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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第6章 差別主義者の欺瞞
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お仕事

雑巾を持った人形が動き回る。

塔の高所に位置する窓は、人形のおかげでピカピカに。

ノーラの魔法人形の操作を見て、指導者のアリアドナは感心した。


「へぇ……新人、やるじゃん。マインラート卿が連れてきただけあるね」


「わたし、有望ですか?」


「うん。かなり筋がいい。魔力操作に慣れてるんだろうね」


魔石や魔力人形など、魔力を要する物体の操作は得意だ。

魔術は暴走しがちだったが、コツを掴んでからは安定して発動できるようになったし……才能があるのかもしれない。


「小さいころから魔法とかに慣れ親しんできたかんじ?」


「いえ……魔法や魔術の類は初心者です。ただ……小さいころから、魔力で操作する弦楽器を弾くのが趣味なので、そのおかげかもしれません」


「あーね。そういえば魔力操作で奏でる楽器を使ってた人とか、魔術師には多いらしいね」


幼少の砌、母と楽器を演奏したことを思い出す。

ノーラが奏で、母が歌っていて。

その音色を父が見守りながら聞いていて。


懐かしい。

昔のことを思い出しつつ、ノーラは複数体の人形を動かして窓の掃除を終わらせた。


「すげぇすげぇ。ノーラ、普通に就職できるレベルだよ。ニルフック学園の生徒なんだっけ? 卒業したら城で魔術師として働かない?」


「あはは……ま、前向きに検討しておきます。まだ一年生なので、卒業後の進路とかは考えてないですね……」


「あ、まだ一年なんだ。マインラート卿の同級生っていうから、てっきり二年生かと」


「一年生から三年生まで合同のクラスがあって、そこでマインラート様と知り合ったんです」


「クラスNってやつ? なんかすごい学級らしいね」


学園の生徒ではないアリアドナの耳にすら、クラスNの名声は届いているらしい。

入学したてのころにクラスNの存在を知らなかったノーラが、どれほど世間知らずだったのかがわかる。


他愛のない話をしながら、ゆっくりと歩くアリアドナの後に続く。


「ウチらの管轄は城の北東部。定点に設置してある人形を動かして、色々やらせるわけ。だらだら歩いて数時間くらいで終わるかな。ノーラが来てくれたおかげで、一気に仕事が進みそう」


「そんなに人手不足なんですか?」


「そもそも魔法人形を操作できる人材が少なすぎるんだわ。ウチの後輩の新人も、入ってすぐ辞めちゃったし」


「えっ……すぐに辞めるほどブラックな職場なんです?」


だとしたら、ここに働きにきたことを後悔する。

マインラートは気楽な仕事だと言っていたが、ブラックな実情を隠すための嘘だったのではないだろうか。

戦々恐々とするノーラを見てアリアドナは苦笑いした。


「いや? むしろ楽すぎてやりがいがない、みたいな? そもそも魔法人形を操作できるほどの逸材なら、もっと高給でやりがいのある職場が山ほどあるんよ。ウチは楽だからこの仕事を続けてるけど」


「なるほど……まあ、わたしも夏休みの間だけの仕事ですけど」


「構わんよ。その間に人員の整理とかやるらしいし。整理の合間に補欠としてノーラが来てくれるだけでも助かるよ。……あ、次はそこね。その若干黒ずんだ人形で水道の掃除」


「了解です」


魔力を飛ばし、人形を動かす。

アリアドナに言われるがまま、ノーラは淡々と作業を進めていった。


 ◇◇◇◇


空が茜色に染まる。

城の見取り図を確認しながら仕事を進め、北東部のすべての地点を回りきった。


「ふぃー……これで終わりー。おつかれ」


「おつかれさまでした。これで解散、ですか?」


「うん。……そういやノーラって、寮で過ごすん? それとも宿?」


「えっ……」


そういえば、そうだ。

どうやって夜を明かすのだろうか。

ルートラ公爵家と行き来するには遠いし、実家のイアリズ伯爵家はさらに遠い。

寝泊りする場所を決めていなかった。


「マインラート様に聞いてませんでした。確認してみます」


「そか。使用人の寮の使用許可はマインラート卿に取ればいいよ。あの人……どこにいるかわからんけど。とりあえずウチらが出会ったとこで待ってれば、そのうち様子を確認しにきてくれるよ」


「わかりました。アリアドナ様は……寮で暮らしているのですか?」


「いや、ウチは帝都に別荘があるから。そこから通いで」


帝都に別荘……ということは、アリアドナは貴族の出か。

それにしてはノーラと同じく、若干品性に欠けた振る舞いな気がするが。


「じゃ、また明日ね。夏の間、短いけどよろしく頼むわ」


「はい。おつかれさまです」


言うや否や、アリアドナが魔力を発する。

すると彼女のつま先が地面から離れ、ふわりと体が浮かび上がる。

そのまま天へと上り、小さくなっていくアリアドナの姿を見てノーラは呆気に取られた。


「と、飛んでった……」


さすが一人前の魔術師。

飛行できるのは魔術師一万人に一人と言われているのに、そんな逸材が城で雑用をしているとは。

なんだか世知辛い。

……いや、アリアドナが楽な仕事をしたいだけか。


「えーと……マインラート様を探そう。てか、最初の場所で待ってればいいんだっけ。えっと……東門の近くだったよね」


ノーラは踵を返し、最初にアリアドナと会った場所を目指す。

城内はとても広く迷ってしまいそうだ。

定期的に道を確認しつつ、ノーラはなんとか城の東門にたどり着いた。


守衛以外、誰もいない。

ひとまずここで待機しておこうと思い、ノーラは目立たない位置に立つ。


「――失礼」


そわそわしながら待つこと数分。

ノーラに声がかかる。


「あ、はい」


話しかけてきたのは守衛の二人組だ。

さっきからずっと何もせず待機しているノーラを、訝し気な目で見ていた。

普段からこの城では見かけない姿なので怪しまれるのも無理はない。


「こちらで何をされているのでしょうか?」


「あ、いえ。わたしは決して怪しい者ではなくてですね、マインラート・サナーナという方を待っていてですね」


「スクロープ侯爵令息を……?」


マインラートの名を聞いた瞬間、守衛たちは首を傾げた。

何か変なことを言っただろうか。

守衛たちは顔を見合わせ、二人でしか聞こえないような声でヒソヒソと話し合っている。


「……お名前をうかがっても?」


「ノーラ・ピルットと申します」


「スクロープ侯爵令息とはここで待ち合わせをしているのですか?」


「いえ……まあ、そういうわけじゃないんですけど。使用人の方から、ここで待っていればマインラート様が来るだろうと……」


「入城許可証はお持ちで?」


「お持ちじゃないです。で、でも怪しい者ではありません!」


言葉を重ねれば重ねるほど、守衛たちの顔つきは険しくなっていった。

ノーラはすべて正直に話しているだけなのに。

彼らはうなずき合い、ノーラの両脇に立った。


「スクロープ侯爵令息は、現在政務で外出中です。お話を伺いますので、ご同行願えますか?」


「え……わたし、牢屋とか入れられる感じですか?」


「はい」


「……はい?」

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