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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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116.王妃の狂った主張

 116.王妃の狂った主張


 私たちの戦いは、とうとう山場を迎えたのだ。

 しかしここにはレオナルドがいない。


 私は緑板(スマホ)を使おうと思ったが、

 すでに機能していなかった。

 フィオナも不安げに言う。

「ここ数日は検索も連絡も出来ませんよね。

 ……考えられるとしたら、王妃による干渉でしょうか」

 元世界で言えば、電波障害のようなものだろうか。

 それとも……”終わり”が近づいているからなのか。


「各国がこの国に押し寄せていると知り、

 さぞかし王妃たちは焦っているだろう。

 思い余って大胆な行動に出るかもしれないな」

 母が思案げにつぶやく。


 一斉に各国が動いたのだ。

 これはすぐに”あらかじめ計画されたもの”だと気付くだろう。

 そうなると追い込まれた王妃たちは、

 交渉などではなく、大胆で強引な手を使うしかなくなる。


 例えば王妃だけが扱える未知の光魔法、

 ”大光明トータルステロウ”を他国の軍に向けて行使する、とか。

 王妃はフィオナがそれを解呪できることを知っているのだろうか。


「全てが最高のタイミングです。

 シュバイツ公爵家(うち)が”王族”と”上位聖職者”に対し

 ”政教分離の原則や神の教えに背いた行為が多々見られる”と

 教会本部と議会に申し立てたところでしたから。

 チュリーナ国がここに来るのは侵略にはあたりません」

 ディラン様はそう言って、口元に笑みを浮かべる。


 最初に会ったころは、教会の不正を知りつつも

 ”シュバイツ公爵家は最も教会に近い貴族だから

 拒否も妨害もできるわけがない”などと言っていたのに。


 彼が変わったのはフィオナのためなのだろう。

 あの溺愛はただの猫可愛がりではなかったのだ。

 本気でフィオナを守る決意が感じられ、私は嬉しかった。


「もはや、べリア元聖女を逃がした件について

 犯人探しをしている場合じゃなくなったみたいだしね。

 教会や町にうろついていた聖騎士団たちは全員、

 王城へと戻っていきました。

 ……あんな腰抜けに何が守れるというのやら」


 聖騎士団なぞ、ろくに戦ったこともない貴族の子弟か

 お金を積んで入った平民しかいないのだ。

 私たちが苦笑いをもらしていると。


「失礼いたします! 公爵よりもう一通届きました」

 誰よりも先に私が駆け寄り、その書簡を受け取る。

 今度の書簡は間違いなく、レオナルドに関するものだから。


 母はうなずきかけたが、それを留まり、

 私に書簡を渡すように手を差し出した。

 もしこれが悪い知らせだった時、

 私の心が壊れてしまわないか案じているのだろう。


 今になって細かなところで、

 思いのほか両親が過保護であることに気付く。


 私はおとなしく手渡したが、

 令嬢としてあるまじきことではあるが横から覗いた。

 母は内容を抜粋して読み上げる。

「……大魔獣ファヴニールを討伐した第4軍が戻ってくるそうだ。

 殿下が用意した馬があるから、1日か2日でこちらに着くだろう」


 誰も予想しなかった第4軍の凱旋だ。

 国内でもちらほらその噂が流れているが

 レオナルドの手柄を公表したくない王家によって秘密にされていた。


 でも、戻ってきたらそうはいかない。

 彼らがあの大魔獣を倒したことを

 隠し続けることは出来ないだろう。


 しかし私は書簡の中に衝撃的な一文を見つけてしまう。

 ”ただし、その中にレオナルド殿下はいない”


 一瞬、激しく動揺するが、続く一文に困惑してしまう。

 ”彼らはレオナルド殿下に”帰還命令を受けた”、とのことだ”


 どういうことだろう。

 生きているのに、自軍と同行してないなんて。

 大怪我をしているから動けない?

 他に行くところがある?


