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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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107.かつての仲間

 107.かつての仲間


「……これはすごい。アメリカのグランドキャニオン、

 いやレッドロックキャニオンを彷彿とさせる景色だなあ」

 眼前に広がる荒野に感嘆し、

 僕は思わずつぶやいてしまった。


「さすがジェラルド殿、いろいろな地をご存じのようで。

 ”騎士の称号”を2つもお持ちの方は違いますな」

 隣にいた聖騎士団長が嫌味(イヤミ)ったらしく返してくる。


 元世界の話だし、どちらも行ったことはないのだが、

 何を話しても嫌味か見下したことしか返せないこの男にも

 シュニエンダール国からの行程ですっかり慣れてしまった。


 僕はあいまいな笑みを浮かべた後、

 振り返って、下に散らばる”南方調査団”を見た。


 あの日、ローマンエヤール公爵より、 

 ”未確認の魔獣が発生した疑いがあり、

 それを調査するためフリュンベルグ国の南へと赴任せよ”

 という王命が出たことを聞いた時。


 とりあえず、すぐに”承知しました”と返事はしたけど

 心の中は不満と疑心暗鬼でいっぱいだった。

 あのタイミングで、そんな王命なんて、

 胡散臭いにもほどがあるではないか。


 王子もするどく指摘してくれた。

「……その報告をしたのは、聖騎士団ですね?」


 僕が東側での討伐に専念できるよう、

 聖騎士団を南側に移動させ、魔獣の動きを抑えてくれたのだ。

 しかしその彼らが何かを発見した、

 というのは辻褄が合うようでいて

 実はかなりおかしな話なのだ。


 何故なら、僕が東側の討伐を終え帰国した時には、

 聖騎士団もほぼ同時、いや少し前には国に戻っていたのだから。

 しかもその後、フリュンベルグ国は何度も、

 南側の巡回警備を行っているのだ。


 本国の彼らが何も見つけていないのに、

 先に帰国したシュニエンダール国の兵が

 何を見つけたというのだろうか。


 そしてさらに不自然なのは。

 ”同行する隊は、自分の所属する公爵家の隊ではなく

 聖騎士団より集められた者で結成された臨時の調査団”という点だ。


 何が何でも”騎士の称号”を持つ者を

 聖騎士団に組み込みたいのだろうか。


 コネと権力で聖騎士団入りを果たした貴族の子弟や

 金を積んでなんとか潜り込んだ平民の兵士。

 まともな者が極端に少ないこの団は、

 未だに何の実績もあげていないのだ。


 設定だけでも充分に疑わしい、この王命。

 それでも行かねばならないのは、

 元世界の会社員生活でも味わった苦労と一緒だろう。


 不自然だ、不可解だ、 矛盾している……

 そう個人としては思っていても、

 従わねばならないルールや、

 こなさねばならない業務があるものだ。


 主体となる仕事内容で苦しんだり困ったりするよりも

 そういった付帯業務や人間関係などのほうが

 よっぽどスムーズな職務の遂行を妨げているのではないだろうか。


 そんな苦々しい気持ちを抱えつつも、

 ここに来る前に十分に調べてはきたのだ。

 そして緑板(スマホ)で検索して出てきたのは、

 頭を抱えたくなるような事実だった。


 僕は苦笑いでつぶやいた。

「……勇者(王子の父上)でうまくいったつもりなんだろうな。

 また同じ手法を繰り返すなんて」


 ************


 そして今、入念な準備の後、

 僕は聖騎士団を引き連れてこの地にやってきた。


 フリュンベルグ国の南側は

 赤みがかった岩山や荒野が広がるエリアだ。

 デコボコと起伏が激しく、

 ところどころ地層が縞模様になって見えている。


「……ここで待ち合わせのはずですが、遅いですね」

 僕がそう言って辺りを見渡すと、

 聖騎士団長はあわてて目を泳がせた。

 ……もうちょっと、平静を装えないものでしょうかね。


 この辺りはフリュンベルグ国の領土内だ。

 魔獣討伐などで多少の侵入は許されるが、

 そうでない場合は事前の許可が必要だし、

 ”未知の魔獣が出現した”とあれば

 一緒に調査する、と言い出すのは当たり前の事だけど。


 しばらく待っていると、背後から伝令兵が駆けてくるのが見えた。

 そして彼は、聖騎士団長を見ながら叫んだ。

「フリュンベルグ国の方がお見えです!」


 遙か遠くを見れば、南側からぞろぞろと

 フリュンベルグ国の兵たちが歩いてくるのが見えた。

 南側から来るとは……一番来てはダメな方角だろう。

 僕はひそかに呆れていた。


 フリュンベルグ国の調査兵たちは、僕らの目前まで来ると

 あの国独特の敬礼をした後、ふんぞり返って挨拶する。

 そして長々と、今回の調査目的や魔獣の脅威について語り出す。


 僕はふたたび呆れ、ガッカリしていた。

 これが一国の軍隊長が立てた計画なのか?

 あの国(シュニエンダール)、本当に終わっているなあ。


 話を聞き終わり、僕はふと、

 ()()()()()()フリュンベルグ国兵に目を向ける。

 その中の一人に、昔ながらの顔なじみが居るのに気付き、

 僕は吹き出しそうになってしまう。


 オリバー!

