最終回.リライト成功!
完結しました。
これまで読んでくださった方、
本当にありがとうございます。
理不尽な出来事や不安な未来が
良いもの、素晴らしいものへとリライトされますように。
最終回.リライト成功!
「良く戻ってきてくれた。そして……よく戦ってくれた」
俺はやっと第4軍と再会することができた。
彼らは俺を見つけると、ほっとした表情でつぶやいた。
「……良かったー。あの後、どうなったかと心配しましたよ」
「ご無事で良かったです」
そう言って笑いかけてくる彼らを見て、改めて喜びをかみしめる。
俺の補助魔法と言葉を信じ、
初めて使えるようになった魔法に戸惑いつつも
彼らは立派に、襲ってきた第1軍を退けたのだ。
そして捕らえられた第1軍の末路は。
彼らは王命とはいえ、仲間を攻撃したのだ。
そもそも軍規では、王妃からそんな不可解な命を受けたのなら
軍の最高峰であるローマンエヤール公爵へ報告と定められている。
それを怠ったのは”王妃に対する恐れ”というよりも、
彼ら自身が第4軍の殲滅を望んでいたのだろう。
自分たちが成しえなかった”大魔獣討伐”という偉業を
見下していた第4軍が達成したことに腹を立てて。
それが証拠に、襲ってきた彼らの第一声は
「ゴミが調子に乗ってんじゃねえぞ!
お前らは俺たちの奴隷でいれば良かったんだよ!」
だったのだ。
この言葉に”仲間を攻撃する苦悩”は全く感じられないだろう。
以前より第1軍は、いつも第4軍に対し高圧的だった。
深夜や雪の降る日に呼びつけたあげく
「お前らでも、このくらいなら出来るだろ?」
などと言ってドブ掃除や害虫駆除などを押し付けていたのだ。
それなのに、いざ対峙したら手も足も出ず完敗。
彼らを全員捕縛するまで一時間もかからなかったそうだ。
第1軍はすでに”歩兵見習い”という立場に落とされている。
彼らは街中の雑事を引き受け、汗だくになって働いていた。
しかも世界中の人に彼らの所業は知れ渡っている。
「よくもまあ、仲間を殺そうなんて出来るな。
命令とならばどんな鬼畜なマネでもするのかよ」
「力があっても、知性や理性は無かったのか。
そりゃ騎士でも兵士でもなく、ただの野蛮な猿だな」
人々からの罵詈雑言を浴びながらも、
これは刑罰であり、逃げ出すことは許されない。
罪人には罰を。そして功労者には報酬を。
「さあ、約束通りの報酬だ。
”自由と権利”の方は、いま準備中だけどな」
手にした袋を見ながら、兵士が困惑気味に言う。
「お金、ありがたいけど……僕の母の病気、
聖女様が治してくださったんですよ」
フィオナやディランが尽力しているおかげで、
やっと教会が正常に機能し始めているらしい。
「じゃあ旨いもの食わせてやれ。
それから、王族や貴族から奪われたものは
順次返還されると思う……もちろん、色をつけてな」
「そっかあ。じゃあ、新しい店の看板でも作ってもらうかな」
「僕はまた学校に通いますよ。学びたいことができたので」
嬉しそうな彼らの中に、ならず者風の兵を見つける。
俺は彼に歩み寄って告げた。
「妹さんの仇は、俺たちと、ディラン公爵子息が取った。
でもアイツらの断罪はこれからだ。
グエルや教会の仲間は過酷な取り調べの後、極刑に処されるだろう」
彼はうなずき、俺に一礼してつぶやく。
「サーシャは貧しくても敬虔な信者だった……。
アイツがいつも祈っていた通り、
この国が平和でいられるよう、俺は兵士を続けるよ」
俺は第4軍を前に、改めて頼んだ。
「これからも、自分のため、
それから自分の大事な人のためにがんばってくれ」
その言葉に、彼らは明らかに困惑していた。
「”国のため”とか……”自分の力になってくれ”とかではないんですか?」
俺は首を横に振り、軽い調子で彼らに答える。
「そんなこと、他人から頼まれることじゃねえだろ。
俺はお前たちが”命をかけて守りたい”って、
そう思えるような国にするよ」
ロンダルシア国にいる次兄は王位継承権は放棄し、
正式にレティシア嬢の婿となり、
あの国の者として生きることを選んだ。
そのため俺が国王になることが正式に決定したのだ。
彼らは急にかしこまり、胸に手を当て、ひざをつき。
手前の一人が号令を叫んだ。
「新国王様に礼!」
************
「……処刑はまだなの?」
厳重に封じられた檻の中で、王妃が俺を睨みつける。
「かなり先になると思うぞ? なんせ罪状が多すぎてな」
「意味ないじゃない! どうせ処刑するんでしょう?!