 くり返し書簡に目を滑らせる私に、母が言った。

「エリザベート。王宮に向かうぞ……先手を打つのだ。

 殿下が()()()()()前に」


 ************


「どういうつもりかしら? ローマンエヤール公爵夫人」

 王妃が高くアゴをあげ、母を見下すように言う。


「我が公爵家にかけられた根拠なき嫌疑に対し抗議いたします」

 それは挨拶もそこそこに、母が述べた言葉に対しての返答だった。


「建国以来、この国を支えてきた我らに対し、

 あまりにも荒唐無稽なお話、

 夫の耳に入れば激昂しかねません。

 ですからその前に、そういった下らぬ疑いを

 晴らしておく所存でございます……互いのために」


 最後の言葉に力を込めて、母がよどみなく答える。

 王妃はそれを鼻で笑った後、おおげさに驚いた顔をして言う。

「まああ! 王族を脅すおつもりなのかしら?

 何という事でしょう! やはりローマンエヤールは……」

「脅しではございません……本気でございます」


 母は王妃の言葉を遮るという無礼だけでなく、

 一瞬で噴き出るような殺気をまとわせて言い放った。

 それにはさすがの王妃も言葉を失い、

 両目を剥いてこちらを見ている。


 私も母に続いて王妃に告げる。

「王妃様。わが公爵家の始祖である

 ”暗黒の魔女”エレオノーラ・ローマンエヤールは

 シュニエンダール国を我が子のように思い、

 その力の全てを注ぎ守り抜きました。

 我らにもその意思は受け継がれており、

 国にとって不益になるような選択をするはずはありません!」


 私の言葉に彼女は息を吹き返したように笑った。

 うんうん、とうなずき、ニタア~と笑って私に言う。


「そうですわよね? ええ、その通りだわ。

 今まさに他国から攻め込まれようとしているこの時、

 あなた方、特にエリザベート。

 しっかり私たちを守って下さらないとねえ?」


 ()()に食いついた王妃に私は首をかしげて尋ねる。

「あら? 攻め込むとは聞いておりませんけど。

 もし来訪してくださる他国の方に対し、

 侵略などと言おうものなら外交問題ですもの。

 ……それとも、何か来られてマズいことでもございますの?」


 もちろん侵略などではない。

 元勇者の功績に対するご恩返しもあるようだけど

 他国がここまで協力的なのは、この国が危険だからだ。


 あの不可解な光魔法と新種の妖魔が

 この国の王妃によって操作されていることは

 ブリュンヒルデ様が各国に知らせている。


 この国がさまざまな諸悪の根源であり、

 王妃の力は世界を滅ぼしかねない脅威だと知っているから、

 それを阻止するために集まったのだ。


 そして、王妃もそれをわかっているはずだ。

 だから絶対に入国を阻止し、彼らから罪を糾弾され、

 自分の”世界を浄化する計画”を阻止されるのを防ごうとしている。


 王妃は私を睨みつけて言う。

「軍を率いてくるなんて、攻撃以外ありませんわ。

 迎え撃つにしても、私の力はあまりにも強大なのですよ?

 国民に被害が出たらどうなるか、

 エリザベート、あなたが一番ご存じでしょう?」


 ああ、やはり”大光明トータルステロウ”で脅してきたか。

 沈黙する私に、王妃はさらに言葉を重ねる。


「ローマンエヤール公爵家にとってこの国は、

 国民は我が子なのでしょう?

 そのためには王家に”誓い”を立てなさい、今すぐにでも!

 真の忠義を見せるのですっ!」


 私は肩をすくめ、それを軽くいなして返す。

「あら、私の力よりも、神のご加護を祈られたほうが安心ですわ。

 きっとカデルタウンのように守ってくださるのではないかしら?

 ……やはり正しい者には、神の力添えがあるのですね。

 清く正しく生きる者を誰も害することはできませんわ」 


 笑顔の私に”奥の手”を一蹴され、

 王妃はいきなり立ち上がって叫んだ。

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」


 王妃は目を剥き、歯を剥きだしにして叫び続ける。

「カデルタウンが()()()()()のは邪悪な力のせいだわっ!

