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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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123.パルダル遠征の真相

 123.パルダル遠征の真相


 抱き合う俺たちの周囲に、上から毛玉がポロポロと落ちてくる。

 途中で拾ったファルたちが、俺を追って大魔獣から降りたのだ。


「ぱう!」

 イチゴーはまっしぐらに主であるフィオナに向かってかけていく。

 歓喜の声をあげて抱きしめるフィオナ。


「ぱうぱうぱう!」

 ニゴーはジェラルドに、サンゴーはエリザベートの足元に来る。

 そして眉をキリッと上げ、ωの口でさかんに吠えている。

 いつの間にか、彼らの中で”守るべき人”が決まっていたのだろう。


 腕の中のエリザベートを見下ろし、俺は小さく詫びた。

「悪いな。戻るのが遅くなった。

 ……いろいろ不快な思いをしたようだな。

 そのツケは俺が必ず返してやる」

 そう言って王妃と長兄、いや王太子カーロスを見る。


 さっきまで王妃と魔王の後ろでガタガタ震えていたくせに

 いきなり前に出て来たカーロスが真っ赤な顔で叫んだ。

「お、お前たちの婚約はすでに破棄されている!

 その女はこれから俺たちに絶対服従の……」

「するわけないでしょう? 

 だって今、この国には王がいないもの」

 エリザベートが冷たく言い放つ。


 俺はエリザベートの頬に手を触れて。

「婚約は破棄されたのか……ちょうど良かった。

 他人が決めた結婚なんて嫌だと思っていたからな」


 そこまで俺が言うと、

 勘違いしたエリザベートが一瞬で泣き顔になる。

 俺は慌てて続きを叫んだ。

「だから! 俺が後で改めて申し込もうと思っていたんだよっ」


 フィオナがすかさず叫んだ。

「大賛成です! フラッシュモブなら私も踊ります!」

 ジェラルドも苦笑いで言う。

「もちろん素晴らしいことですが、レオナルド殿下。

 戦闘中の結婚話は()()()ですよ?」

「……やべえ、今のは無し。後でイチからやり直そう」


「……笑わせるな。お前たちに後など無いのに」

 振り向くと、王妃は不穏な笑みを浮かべて俺を見ている。

 そして片眉をあげ、馬鹿にしたような顔で言う。


「生きていたのね。では、任務失敗ということだわ。

 だって大魔獣ファヴニールを倒して……」

「いいや? ミッションは完璧にクリアしたさ。

 王命を忘れたか? そろそろボケる年齢(とし)だとは思ったが」


「なんですって! この……」

 怒りで歯を剥く王妃に俺は呆れた顔で説明してやる。

「思い出せよ。王命は”大魔獣ファヴニールを倒し、

 パルダルの地に安息をもたらすまで絶対に戻ってくるな”だろ」

「だから倒してないじゃないーーーっ!」

 王妃はファヴニールを差して金切り声を出す。


「だから倒したんだって。1回は、な。

 もちろんいつでも倒せるぞ」

 そう言って俺は大魔獣ファヴニールの方に向きなおり

 片手の親指を立て”いいね”の形にした後、それを横に倒す。


 しばしの間を置いて、

 大魔獣ファヴニールがその体を横たわらせる。

 とはいえ、あの巨体。ここから見えているのは首だけだ。

 しかし巨体の重みが闘技場の外壁にかかり、

 ミシッ、ミシッ、と嫌な音を立てる。

 俺は内心焦りつつ、手を元の立てた状態に戻す。

 するとファヴニールはゆっくり身を起こす。


 それを見ていたファルが、”私にもできます!”というように

 コロンと横になり、こちらをガン見してくる。

 ……犬の芸(トリック)ではないんだが。


 以前、緑板(スマホ)がまだ動いていた頃、

 ”王妃を倒すには”と検索したら

 ”本人に頼むか押えるかして、床に横たわらせる”と出たのだ。


 それを思い出し、俺はknock downではなく、

 layのほうの”倒す”を選んだ。

 案の定、見張り役のフレディはそれを見て

 王妃たちに”大魔獣は倒された”と伝令鳥で報告したのだ。

 愚かで臆病な彼は、ロクに調べもしないで。


 苦笑しつつも、呆然としている王妃に俺は言う。

「な? 倒れてるだろ? それに大魔獣がここに来たんだ。

 パルダルの地にはもう、何の危険もないってことさ。

 任務を達成したから、俺たちは戻って来たんだよ」


「何故、魔獣を操ることが出来るのよ!

