~ドルオタの僕が、異種族アイドルグループで世界を救うまで~
ドルオタの僕と異世界と無力な能力と…
僕は、いつも通り推しのアイドルグループ「うさぴょいわっしょい」のライブに行き、いつも通り物販で推しの「火野 咲楽」のうちわを購入し、いつも通りデビュー曲の「うさうさはっぴーDAYS」で最高潮に盛り上がる。そんないつも通りの充実した休日を過ごす予定だった。
ただ僕の望んだいつも通りの幸せは、今日は叶いそうにもなかった。
いや、正しくは「永遠に」望んだいつも通りの幸せは叶わないのかもしれない…。
それは、誰しもが今の僕の状況を見れば一瞬で察することができるであろう。
僕の体は宙を舞っていた。
「どういう状況?」と聞かれても、言葉の通り僕の体は現在この瞬間、宙を舞っているのだからそれ以上説明のしようがない。本当にそのままの意味で宙を舞っているのだ。
今何が起きているのかを説明する場合に今大事なのは、「どういう状況か」ではなく、「何が起きたのか」だ。
誰に聞かれているわけでもないが、宙を舞っている僕が「今何が起きているのか」をもっと簡単に説明することにしよう…僕は車にはねられたのだ…。
ふと目を覚ますと辺りは真っ暗闇であった。
(ああ、僕…死んだんだな…。)
不思議と自分が死んだことを冷静に納得している自分がいることに驚いた。
(死んだ場合って、こんな真っ暗闇の場所に連れていかれるんだ。)
(ってあれ、誰か迎えに来てくれて地獄か天国か~みたいな展開は?それか、目の前に4年前に亡くなったおばあちゃんが出てきてたろちゃんこっちよ的な展開は??)
先ほどの説明は撤回しよう。僕の冷静さはものの5秒と持たなかった。
(あ、もしかしてこれまずくね。意識がある状態で、こんな暗闇に一人。え、この孤独をいつまで耐えればいいの。そもそもここはどこ!?わたしはだれ!!!!?)
考えれば考えるほど、辺りも自分の未来も真っ暗すぎて冷静さを欠いていく。
(だめだああああ。僕はこうやって好きなアイドルにも会えず、暗闇の中で一人孤独に生きていかなきゃいけないんだああああ。いやもう死んでるから生きていくとは違うけど…ってそんなことどうでもいいから、さくにゃん(火野 咲楽)に会いたいよおおお。)
生きていた時の後悔を巡らせるがもう遅い。この暗闇から逃れる方法なんてないし、絶望しかないと諦めかけていたその時であった。
僕の目の前にまばゆい光とともに、一人の女性が現れたのである。
「汝は選ばれた。この世界を救うために、異世界から呼ばれた来訪者。今こそ…」
「人だあああああああ!!!人がいたあああああ!!!!助かったんだあああああ!」
「あ、今しゃべってるから先に説明だけ…。」
「しかも見た目めっちゃ女神っぽい!え!!これは天国期待していいのか!!!!?」
「ちょ、まだ私の説明が...。」
「神様仏様女神様ありがとう!!!!このまま孤独なんていや…。」
「チェストオオオオオオオオオオ!!!」
目の前の女性が容赦なく僕の両目に指をさしてきた。
「いでえええええ!何するんですか女神様!!!」
「私は女神なんかではない!この世界の案内人だ!そもそも人の話を最後まで聞け!」
「案内人!?え!?あなたがこれから地獄か天国か僕の行く先を決める案内人ってこと?女神様みたいな格好して出てくるからもう天国ルートなんだって勘違いしたじゃないか!僕の期待を返してくれ?」
女神っぽい女性は、僕を憐れむ目で見ていた。
「あなたもしかして人の話を最後まで聞けないタイプの人?」
「そんなことはない!毎日推しのさくにゃん(火野 咲楽)の配信で、3時間近く話をぶっ続けで聴き続けているのだから!」
女神っぽい女性の目はより一層憐れみを増した。
「それはあなたに対して話してるんじゃなくて、不特定多数の人間に対して話していることを聞いているだけじゃない。言葉のキャッチボールをしなさいって私は言ってるのよ!とにかく私の話を聞きなさい!可哀そうな人間、星月 太郎よ。」
「可哀そうっておい!!さくにゃんは僕のコメントだって読んで…って…あれ、なんで僕の名前を?」
「だから最後まで聞けって言ってるのよバカ郎が」
僕の聴き間違いであろうか、聞き間違いでないのであれば貶されたような気がした。
「あ、なんかすみません。で、その案内人様が何の用でしょうか?」
「はあ...。まったく、しょうがないからもう一度説明するから黙って聞きなさい。」
気怠そうな顔でこちらを見ながら、案内人を名乗る女性は話し始めた。
「バカ郎よ、あんたは選ばれた。残念だけどあんたが世界を救うために選ばれてしまった。」
「ちょっと待ってください。先ほどより口調が…。」
「黙って聞きなさいと言ったはずよ?」
その表情に笑顔はなく、僕はただ「はい。」と返事をするしかなかった。
「まあとにかく世界平和にしてってことだからよろ。」
明らかに説明が先ほどより雑である。しかし、案内人の表情は険しく僕は詳細を聞くことで自分の安全が保障されなくなる気がしていた。
(これ以上聞いたら殺される気がする。けどこれってあれか、ここはあの世じゃなくて異世界的なファンタジーな展開のやつか?)
