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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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130.破壊と再生

 130.破壊と再生


 合成することで強化された魔獣に

 人間の頭部を移植することで、

 ”最強の兵”を作ろうとした王妃。


 彼女は王妃の地位を得た後も、

 誰を信じることができない孤独な人間だったのだろう。


 キメラ魔獣たちを眠らせ、最強の火炎魔法で火葬した。

 彼らは灰となり、フィオナの”祝福”の花びらとともに昇天していく。


 塔の内部で見た”胴体”の衣服を見たところ、

 彼らの正体は、我が国の近隣に出没する辺境民族の盗賊団だろう。

 おそらく遺体を残したとしても、遺族を探すのは不可能だ。

 犯罪者の家族だと名乗り出るものなどいないのだから。


 それをふまえて、王妃は彼らを人体実験の材料に選んだのだ。

 たとえ相手がどんな人間でも、

 そんなことは絶対に許されないのに。


 フィオナが”鎮魂の祈り”を捧げた後。

 俺たちは地面に横たわる王妃を取り囲んで見下ろした。


 俺はフィオナにたずねる。

「こいつの”傷”は癒せるか?

 このまま死なせるのでは、

 国民も他国も納得がいかないだろう」


 フィオナはうなずき、王妃を回復していく。

 王妃が自分で潰した目だけでなく、

 体中にある切り裂かれた傷や噛み傷が消えていく。


「……本当に愚かな者たちだわ」

 目を閉じたまま、王妃がニヤリと笑う。

 そしてゆっくりと目を開きながら、片手をあげ……。


「?! ……ギャアアー!」

 王妃は魔力を使おうとしたが、何も出来ないまま、

 地面で頭をかかえてのたうち回っている。


「やっぱりな……お前はもう、あの力は使えない」

「どうして!? 嫌あ! ……うるさいうるさい!」

 涙だけでなく鼻水まで垂れ流しながら王妃は叫んだ。


 説明を理解できそうにない、とふんだ俺は

「……天罰に決まってんだろ」

 と言い、そっぽを向く。


 しかしフィオナがじっと見つめてくるので仕方なく説明する。

「これまで”元世界”から来る”力”を、

 俺たちは緑板(スマホ)を使って”情報”として利用していたが

 王妃は魔力という”エネルギー”に変換して使っていたんだ。

 それ自体に()()()()()とは知らないからな」


 あの光はおそらく”電波”だ。それをスマホで受信すれば”情報”だが

 元世界でも最新の技術ではエネルギーにも変換できるのだ。


 ジェラルドは合点がいったようにうなずく。

「しかし私たちがさまざまな知識や情報を得ていると知り、

 王妃は元世界へ飛び込んだんですよね。

 自分もたくさんの情報を得るために」


 あの力を”情報”として、直接体内に取り込んだのだ。

 俺たちと異なり、緑板(スマホ)というフィルタリング無しで。

 しかも、無限とも思われるような量をいっぺんに。


「インターネット上の情報が一気に頭の中に流れ込むようなもんだろ。

 不必要な情報や不快な言葉も大量に”知ってしまう”だろうな」


 そして俺たちがガウールで学んだとおりだ。

 ”一度知ってしまうと、二度と元には戻れない”

 俺たちが文字を見たら無意識に言葉として認識してしまうように

 もはや王妃はこの力を、”情報”としてしか取り込めないのだ。

 量も、内容も、選別も拒否することもできないまま。


 エリザベートは呆れたようにつぶやく。

「”全治全能になる”、なんて叫んでたけど。

 たくさん知っている者が偉いわけでも

 強いわけでもないのに」


 フィオナが苦笑いしながらフォローする。

「まあ人は誰にでも、”新世界の神”だの”海賊王”だの

 めざす時があるんですよ、きっと」

 ……フィオナ、お前にもあるのか? 俺は無いんだが。


 王妃は頭を地面に打ち付けながら、ヒイヒイと泣きわめく。

 ほんのちょっと吸収しただけでこれだ。

 もう二度と魔力を使おうなどとは思わないだろう。


「……うう。いや……やめて……そんなの嘘よ」

 王妃がうめき声をあげる。

 入って来た情報にショックを受けているらしい。


ブリュンヒルデ(あの女)が……生きているなんて。

 ダンと……結ばれたなんて……子どもまで……」

 突然王妃は大きく口を開き、声にならない悲鳴をあげた。


「嘘おおおおおお!?

 レオナルドは、ダンとブリュンヒルデの息子なのっ?」

 俺たちは驚愕する。


 そうか。先ほど大量に流れ込んだ時、

 王妃は弱点を知るために、俺に関する情報を欲したのだろう。

 その結果、真実を知ることになったのだ。


 王妃は身をよじらせながらうめく。

「だから王冠を足で……ダンと同じ仕草を……

 ああ、大胆で不遜で……自分勝手で口が悪くて……!」

 相変わらず悪口しか言われてないぞ、親父。


 王妃はいきなり両目を見開き、両手で口を塞いだ。

 そしてそのまま動かなくなる。

「……おい」

 俺がしゃがみ込んで話しかけると、

 王妃はゆっくりと俺を見た。


 そして心底悲しそうな顔をした後、声をあげて泣き出したのだ。

「ダンがブリュンヒルデを選んだ理由は、

 ”食べ物の好みが一緒だから”、だなんてー!」

「それってすごく大事なことじゃないですか!」

 フィオナが今日一番の激しい主張をみせる。


「しかもよ!? ダンは知っていたのよ!

 私が旅に疲れ果てていることを……

 貴族の生活に心から憧れていることも!