いちいちやったことを……」
「いちいち事実関係を明確にしていかなきゃならないんだよ!
身内を殺された者、資産や立場を奪われた者は
どうしてそうなったのかを知る権利があるんだ!」
俺が怒鳴ると、王妃は思い切り顔をゆがめた。
「そんなの……今さら知って……」
「いいか、よく聞け。お前には絶対に罪を償わせる。
償い切れないほどの重罪だが、
死んで終わりなんてさせないからな」
王妃は悔し気に唇をかみしめる。
「あの力が悪いのよ。私を過信させたのだから。
お前たちだって、そのままではいられないわ。
全知全能となり、世界を思うままに出来るんですもの。
あっという間に勇者から魔王へと転落するでしょうね」
最後は皮肉な笑みを浮かべてこちらを見る王妃に、俺は答える。
「ああ、そうかもしれない。だからあの亀裂は埋めたんだ。
もう二度と、”未知の力”なんて使えないようにね」
”祈りの塔”にあった異世界と繋がる”空間の亀裂”は
キースとフィオナが塞いだのだ。
元世界から来る”力”は、こちらの魔力に勝ってはいた。
しかしこちらの”聖なる力”はあちらより遙かに強力なのだ。
”誰かの幸せを喜び、心から祝う気持ち”など、
向こうの世界にはほとんど残っていなかったのだろう。
……元世界の者としては残念なことだが。
その言葉に王妃は目を見開いて震える。
「なんということを! そんな……」
「黙れ、”王妃”としてカッコよく綺麗に死ねると思ったか?
残念だが、お前は”罪人”として生きるんだ。
責められ、なじられ、間違った点を指摘されて。
己の愚かさを爪の先までわからせてやる! 覚悟しておけ!」
王妃は床に泣き伏して叫ぶ。
「私はただ、この世界を清らかなものに……
正しいものにしたかっただけなのに!」
「お前の目には混沌に見えていたんだろうか。
そうじゃねえ、世界は多種多様だったんだよ」
否定や衝突は決して悪ではない。
光と闇もどちらかが正義というわけじゃなく、
グレーもおおいに必要なのだ。
王妃は”自分と異なるもの、理解できないもの”を恐れ過ぎたのだ。
泣きぬれた顔を上げ、王妃は小さな声で尋ねてくる。
「……彼は、今どこにいるの?」
キースはあの後すぐに、親父と母上に顛末を報告するため、
フリュンベルグ国北にある大断層へと向かったのだ。
しかし今回の件で、あちらから来る魔力には、
”祝福”で対抗できるとわかったのだ。
勝機がみえた今、一気に終結へと向かわせているのかもしれない。
「まだ北の断層にいるさ。母上はもちろん、俺の妹や弟とともに」
”最後に会いたい”などとは言わせないために俺はそう答える。
それでも王妃は俺を見て、顔をゆがめて叫んだ。
「わかっているわよ! 未だに世界を救うことに必死なのね!