 いくら正しくても清らかでも、神の力添えなどあるものですか!」

 あぜんとし、身を引く私と母に、

 両手で扇子を握りしめ、息も荒く王妃は言葉を吐き出す。


 どうやら、内心はギリギリの状態だったらしい。

 ただでさえヒステリーな気質に拍車がかかったようだ。


「いいこと? どんなに正しく清廉潔白で正しい行いをしても

 誰も褒めても認めてもくれないのよ!

 男は正しい者ではなく美しい者を選び、

 女は金と権力の有無で選ぶんだからっ!」

 王妃はすでに、聖女だった頃の平民に戻っていた。


 そして悔し気に、憎々し気に言ったのだ。

「どれだけ人道を説いても……()()()()のために

 ”すべき事”や、”してはならぬ事”を告げても……

 誰一人として、耳を傾けるものなどいなかったわ!

 正しいことをしても、言っても、無視されるのよお!」


 ハアハアと荒い息をつき、王妃はこちらを睨んでいる。

 そして馬鹿にしたように哂い、私と母に向かって言ったのだ。

「だからね? 悪しき者、間違っている者は、

 正しき力によって支配しコントロールしなくてはならないの。

 言ってもダメなんですもの、それしかないでしょう?」


 そしてゆっくりと私に向かって歩いてくる。

 目の前まで来て、出来の悪い生徒に言うように語りだす。

「そしてバランスが大切なの……わかるかしら?

 なんでも等しくないといけないの。

 そうでないと、不平等じゃない?!

 幸せのぶんだけ不幸はやってくるし、

 お金持ちはそのぶん損をするものなのよ」


 そして私の顔を目を細めて見ながら。

「そして……美しい者は、それ(ゆえ)に不幸にならないとダメなの!

 美しいがゆえに苦しまねばならないといけないわ。

 美女が美男と結ばれるなんておかしいでしょう?

 醜く、好きでもない男と結ばれるのが正しい世の(ことわり)なのよ」


 私はゾッとする前に呆れてしまう。

 それは(ことわり)などではなく、完全な(ひが)み、(ねた)みだろう。


 そんな間違った自己流な理屈のせいで、

 レオナルドのお母様を国王の妾にしようとしたのか!

 エリザベート(わたし)をレオナルドから引きはがし、

 あの気持ちの悪い王太子の妾にしようとしていたのか!


 元・世界の感覚がある転生者の私としては、

 時代遅れであり、偏り過ぎたその考え方に呆れはするが。

 ……この手の人間を説得できないことも知っているのだ。


 私は王妃に言う。

「数学が不得意であらせられましたか?

 イコールの使い方が間違っておりましてよ。

 でも”悪しき者、間違っている者は、正しき力によって制する”

 この主張だけは賛同させていただきますわ」


 王妃は私に掴みかからんばかりに詰め寄って叫ぶ。

「……お前たちに勝ち目はないわ。

 そしてレオナルドも戻っては来ない。

 ”第三王子は死に、第4軍は全滅し、

 大魔獣退治は失敗に終わった”……これが現実よ?」


 私の前に母が割り込み、冷静に返す。

「第4軍は今、こちらに戻っております」

「フフフ、第4軍が? 戻って、ですって? アハハハハ……」

 それを聞いた王妃は愉快でたまらない、というように笑った。

 王妃らしからぬ笑い方をした後、彼女は私たちに言ったのだ。


「いつまで経っても第4軍は戻ってこないわ。

 だって、第1軍を向かわせたもの」

 言葉の意味がわからず、私は眉をしかめた。

 隣で母が戦慄している……ということは。


「彼らに出した王命はね、”第4軍を全滅せよ、一人も残すな”、よ。

 ねえ? だから言ったでしょう?

 あのクズ王子は討伐に失敗し死亡、軍も全滅させたって!」


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