 そんな補助魔法ないでしょう!」

 王妃が叫ぶ。俺のセコイ屁理屈よりも、

 現地で神と崇められるファヴニールを

 思い通りに動かしていることの方が気になるらしい。


 俺が何か言う前に、キース・ローマンエヤールが答えた。

「そりゃそうだろ、親友の子どもだからね。

 お前の顔を見ればすぐに、

 ブリュンヒルデの息子だってわかるだろ」

「えええっ、親友?」

 フィオナが叫び、エリザベートも目を丸くする。


 俺は彼にうなずいた後、大魔獣ファヴニールを見上げた。


 あの時、大魔獣が俺を見て言った言葉の翻訳は

「お前はもしや、ブリュンヒルデの子か?」

 だったのだ。俺の母親と知り合いだったなんて。

 これが”嘘だろ!”と叫ばずにいられるだろうか。


 キールは懐かしそうに大魔獣を見て言った。

「勇者パーティは以前、()()と遭遇したんだ。

 でも彼女に高い知性と倫理観があることをダンが見抜いてね。

 いろいろ苦労して交渉する過程で、

 彼女とブリュンヒルデは親友になったんだよ」


 改めて大魔獣を見上げて俺は言う。

「母上のことを覚えていてくれただけじゃなく、

 協力してくれることになったんだ。

 ”どのみち歪んだ光魔法は滅するつもりだった”と言って」


 だから俺は事情を説明し、一芝居(ひとしばい)うってもらうことを頼んだ。

 補助魔法で自分を強化しつつ、

 俺は最速でファヴニールの懐に飛び込むと同時に

 大魔獣は俺のいた場所に黒炎を吹きかけてもらい、

 充分に煙が周囲を覆ったら、その後ゆっくり横たわってもらう。


 それを見ていた見張りのフレディたちは、俺が死に

 大魔獣も”倒された”と思ったのだ。


 フレディたちは大喜びし、さっさと帰国していったが、

 第4軍の兵たちは俺の死を(なげ)いてくれて、

 せめて遺体の回収しようとパルダルに残ったのだ。


 そして必死に地面を掘り返そうとしてくれていた彼らの前に

 地中から俺と大魔獣がボコッ! と現れたのだ。

 大魔獣にとって地中など”厚めの羽根布団”だし、

 その大魔獣の羽の隙間にいれば、俺にとっても問題なかった。


「そして彼らに”帰還命令”を出したんだが……

 俺はもう、お前らのやり方には慣れっこだったからな。

 たとえ成功しても、お前らは絶対に

 その成果を潰しに来るってね。お見通しだったよ」


 母上の名前が出て以来、

 魔王は拾い上げた弓を抱えて動かないし、

 王妃は真っ白な顔で般若の形相になっていた。


 代わりに王太子が叫んだ。

「お見通しだと?! 

 だとしても、お前ごときに何が出来るっ!」


 エリザベートが俺を見上げて言う。

「出来るわ……いいえ、レオナルドにしか出来ないことだわ」

 さすがは我が婚約者殿。

 俺が第4軍に何をしたか、気付いているのだ。


 俺は手の平を王太子に向けて言う。

「俺は、彼らに力を与えたんだよ。

 ……”補助魔法”という属性だけに気を取られ、

 馬鹿にしていたお前らには気づけなかっただろうが」


 マヌケ面の王太子と、眉をしかめる王妃に告げた。

「俺の力の単位は、他の人間とは違う。

 小さな数字を見てお前らはあざ笑ったが、

 これは”指数”だったんだよ……3倍にするのではなく、

 その者のレベルを3回掛け合わせることになる。

 エリザベートなら”9×9×9”、ってことだ」


 通常の補助魔法なら27。

 でも俺の補助魔法なら729。

 王太子は必死に計算し、

 王妃は発狂せんばかりの顔でのけぞっている。


 俺はさらに続ける。

「それだけじゃねえ……知ってるか? 