どんなに苦労したってキリが無いのに! 馬鹿な人!」
最後にフィオナが彼女に言った。
「生きようとあがく姿を”愚か者の踊り”と言いましたよね。
でもそれって実は楽しくて、素晴らしいことなんです。
独りじゃない、みんなで踊るのは幸せでした。
あなたにもそれが分かる日が来ることを願います」
俺は胸の痛みが取れないまま、その場を後にする。
王妃は最後まで一度も、
我が子である元・王太子カーロスの名を出さなかった。
彼にも国費横領や暴行などのさまざまな罪があり、
さらに王妃や教会の不正を十分に知っていたため
検挙され、牢の中でわめき続けているそうだ。
彼に第二王子暗殺の罪をなすりつけ、挙句は大魔獣への囮に使った王妃。
王妃にとっては息子さえも、
自分の目的のための道具に過ぎなかったのだろう。
どいつもこいつも孤独だった。
それが招いた悲劇なのかもしれない。
************
そして今日、俺は眼下に広がる、
我がシュニエンダール国民の前に立っていた。
ジェラルドの数々の功績が読み上げられていく。
誰か貧血起こして倒れるんじゃないかってくらい
魔獣討伐や犯罪阻止などの経歴が延々と続いていった。
それがやっと、終わりを迎えた時。
俺は手にした褒章を見つめる。
黄金の円形には、中央に王冠を付けた獅子が描かれている。
このシュニエンダールの”騎士の称号”だ。
これはどうしても、俺の手でジェラルドに渡したかった。
「……その功績を讃え、シュニエンダール国王の名において
貴殿にこれを授与する……」
紋切りの言葉を言い終えて、俺は黙りこくる。
目の前に片膝をついたジェラルドと目が合った。
そして微笑んで俺を見つめるエリザベート、
嬉しそうに笑うフィオナとも視線を交わす。
この世界に転生し、どん底から俺たちは這い上がった。
何をしてもダメだったり、さらに別の問題が生まれたり。
目の前の出来事を何とかするのに必死で
全然クレバーでもスマートでもなかった。でも。
俺はそれをジェラルドの首にかけながら、震える声でつぶやく。
「……これは俺自身の気持ちだ。
やったな、ジェラルド。おめでとう、それからありがとう」
「陛下……いや……レオナルド殿下。僕の方こそありがとうございます。
僕はジェラルドに、いろいろなものを残すことができました。
彼はレオナルド陛下の剣となり、この国を守ってくれるでしょう」
俺はうなずく。オリジナル・ジェラルドにはもう、
その努力と実力に見合った名誉と立場、そして仲間がいるのだ。
そうして、ジェラルドは5個めの……最後の勲章を得たのだ。
それはガウールで見つけた目標を達成した瞬間だった。
************
「……いいのか? ディランと過ごさなくて」
俺の問いかけに、フィオナはクスっと笑って答えた。
「いいのです。彼との時間を大切にすべきなのはフィオナですから」
確かにまあ、そうだよな。
ディランの求婚を受けたのは、
転生者ではなくオリジナルの意識だったのだ。
ディランはフィオナに対し、苦し気に告白したそうだ。
「そもそも王家かシュバイツ公爵家が聖女を妻に娶るのは、
本物の”聖なる力”を独占し、隠すためだった。
そんな汚れた家門に君を招きたいと思うのは、
罪深いことなのかもしれない……でも!」
彼が真剣に告げるのを、フィオナは一笑したそうだ。
「先祖の方々がやってたことまで、子孫は背負いきれませんよ。
ディラン様がどうするか、が大事なのでは?
貴方は”聖なる力”を独占したいなんて思ってませんよね?」
フィオナにそう言われて、ディランは即答したそうだ。
「そんなことは思っていない!