 思わずその名が出そうになったが、何故か口が開かない。

 それどころかぎこちないまでに首が横を向けられたのだ。

 ……これは!


 僕の中のオリジナル・ジェラルドが、

 ”彼に気付いたことを悟られてはいけない”、

 そう思い、僕の行動を阻止したのだ。


 王子が前に話していた、突然体をオリジナルが支配する、という感覚。

 僕は初めてそれを体験し、衝撃を受けていた。

 いや元々は彼の体だから、当然のことなのだけど。


 不自然に首を曲げたままだとマズいので、

 僕は心の中でオリジナル・ジェラルドに語り掛ける。

 ”わかりました。彼のことは言いません”

 すると、体が自由になったのだ。


 何故だ?

 僕としてはすぐにても、数多くの矛盾点を指摘することで

 この茶番劇の幕を下ろしてもらう予定だったのに。


 事前に緑板で調べて出てきたのは、

 この王命はレオナルド王子の戦力を削ぐため、

 僕を暗殺するための計画だった、ということだ。


 さっき来たフリュンベルグ国兵はみな、聖騎士団員が演じているものだ。

 この作戦はあの勇者を追い込んだ時と同じ。

 名目は”調査を命じて外国に派遣する”、だが

 調査は虚構だし、一緒に行くのは自分を始末するための要員たちだ。


 それにしても、あまりにも杜撰(ずさん)な暗殺計画ではないか。


 なんで国の最南にいるのに、さらに南から軍兵が来るんだ?

 彼らは今までシュニエンダール国にいたことになるぞ。


 さっきの敬礼は確かにフリュンベルグ国独特のものだが

 ”形式的な無駄を嫌う”あの国は

 そんなの式典の時にくらいしか行っていないのだ。


 それに迅速かつ合理主義の国なのに、

 長々と現場で口上を述べるなど絶対にしてはならないだろう。


 そしてさらに。

 なんでフリュンベルグ国兵の中に

 かつて僕が一緒に訓練に励んだ、昔の仲間(オリバー)がいるのだ!


 ************


 オリバーは剣を持ち始めた頃から、

 数々の鍛錬をこなしてきた仲間の一人だ。


 一緒にこの国を守って行こう! と約束し、

 基礎体力をつけ、戦法を座学と実技で学び、

 剣の腕をひたすら磨く日々を、共に過ごしてきたのだ。


 あまりにも厳しい訓練に心が折られ、

 ひとり、またひとりと抜けていく中、

 オリバーを含め数人の仲間は、

 必死にかじりつき、血反吐を吐きながらも諦めずに頑張った。


 たくさんの討伐に同行し、

 一緒に死にかけたことなんて何度もあった。

 助けたことも助けられたことも星の数だろう。


 僕は少なくとも、彼らを仲間だと思っていた。

 あの、聖騎士団選出の時までは。


 僕の成果を全て貴族の子弟に奪われ、

 必死に事実を訴えるも、誰にも相手にされない。

 それどころか”お前が戦っているところなど見たことも無い”

 とまで言われる始末だった。


 そしてオリバーを含む仲間たちは誰ひとり、

 それを否定してくれなかったのだ。


 僕はあの日の屈辱と悲しみを思い出し、

 ぐっと歯を食いしばった。


 しかし。実際に沸き上がった気持ちは

 あの日のものとは比べられないほどに

 ちっぽけな怒りであり、軽薄な悲しみだった。


 何故なら、僕は今、とても幸せだからだ。

 それどころかあの陳腐な聖騎士団に入団していたら……

 そう思うと、ゾッとするくらいだ。


 僕は王子や公爵令嬢、フィオナさんを思い出し、

 ふわっと胸が温かくなるのを感じていた。


 ************


「さあ、準備が出来次第、出発するぞ!」

 聖騎士団長の声で我に返り、僕はふたたび困惑してしまう。


 (オリバー)の存在は”動かぬ証拠”になり、

 彼らにぐうの音も言わさず計画を中止できるのに。


「誰かの罠かもしれません! 

 不可思議な点が多いため撤退します!」

 という台詞さえ、考えておいたのに。


 僕は地図を見るふりをして、慎重に彼を観察した。

 するとさっきは驚くばかりでスルーしてしまったが

 オリバーが唇に、右手親指の爪を

 当て続けているのに気づくことができたのだ。


 あれは……”何も言うな”のサインだ。

 一緒の隊にいた時、討伐の訓練を行った時に、

 仲間内だけで作った秘密のサインじゃないか?


 僕はあごを高くあげる。これは”了解”のサインだ。

 するとオリバーは次に、すばやくこぶしを振り下ろし、

 次にそのこぶしを、まるで伸びをするように大きく回した後、

 胸の前でパッ! と開いてみせた。


 僕は激しく動揺したが、必死に取り繕い、

 もう一度、あごを高く上げ、

 隣の聖騎士団長に聞こえるようにつぶやいた。

「天気は問題ありませんね」


 聖騎士団長は今さらそんなこと、というように鼻で笑ったが

 僕の心中はそれどころではなかった。

 オリバーが送って来たサイン、それは。


 こぶしを振り下ろすは、”逃げろ”。

 大きく回すのは”全体、もしくは全員”。

 そして胸の前でパッと開くのは……


 逃げろ。全員、殺されるぞ。


 彼は僕に、それを伝えてきたのだ。

 ……おそらく命がけで。


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