 指数を”0”にしたら、何が起こるか」


 ジェラルドは”ああ!”と気付いたような声をあげ、

 エリザベートは笑っている。

 ……フィオナはきょとんとしていた。


「俺は第4軍の一人に、試してみたんだよ。

 それは、俺の予想通りだった。

 魔力の無かった彼は突然、低レベルではあるが、

 水魔法を唱えることが出来るようになったんだ」

「そんなわけ……」


 王妃の言葉を遮り、俺は言う。

「あるんだよ。何故なら0乗は、

 ()()()()()を”1”に変える。

 たとえ元の数が”0”だとしても”1”になるんだ」


 つまり0の0乗は”1”。

 これが”無”から”有”を生み出す、階乗の持つ真の力だ。


「第4軍を舐めてかかっていた第1軍は

 出会い頭に魔力の砲弾を浴び、大混乱したよ。

 反射魔法が使える者もいたから、なおさらだ。

 パニックになり、味方を攻撃する者まで現れる始末だった」


 まあ俺が、第1軍の兵に”弱体化”の補助魔法をかけまくったのもある。

 彼らは自分たちがレベルダウンしているとも知らず、

 全ての攻撃がとてつもなく強大なものに思えたのだろう。


 自分の力に自信がある者ほど、

 それを打ち砕かれた時の落差は激しいものだ。

 ”最強”と信じていた自分たちのプライドがずたずたになり

 彼らは最終的に動けなくなっていた。


「……だから第1軍を退(しりぞ)けて進むことができたってわけだ」


 俺はそう言いながら、ロンダルシアで聞いた言葉を思い出す。

 ”使い物にならない人間など、この世にいない”


 力は”大きさ”ではない。

 テクニックや知識、アイテム、なんでも使えば良いのだ。

 不可能を可能にするのは案外、簡単な事なのかもしれない。


「……それが何だと言うの?」

 王妃が俺を睨みつけながら言う。

「愚かにもほどがあるわ。しょせんは”1”でしょう?

 そんなものいくら集まったとしても、

 私たちに敵うわけないじゃない」


 その背後から王太子が怒鳴る。

「そうだそうだ! 弱い者などいくら集まっても無駄なんだ!

 お前たちは全員、俺と母上に降伏しろ!

 奴隷になら、してやってもいいぞ!」


 俺はため息をつく。

 それを見てエリザベートは苦笑いをしてつぶやく。

「……まだお分かりになりませんのね。

 それこそ、愚かですわよ」


 彼女に向かって声をあげようとする彼らに対し、

 俺は魔王を指し示して言う。

「さっきの説明で分からないのか?

 ……見ろ。こいつはとっくに動けない。

 たいした呪文も放つことは出来ないんだよ」


 王妃はギョッとして魔王を見た。

 魔王は弓を抱きしめたまま、微動だにしない。

 外見に何の変化も無いが……さすがに王妃は気付いたようだ。

 大きく息をのんだ後、絶叫する。

「嘘おおおおおおお!」


「そうだよ、こいつのレベルは今、”1”だ。

 どんなに桁外れのハイレベルでも、

 俺に0乗されたら”1”になるんだよ」


 0乗は、全ての数字を”1”に変えるのだ。

 1の0乗も、200の0乗も、3万の0乗も、全ては”1”。


 俺は彼らに言い放った。

「わかったか。俺の前では皆、その力は平等となるんだ。

 降伏するのはお前らだが……俺は奴隷などいらねえ。

 ……お前の告げた神託通り、この国を破壊させてもらおう」


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