でも! 君を独占したいとは思っている!」
転生者はビックリして言葉が出なかったが、
代わりにオリジナル・フィオナが応えたんだそうだ。
”えっ? そうなんですか? 別にいいですよ”、と。
「なんつーか……軽いな。ディランのことだから、
もうちょっと華やかな求婚をするかと思ったが」
それで良いのか? という気もするが、
フィオナを守ってくれる人が増えたのは本当に喜ばしかった。
「最後にメアリーにも会えて良かったわ」
エリザベートが満足そうにうなずく。
時間がないことを悟った俺たちは、
戦後のゴタゴタにまぎれ、ガウールから彼女を呼び寄せたのだ。
名目はあくまでも、ジェラルドを祝したパーティをするから、と。
彼女には真実を告げたいところであったが、
それで万が一、孤独を感じるようなことがあってはならない。
オリジナルでも転生者でも、彼女の仲間なのだ。
これまで通り何も変わらず
睦まじく過ごせると思っていて欲しかった。
「たくさんの食べ物が溢れていましたね」
フィオナが思い出してウットリする。
メアリーは大量の、ガウールの最高級食材を持ってきてくれたのだ。
「”ガウール物産展”って感じだったな」
醤油だけでなく、新発売の”味噌”を使った料理が並び
参加した人々は親子てそれを楽しんでいた。
楽しそうに、仲良く食事を楽しんでいた家族連れ。
俺は親父と母上を思い出す。
ダルカン大将軍やユリウス神官、そしてキースも。
「とうとう会えないままのお別れだが、
オリジナル・レオナルドは彼らをこの国に招き、
かれらに謝辞を伝えてくれるだろう。
この国が変わったところを見せられると良いな」
「元世界との亀裂、完全に塞げるでしょうか。
あちらの断層はかなりの規模のようですし」
ジェラルドが心配そうにつぶやく。
「大丈夫ですよ。だって聖女の力は、
有り余るほどに存在しているのですから」
”聖なる力は選ばれた者のみが使える力ではなく、誰もが使える力”
女神の言葉として伝わってきたとおりだ。
人は本来、誰しも”祝福”できるはずなのだから。
心から他人の幸せを願い、それを喜ぶことを。
俺はだんだん開けてくる空を見て思った。
胸ポケットの緑板を取り出すと、それは崩れ落ち
小さな塊と化していた……あと、わずかだな。
これが”エメラルドタブレット”だというのなら、
錬金術の伝説では、それにはこう書かれていたという。
”下なるものは上なるもののごとく、
上なるものは下なるもののごとし”
それがきっと、この世における真理なのだろう。
上も下も無い。
俺の補助魔法で0乗したように、みんなただの”1”なのだ。
それでいて多彩、そして自由。
ゆっくりと空が明るくなっていく……いよいよだ。
俺たちは手を合わせた。
「無事に、彼らの悲惨な末路は書き換えられたな。
リライト成功、ってとこだ」
うなずくみんなに、俺はかすれる声で続ける。
「……もし、消えるのではなく、元の生活に戻ったとしても。
みんなが今までしてくれたことは忘れない。
本当にありがとう」
「お礼を言うのはこちらのほうです。
心から皆に感謝しています」
「楽しかったし……嬉しいこともたくさんありました!」
「ええ。本当に。……向こうでも会えるかしら」
「会うに決まってんだろ。
だって向こうの世界にもスマホはあるんだからさ」
俺がそう言うとみんなは笑った。
なんて時間が過ぎるのが早いんだろう。
時計の針が早回しされているような気持ちだ。
情け容赦なく、あっという間に夜が明けていく。
たくさんの思い出が駆け抜けていく。
目の前のことに必死で、
ただひたすらに生き残るためにあがき
踊り続けたような毎日だったけど。
もう少しの時間を。もうちょっとだけでも。
この世界でみんなと踊り続けていたかった。
東の空に太陽が姿を現した。
俺たちは組み合わせていた手をそっと引く。
そして横に立つ、朝日に照らされたエリーの顔を見た。
彼女は俺を見て、少し不安そうにつぶやく。
「……レオ?」
「陛下、朝食まで少し休まれた方が良いでしょう」
ジェラルドが俺を促す。
「私でよろしければ、
皆様の疲労を回復させていただきます」
聖女フィオナが優雅に微笑む。
そうだ。今日から俺たちはまた、
さまざまなものと戦っていかなくてはならないのだ。
でも大丈夫。4人で力を合わせ行動するのだ。
自分たちの望む未来を描いていくために。
~完~
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