僕は、そういった転生もののアニメやラノベにも手を伸ばしていたためこれまた不思議とここまでの状況を飲み込むことができた。
(だとすると2つだけ確実に聞いておかなければないことがある。それを質問することでこの人に殺されたとしても。)
「あの...。僭越ながらご質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
案内人は黙ってこちらをにらみつけている。相当僕に対して怒りを覚えているのだろう。
「その、僕はこれから転生するってことでよろしかったでしょうか?もしそうなのだとすると僕はなにか能力を持っていたりするのでしょうか?また、何か僕がしなければならない目的などはあるのでしょうか?」
先に断っておくがここは面接会場などではない。ただ、一案内人と話しているだけなのだが僕の表情もこわばってしまうくらいに空気が重いだけなのだ。
案内人は重い口をゆっくりとあけ、話し始める。
「それをさっき説明しようとしてたんだからしっかり最後まで聞けってのよ。まあいいわ。その質問の回答はYESよ。」
(やはり目的や、能力などがあるらしい。目的は魔王討伐などであろう。だとするとここで大事なのは...そう能力だ。どこかのアニメで観たことがある。大体異世界に送られる主人公の特性は、チート能力だ。明らかに高いステータスや、類いまれなる能力の応用効果などその内容は様々だが、確実に強い能力を持っていることは間違いない。僕にもきっとそのような能力が…。)
「あんたの能力は、投写と共有よ。」
「え?」
「それと目的は、魔王討伐ではなく、政治によって苦しめられている民衆の幸せをとりもどすことよ。」
「あれ、どうして僕の考えていることが...。」
「そりゃ私も共有の能力を持っていて、あなたの考えていることが分かるからねえ。」
(あれれれれえええ!?なんか思っていたの全然違う!能力が投写と共有!?なんだそれ!とても強そうじゃないし、そのうち一つは目の前の子の人も使えるって全然チート能力じゃないじゃん!しかも、政治家の悪政から民衆を守る目的だと!?のんきにアイドルを追いかけまわして生きてきた僕にいきなり政治だと?しかも異世界の??何も理解できるはずがない。)
「私も使えて悪かったわね。今考えてることも共有の効果で丸聞こえだからね?それと、一応説明しておくと、投写の方はあんたが見た光景の記憶、もしくは進行形で観ているものを巨大なスクリーンを召喚して映し出せることができる能力よ。まあどちらも戦いには向いていないわね。あと、まあ政治のことは頑張んなさい。」
「ちょっとおおおおお!待ってください無理です!能力だけじゃなく政治もこの置かれている状況もすべて無理ですううう!僕車に轢かれたんですよね!なんで死ぬでもなく異世界に連れてこられてわけもわからない政治に首突っ込まなきゃいけないんですか!それに、僕の考え勝手に観ないでくださいよお!」
泣き顔になりながら僕は案内人にしがみつく。彼女の表情はそんな僕を見てより一層嫌悪感が増しているように見えた。
「あーもう私のパートナーがあなたなんて最悪。」
小さい声で案内人は囁いていたため僕には聞き取れなかった。
「え?いまなにかいいましたか??」
「もう細かいことなんていいわ。とにかく私は案内人で最悪なことにあなたについて旅をしないといけないの。時間も無駄なんでささと行くわよ!」
「行くってどこに!」
そう僕は聞き返したが、返答の前に辺りが光に飲み込まれた。
そして気づくと僕は、平原にポツンと一人置き去りにされていた。
「…。え。ここどこ...。というか...。これからどうしたらいいんだあああああああ!!」
僕の叫び声は、広い平原に飲み込まれていった。