵家の娘が移動するなんてことあるかよ」

 俺の反論に、エリザベートは自嘲するように言う。

「私はいつもそうだったわ」


 それでも俺はOKを出すわけにはいかなかった。

 ”ガウールを世界的なリゾート地にしましょう”

 などと言い出した頃から、エリザベートは時おり

 思い悩む様子を見せていたから。


 少なくとも明らかに、自然な笑顔が減っていたのだ。


 しかしエリザベートは、俺を説得するように言う。

「ここを離れるわけには行かないでしょう?

 特にレオナルドは」

 痛いところを突かれ、言葉を返せなくなる。


 ロンデルシア国王からの依頼というだけでなく、

 シュニエンダール国とその第二王子にかけられた嫌疑を

 晴らすためにここに来たのだ。


 チュリーナ国に行くことで万が一、

 ”逃げ出した”と解釈されたら外交的にも大変なことになるだろう。


 俺は仕方なくうなずき、

 エリザベートは静かに口角をあげた。


 ……違うんだよな。

 俺が見たいのは、そういう笑顔じゃねえ。


 ************


 そうして”すぐに戻るわ”、と言い残し

 彼女は翌日、チュリーナ国へと旅立っていったのだ。


 飛竜で空を遠ざかっていくエリザベートを見送る。

 ……参ったな。なんだろう、この沸き上がる不安は。


 俺たちは何となく気落ちしながら森に向かった。

 かなり先まで開拓しているため、

 途中までは馬で進んで行く。


 フィオナは馬には乗れないため、

 ジェラルドの前に座っていた。

 ファルたちは転がるようについて来る。


 ある程度進んだ時、フィオナが手を挙げた。

「どうした?」

 俺が馬を近づけて尋ねると、彼女は真剣な面持ちで答える。

「なにか、おかしいです。

 森全体がいつもと違います」


 俺たちは周囲を見渡す。一見、いつもの森だが。

「……確かに、静かだな」

「ええ、生き物の気配がしません」

 俺とジェラルドも、その異変をなんとなく感じる。


 ばゔゔゔ……

 ばゔゔゔゔ……

 ばゔ……ばゔ……


 足元で、耳をぺったんこにし、

 ファルファーサたちはうなっている。

 何か危険が近づいているのだ。


 ゆっくり陰るように、周囲が暗くなっていく。

 俺はマーサが魔人に連れ去られた時を思い出した。

 これは……まさか。


「おかしいと判っていながら、何をしているんだい?

 周囲を見渡すだけで良いと思ってるのかな?

 ずいぶんと呑気な勇者ご一行だ」


 あざ笑うような、それでいて冷酷な声が響いた。

 俺は、この声を知っている。


 すでに周囲はぼんやりしている。

 この時期、森には霧など発生しない。

 当然、魔力によるものだ。


 木々がほとんど見えないくらいに立ち込めた霧の中から

 黒いマントの男が現れた。


 俺たちよりかなり年上だが、端正な美貌に均整のとれた体つき。

 魔導士特有の長い杖に、首に下げたたくさんの宝飾呪物。

 そしてエリザベートと同じ、癖のある黒い髪に赤い瞳。


「思った通り、たいしたことないね。レオナルド」

 そう言って、数年前に死んだはずの男が(わら)っていた。


「……キース・ローマンエヤールっ!」

 俺のつぶやきに、ジェラルドとフィオナが目を見張る。


 あの天才魔導士が、俺たちの目の前に現れたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