 私が去った後、”自分の夢を叶えろ”って、

 そう思ってくれていたなんて!」

 ひどい……ひどいわ、そう言いながら泣き続ける王妃。


 俺にはやっぱり分からなかった。親父は親父なりに、

 元仲間である王妃のことを大切に想っていた、

 ということだろ? なんで”ひどい”んだ?


「……確かにそれはショックね」

 エリザベートが同意したので、俺はさらに驚く。

 俺の視線にムッとした顔で、彼女はつぶやいた。


「あなたがもし、あのままフィオナと結婚宣言して

 心の中で私の幸せを願っていた、と知ったら。

 それこそ”暗黒の魔女”になったかもしれないわ」


「あ、あの時は、命に関わる危険性があったからです!」

 フィオナが慌てて叫んだ。

 エリザベートがあのまま俺と結婚していたら、

 夫婦そろって地獄行きだったからな。


 ジェラルドは苦笑いで俺に言う。

「エリザベート様は”一緒に地獄に行きたい”と願う方ですよ。

 もう二度と間違えないようにしてください」


 分かったような分からないような気持ちで

 俺は王妃の体を起こした。

「……さあ、行くぞ」

「ここで殺しなさい。勇者の息子が”悪者”を倒したんだもの。

 私を殺しても誰も責めないわ。それどころか褒めてくれるわよ」

 王妃は涙にぬれた目で俺を睨みつけて笑う。


 俺は首を横に振って答える。

「そりゃ、いっけん正論に見える主張を振りかざせば

 いくらでも正当化できるさ。

 でも、俺は嫌だ。理由や根拠も要らねえ。

 ”お前を殺すのは間違っている”、そう俺が判断したんだ」


 どんなに嘘くさい正義感でも、建前の平和主義でも。

 理屈や世論や常識、そんなもので動くほど俺は素直じゃない。


「でもっ! これで世界は平和になるのよね?

 シュニエンダール国は他国に認められ、

 国民は貴族からたくさんのものを奪い、

 豊かに幸せに暮らすんでしょう? 良かったじゃない!」


 泣きながら叫ぶ王妃に、俺は笑って言う。

「そんなわけねーだろ。どんな”おとぎ話”信じてんだよ。

 これからが大変なんだよ」


 眉をひそめる王妃に俺は現実を説いた。

「まず、お前を倒すのに他国の力を借り過ぎた。

 これは今後、内政に大きな影響を及ぼす恐れがある。

 しかも俺が提示した”立憲君主制”、これは実にやっかいだ」


 俺の宣言は、世界史に出てくる

 ”アーブロース宣言”と”大憲章(マグナカルタ)”の焼き直しだ。

 それは人民の権利を明文化したものであり、

 国王の統治を認めつつ、その権力に制限をかけたものだ。


「でも国民と世界を救った者を敬い、みな従うでしょう?」

 嫌みったらしく王妃が言うが、俺はそれを一蹴する。


「人間ってのはな、そんなのすぐに忘れちまうんだよ。

 権利や自由ってのは手にしたとたん、

 元々持っていたような気がして、

 ちょっとでも損なうと怒りを覚えるようになる」


 俺は立ち上がり、王妃を見下ろしながら笑って言う。

「そもそも”立憲君主制”において

 王として認められるには、血縁よりも実力だ。

 国民、教会、軍隊からの推戴が必要なんだよ。

 だから俺がもし、”この国を立て直す能力が無い”と

 彼らに判断された時には、俺は速やかに退位し、

 別の王を立てることになるだろうな」


 信じられない、というような顔で王妃は俺を見る。

「王から引きずり降ろされても良いと言うの?

 ここまで貢献したのに? 力だってあるのに?

 それで良いというの? お前は」


 俺は少し眉をひそめて答える。

「ちょっと違うな。”それで良い”んじゃない。

 ”そうでなくてはならない”、ってことだ」

 それが、為政者のあるべき姿だ。


 しばらく黙り込む王妃。

 そしてゆっくりと立ち上がる。

 途中よろめいたが、支えようとした俺の手を振り払って言う。


「あなた方にとって償い切れぬ罪だと分かっているわ。

 処刑はまぬがれないでしょう。でも……」

 そう言って王妃は口元をほころばせる。


「……ダンは、私が醜いから選ばなかったんじゃなかった。

 私の”真の願い”を察し、幸せを心から願ってくれていた。

 これが分かっただけで、もう……命も何も要らないわ」


 さっきはひどいって言ってたくせに。

 やっぱり分からないな。


 複雑な顔をした俺に、王妃が誇らしげに言う。

「”もし、この者が国を去れば、シュニエンダールは滅び、

 国に留まれば、シュニエンダールは破壊される”。

 どう? 私の神託、当たっていましたでしょ?」


 俺は肩をすくめて答える。

「ああ、さすが元・聖女様だ。

 もったいねえな、王妃になんてならなきゃ良かったのに」

 本当にそうね……彼女のつぶやきが聞こえた気がした。


 ジェラルドが上を指さす。

 見上げると、公爵家が飛竜を飛ばし、

 俺たちを探しているのが見えた。

 エリザベートがすかさず、位置を知らせる閃光を放った。


 ゆっくりと下降してくる飛竜たちを見ながら

 俺は胸ポケットに手を当てる。

 そこにはただのエメラルドの板と化した緑板(スマホ)があった。


 確か、俺が最後に見た”あらすじ”はこうだったな。


 ”王子レオナルドと公爵令嬢エリザベート、

 騎士ジェラルドと聖女フィオナは、

 シュニエンダール国を内乱の渦に巻き込んだ。

 そして”光あふれる世界”は終わりを告げた”


 今はなんと書かれているのか、

 もう確認することはできなかったが。


 そこに何と書いてあっても大丈夫だ。

 願ったとおりに書き換えることができるだろう。

 ……オリジナルのレオナルドたちにも、きっと。


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