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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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117.第4軍の帰還

 117.第4軍の帰還


 あまりのことに私と母は動けずにいた。

 大魔獣ファヴニールを倒し凱旋してくる第4軍を

 王妃は第1軍に対し、彼らを皆殺しにするよう命じたのだ。


 ”第三王子(レオナルド)の手柄”を認めず、

 国民に彼が”本当は有能である”と知られることを防ぎたいのだ。

 彼の出征を”討伐に失敗し死亡、軍も全滅させた”という

 偽りの結果にすり替える、ただ、それだけのために。


「……自軍に自軍を攻撃させたのですか。

 しかも殲滅命令だなんて」

 私は怒りに震えながら抗議する。

 そんな私を楽し気に見返しながら王妃は言ったのだ。


「第4軍がわが国の自軍ですって?

 むしろあの存在は国の負担でしたわ。

 剣の腕も無く、魔法も使えない無能の役立たずばかりで。

 あら! クズ王子にぴったりの軍隊()()()わねえ」


 私は唇をかみしめた。

 王妃が言った言葉の中で、数々の暴言よりも、

 彼らの存在を過去形にしたことに最も怒りを感じたのだ。


「ええ、レオナルド殿下にふさわしい軍ですわ。

 汚染された地域の清掃や、害虫の駆除。

 誰かがやらねばならないことを、

 してくれていた者達ですから」


 私が怒り顔で言い返したため、

 王妃はさらに何か言おうとし……急にその動きが止まった。

 視線は母の方を見て止まっている。母がつぶやいた。


「……以前私は、”物事は全てにおいて、

 早すぎるか遅すぎるのどちらかだ”と、

 レオナルド殿下に話したことがあった。

 今回は……あまりにも遅すぎた」


 その目は王妃すら見ていなかった。

 深い悔恨に飲まれ、涙すら出ないようだった。


 我がローマンエヤール公爵家にとって国民は守るべき存在だ。

 その国民を少なからず危険に晒す”軍隊”というものに対して

 私たちは尋常ではあり得ないくらい、責任を感じているのだ。


 母は王妃を見ることなくつぶやき続ける。

「兵を預かることは命を預かること。

 兵に命じる時、その報酬と代償は、

 (あるじ)が負わねばならぬのに……

 第4軍が受けた仕打ちを、第1軍の背負った罪を

 お独りで背負い切れるとお思いか?……王妃よ」


 その言葉は、淡々と語っているからこその恐ろしさがあった。

 それでも王妃はたじろぎつつも、母を馬鹿にしたように哂った。

「全ての兵は王族のためのものでしょう?

 従うのが当たり前じゃない」


 王妃は平民から王妃になり、いきなり”権力”を得た人間だ。

 力のある者が果たすべき義務なぞ、まるで興味がないのだろう。


 呆れたような顔をして母を見下しながら言う。

「他の国民だってそうよ。たいした能力も無く

 取り柄と言えば、数が多い事くらいじゃない。

 彼らに意見など必要無いわ、どうせ間違っているんですもの。

 高貴で正しい者がきちんと管理してあげるのよ」


 王妃はまた持論を展開する。

 自分は”正解が何か知っている”、選ばれた者であること。

 だから自分にまかせておけば間違いないこと。

 世界中の人々は”(あやま)り”にまみれていて、汚れていること。


 興奮気味に語る王妃の前で、母がスッと動いた。

 その片手が剣に伸び、グリップを掴む。

 私は内心焦った。まさか……王妃を斬るの?!


 王妃はそれを見て口をつぐみ、片手を挙げた。

 額に汗が滲んでいるが、口元は歪んでいる。

「……あなた方に勝ち目はない、そう言ったでしょう?」


 王妃の指がみるみる伸びて、白い蜘蛛の足のように広がった。

 その中央に白い光が集まってくる……これは!

 ゾッとするような感覚に襲われる。

 チュリーナで助祭が謎の光魔法を得て暴走した時と同じだ。


 私も応戦、いや母を逃すために身構えた、その時。

「大変です! 王妃様っ!」

 一人の伝令兵が駆け込んできたのだ。


 微動だにしない三人を前に一瞬たじろいだが、

 彼は王妃に向かって、とんでもないことを叫んだのだ。

「第4軍が……第4軍が戻って参りました!」

「なんですって?!」


 王妃は一瞬で力を消滅させ、伝令兵に向きなおった。

 母も私も衝撃を受け、彼を凝視する。


「どういうこと? 第1軍の間違いでなくて?」

「いえ、第4軍です! 現在王都に入り、

 多くの国民の歓迎を受けています!

 大魔獣ファヴニールを倒した証として、

 その爪をいくつか持ち帰ったそうです」


 私たちは驚きで何も言えなかった。

 王妃はパニックに陥ったように叫び続ける。

「嘘よ、そんなの! あり得ないわ!

 だって第4軍よ?! 勝てるわけないじゃない!」


 すると後ろから、大臣が走り込んでくる。

 貴族にあるまじきその慌てぶりが、

 今の尋常ならぬ事態を示していた。


「王妃様っ! 第4軍が戻ってきました!

