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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第7章 文化祭
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肝試し

ニルフック学園の東に寂れた森がある。

曰く、怨霊の森。

かつて東方の大陸と戦をした際、ここが戦場となり多くの人が亡くなったらしい。

今でも未練を残した戦死者たちの霊が蔓延っているとか……。


森の入り口にやってきたクラスNの生徒たち。

全員予定が空いているということなので、半ば強引にノーラが引っ張ってきた。

時刻は夜、森の入り口にて。


「というわけで、肝試しをはじめまーす!」


エルメンヒルデが意気揚々と言い放つ。

この巫女、やけにノリがいい。

テンションの高い女子たちとは対照的に、男子たちはみな呆れたような顔をしていた。

響いたのはヴェルナーの舌打ち。


「チッ……馬鹿馬鹿しい。とんだ茶番に付き合わされたものだ」


ヴェルナーは絶対に霊の類など信じていないだろう。

そんな彼をたしなめるようにフリッツが口を開いた。


「まあ、ピルット嬢のクラスの出し物のためですし……一応意義はあるでしょう。わ、私は別に怖くなんてありませんが……怖いのなら無理しなくてもいいのですよ?」


「おいおい、フリッツ。足が震えてるぜ? 本当は怖いんじゃねぇか?」


「何を言うのですか、マインラート。これは武者震いというやつです」


小刻みに震えるフリッツをからかうマインラート。

そんな彼らをにこやかに眺めつつも、ペートルスは忠告する。


「肝試しを楽しむのはいいけれど、深夜に単独で行動するのは危ないね。不審者や獣に襲われてしまう恐れがあるし……」


「そこは安心してください、ペートルス先輩! 一年生、二年生、三年生のペアに分かれて、二人一組で行動したいと思います」


ノーラがエルメンヒルデに相談を持ちかけたとき、彼女はやけに乗り気だった。

今回の肝試しの行程もすべて彼女に組んでもらっている。


「でも、どうすんの? 肝試しって言っても、わたしは霊とか信じないし……たぶんペートルス様とかヴェルナー様もそうだよね。本当に肝を試せるのかって問題が……」


「今回のルートは……最奥にある慰霊碑に行くだけだよ。ノーラちゃんは『どうして人がお化けを恐れるのか』を知りたいんだよね? それならエルンに一計あり! 任せてよ」


「ふーん……じゃ、エルンを信じるよ。最初はどのペアが行くの?」


「最初は一年生ペア、エルンたちだね! 一定時間が経過したら、二年生ペア、三年生ペアと続いてもらうよ」


一緒に行く人数が多すぎても怖くならない。

二人がちょうどいい塩梅だろう。

しかしヴェルナーは険しい表情だ。


「一年生は女だけで大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ、ヴェルナー先輩。ノーラちゃんはエルンが守ります!」


「そ、そうか……何かあったらすぐに助けを呼べ」


なんだかんだで心配そうなヴェルナー。

しかし……エルメンヒルデに守ると言われるのは、ノーラとしては首を傾げたいところ。

自分がまったく護身術を身につけていないとはいえ、同級生の女子に守られるというのは……と思ったところで、バレンシアに刺客から守られたことを思い出した。


「じゃ、ノーラちゃん。さっそく行こうか」


「あ、うん。じゃあ皆さん、お先に失礼します。奥にあるっていう慰霊碑で待ってますね」


 ◇◇◇◇


真っ暗な森の中を進む。

カンテラが木々をうっすらと照らしていた。

しばし道を歩いたところで、エルメンヒルデがノーラの手を引く。


「よーし……それではノーラちゃん、作戦に入るぞ!」


「さ、作戦? なんすか?」


「ふふふ……その名も『先輩方を怖がらせよう』大作戦!」


「それって……わたしたちがお化けになるんだよ! ってこと?」


「ご明察! 思いっきりビビらせてやろうぜ!」


なるほど……悪くない話だ。

今回、ノーラのクラスは怖がらせる側。

お化け屋敷を運営する感じで、先輩を怖がらせてみるのも経験になるかもしれない。


「いいねいいね、さすが神職者。霊をしっかりオモチャにしてやがる。……でも、どうやって驚かせるの?」


「エルンは怖がらせるのにピッタリな巫術(ふじゅつ)を覚えてるんだ。昔はヒトをたくさん怖がらせたりしてたからねぇ。ノーラちゃんは傍観してるだけでもいいけど……せっかくだし何かしたいよね?」


「まあね。フリッツ様とかマインラート様とかビビりそうだし。でも三年生の二人は絶対にビビらないだろうなぁ……」


面白い反応が返ってきそうなのは二年生だ。

フリッツはすでに震えていたし、マインラートもなんだかんだで怖がりなのだ。

最初にノーラの右目を見たときは発狂して逃げ出していたし。


だが、肝心の驚かせる方法は。


「あーん。葉を揺らして音を立てるとか、変なうめき声を上げるとか……それくらいしか思いつかないな。いいアイデアない?」


「そうだねぇ……あ、ノーラちゃんにはアレがあるじゃん? 幻を見せる魔術」


「アレかぁ。でも練度が低くてね。わたしの術だってすぐにバレそうだけど」


ノーラも少しずつ鍛錬はしているが、才覚溢れる先輩方には及ばない。

特にフリッツなんかは一瞬で看破してきそうだ。


「えーっと……ノーラちゃん自身が纏う透明化とか、変装の魔術はともかく。魔力を広げて周囲の人に幻影を見せる魔術はバレないんじゃないかな?」


「あー、たしかに。わたし自身が相手の前に姿を出すわけじゃなくて、遠くから微弱な魔力を飛ばすだけだもんね。効かない可能性も高いけど……って、あれ? わたし、エルンの前でその魔術使ったことあったっけ?」


魔力を拡散して幻影を見せる術は、夏休みの間にノーラが身につけたものだ。

対象の意識に働きかけ、そこにないものを見せる範囲型の幻影魔術。

まだエルメンヒルデに見せたことはないのだが。


「やべっ……いや、なんかそういう魔術が使えそうな気がして? こ、細かいことは気にしないでやってみようや!」


「なんか露骨に逸らしたな? まあいいや。実践してみたかった魔術だし、やってみようか」


腕によりをかけて怖がらせてやろう。

ノーラとエルメンヒルデは作戦を練り、それぞれの配置についた。

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