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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第7章 文化祭
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第二学期開始

挿絵(By みてみん)


まだ照りつける日差しが残る杪夏(びょうか)

ノーラは約一か月ぶりにニルフック学園に戻ってきた。

帝都と比べると、こちらはいくぶんか暑さが和らぐ。


普通のクラスへの登校は明日から。

今日はクラスNで顔合わせすることになっている。

レオカディアとともに荷物の整理をした後、ノーラはさっそくクラスNの教室へ向かった。


「おはようございまーす」


すでに教室にいたのは、ペートルス、フリッツ、エルメンヒルデの三名。

ヴェルナーとマインラートはまだ来ていないようだ。

ペートルスは立ち上がってノーラの席を引いた。


「おはよう、ノーラ。今日も美しいね」


「あざすあざす。みなさん元気そうで何より」


いつものメンツだが、少し髪が伸びていたり、些細な変化はある。

エルメンヒルデは眠そうに欠伸をするフリッツを見て笑った。


「フリッツ先輩ねむそー」


「夏休みとはいえ、研究で忙しかったもので。そういうレビュティアーベ嬢も忙しかったのではないですか?」


「エルンは年末に向けて、神楽の練習をしてましたよ」


「年末の神楽か。レディ・エルメンヒルデは巫女長だから、君が躍るんだね。一度はあの祭事を見てみたいものだ。……ちなみに僕も政務で帝国各所を巡っていたよ。みんな忙しかったようだ」


「へー……大変だなぁ」


ノーラは他人事のように呟いた。

思えばマインラートも休む暇がなさそうだった。

重い責務を背負う者ほど、休める機会は少ないのだろう。

クラスNで余裕のある夏休みを過ごせたのは……ノーラだけかもしれない。


「あ、そうだ。お土産です」


ノーラは五つの小箱を取り出し、机の上に置いた。


「これは?」


「エティスで買ってきた茶葉です。箱のデザインがかわいかったので、衝動的に買ってしまいまして。おひとつどうぞ」


「ふむ……いいセンスだね。では僕はこれをいただこうかな。国の東部だとなかなか流通していないバジャルディアの茶葉だ」


「私はこちらを頂戴します。安眠作用のあるアトミール・フレーバーを」


「エルンはこの霊の類が好む茶葉をもらうねぇ」


「て、適当に選んできたんですけど……やっぱり皆さん茶葉の種類とかわかるんですね。てか霊が好む茶葉ってなんだよ」


さすが社交界の花たちだ。

自分はもう少し茶会の経験を積むべきかもしれない、とノーラは反省する。


クラスNの一員として恥じがないように。

入学当初はクラスNの面子とか知らねーよ……と思っていたが、最近は自分の振る舞いにも気を遣うようになっていた。

他の面々を知るにつれ、彼らがどれだけ努力して誇りを保っているのかを学び始めたから。


「私もお土産を持ってきたのですよ」


「ああ、僕もだ。僕が持ってきたのは……」


ペートルスの言葉を遮り、教室の扉が開く。

ヴェルナーとマインラートが気だるげな様子で顔を出した。


「…………」


「ざーす。みんな久しぶりー」


ヴェルナーは何も語らず席に座る。

一方でマインラートは机上の茶葉を手に取った。


「ん-……これ、誰かの土産か? センスねぇな」


「センスなくて悪かったですね。マインラート様はもらわなくていいっすよ」


「あ、あぁ……ピルット嬢の土産か。冗談だって。初心者にしては中々いいセンスしてるぜ?」


褒めているのやら、貶しているのやら。

ペートルスが面々を見渡して口を開いた。


「よし、全員無事で何よりだ。夏休みは楽しかったかな? 今日から第二学期の始まりだ。気持ちをしっかりと切り替えていこう」


ノーラはまだ弛んだ気持ちが抜けきっていない。

ペートルスの言う通り、気を引き締めねば。


「今日は顔合わせだけだから、特にやることはない。そうだね……各々がどんな夏休みを過ごしたか、簡単に話していこうか?」


「……くだらん。やることがないのならば、さっさと解散にしたらどうだ」


ヴェルナーの鋭い文句が飛ぶ。

相変わらずツンツンしていて何よりだ。

やれやれとペートルスは肩をすくめる。


「まあ……僕もあまり話せるようなことはないからね。ヴェルナーの言も一理ある。うん、今日は早めに解散にしようか。講義に支障が出てはいけない。それに……秋にはいくつか大きな行事があることだし、英気を養っておかないとね」


「行事……?」


「うん。聖エドムントの日とか、砂銀の日とかね。あとは……文化祭がいちばん大きな行事かな」


文化祭。

ノーラも名前だけは知っていた。

学園ものの小説によく出てくる「アレ」だ。


「文化祭! わたしの偏った知識によりますと、クラスの生徒同士で不和が生じて、必ずアクシデントが起きて、それを乗り越えて男女の関係が発展して……ってヤツですよね!?」


「小説の中じゃないんだし、そんなにドラマチックな展開は起こらないと思うよ。でも……もしかしたらアクシデントはあるかもしれないね?」


ペートルスは不敵に笑った。

その裏でフリッツの表情に影が射したことには、誰も気づかなかった。

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