 独りも欠けることなく……しかも、その」

 言いよどんだ彼の代わりに、伝令兵が続ける。

「帰還の途中、()()()()()()からの攻撃を受けたそうですが

 それを撃退するだけでなく、その者たちを捕らえて戻ったそうです」


「大規模な盗賊……」

 それが第1軍のことだと気付き、王妃は絶句してしまう。

 つまり第1軍と遭遇したが、第4軍が圧勝した、ということだ。


 すかさず母が前に出て言う。

「捕らえた者たちはどうした?!」

「はい! すでにローマンエヤール公爵家の兵に引き渡したそうです」

「何故です?! 聖騎士団に引き渡すべきでしょう!」

 王妃が焦って叫ぶ。

 彼らが尋問を受け、王命を受けたことが他国にバレたらお終いだから。


「聖騎士団は全員、警備のため王宮内に戻したと聞いております。

 ……まあ、たかが脆弱(ぜいじゃく)な盗賊なぞ、

 聖騎士団の手を煩わせるまでもありませんが」

 母がすました顔で答える。もう、いつもの母だった。


 王妃は訳が分からない、という顔でつぶやく。

「……いったい、どうやって?

 剣の腕も劣り、魔法も使えないものばかりなのに!」


 それを聞いた伝令兵が驚きながら言ったのだ。

「ええっ? 彼らはみな、”魔法”で攻撃したそうですが」

「魔法?! ……まさか、補助魔法?」

 王妃の問いに伝令兵ではなく、大臣が困惑したまま告げる。

「いえ、水魔法や火魔法、闇魔法など様々で、

 縛られた盗賊たちは皆、

 魔法による傷を負っていたと報告にありました」


 王妃は怒りに震えながら歯を食いしばっていた。

 そしてまた、滅茶苦茶なことを言い出したのだ。

「戻って来た第4軍を捕らえなさい!

 本当は魔法が使えるのに、嘘をついて従軍したのよ。

 これは王族を騙したことになるわ!」


 大臣は言いにくそうに、上目遣いに言う。

「それが……彼らが言うには、”急に使えるようになった”と」

「そんなこと……」


「十分にあり得るでしょう。前例もあります。

 それにそもそも、彼らが魔法を使えないことを

 隠して第4軍に所属するメリットは何もありません。

 たとえレベル1でもあれば、第3軍に属せるのだから」

 母の反論に、王妃は何も言えなかった。

 だって、その通りだから。


 全滅を狙って攻撃してきた第1軍を

 なんと第4軍が退けたのだ。

 彼らが生きていてくれた、というだけで母は嬉しそうだったが

 私は彼らの勝因は、間違いなくレオナルドの策だと確信していた。


 彼は生きている。何らかの理由で身を潜めているのだ。

 そして第4軍を指揮し、彼らに”力”を与えた……どうやって?


 目まぐるしく頭を働かせる私の横で、

 王妃と母がにらみ合っていた。


 この番狂わせがあまりにも予定外だったのか

 王妃はすでに取り(つくろ)う気もないようだった。

「ローマンエヤール公爵夫人っ!

 お前は先ほど私に剣を向け……」

「剣など抜いていませんが?」

 冷たく答える母。確かに剣の柄を握っただけだ。


「いいえ黙りなさいっ! 私の命に従うのよ!

 お前たちが他国の軍を殲滅しないというのであれば

 これ以上進軍できないように進路にある街を燃やすしかないわ!」

 この狂気。このヒステリック。

 己こそ正義と信じているからこそできる、異常な振る舞いだ。


 これを恐れ、両親やキース叔父様はなかなか手が出せなかったのだろう。

 おとなしく従っておけば、ただの”傲慢で意地悪な王妃”だったから。


「もうこの国は滅びるわ? 公爵家の始祖が泣くわね。

 我が子のように思っているんでしょ?

 それなのに見捨てるのね。ああ、可哀そうな国民たち!」

 母は苦悩の表情を浮かべて沈黙する。

 自軍を自軍に襲わせた女だ。

 そして王妃は、”公爵家の脅し方”を知り尽くしていた。


「他国に侵略されるくらいなら、ワタクシ、

 この国を完全に滅してしまいたいわあ。

 誰も住めないようにして、全員殺すの。

 だって王族がいなければ、国民の価値なんて(ゼロ)じゃない」


 (ぜろ)?……(ゼロ)


 私の脳裏に答えが閃いた。

 そうか、そういうことか!


「……承知しました」

 我慢の限界に達したように母がつぶやいた。

 私もそれに続き、王妃に告げる。

「ええ、そうですわ。王妃様のおっしゃる通りですわ」


 眉をしかめた母と、ニタア~と笑った王妃が私を見る。

 そんな二人に、私は満面の笑みを向けて言ったのだ。


「私は己の力を全てこの国に捧げるため……

 ”国王様の命に従う”という、”神に対する誓約”を行います」


読んでいただきありがとうございました。

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