表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第6章 差別主義者の欺瞞
80/216

皇城へ

帝都エティス。

世界最大国、グラン帝国の首都。

ここを訪れたのはペートルスと出かけたとき以来だ。


貴族街の大路を立派な家紋入りの馬車が駆けていく。

馬車の中ではノーラとマインラートが向かい合う形で座っていた。

漂うは奇妙な沈黙。


二人は根本的に価値観が合わず、学園でも話すことが少なかった。

彼らが相対すれば気まずくなるのは想像に難くない。


「……ピルット嬢さぁ」


「は、はい?」


唐突にマインラートは沈黙を破った。

彼は頬杖をついて、ノーラと視線を合わせずに窓の外を見ながら話す。


「今からあんたが入る城には、お偉いさんが山ほどいるんだ。普段のあんたの態度は目に余る。決して粗相がないようにな」


「うーん……善処、します。口や態度が悪いのはわざとじゃないんですよ。自然と出てしまうというか」


「それをどうにかしろってんだ。はぁ……人手不足じゃなけりゃ平民なんて城に入れないのに」


マインラートはこれ見よがしにため息をつく。

ノーラは若干の怒りを覚えて、足を組む彼に苦言を呈した。


「そういうマインラート様だって態度が悪いじゃないですか」


「俺は然るべき相手にはちゃんとした礼を尽くす。ピルット嬢や学園の連中が敬意を払うに値しないだけさ。礼節を弁えているか、そもそも知らないかの違いだ」


ノーラだって多少はマナーを学んだのだ。

ルートラ公爵家に滞在しているとき、最低限のマナーは。

しかし感情が高ぶったときや驚いたとき、相手と親しくなったときに悪癖が出てしまう。


「仮にピルット嬢がやらかしたとして、責任を取るのは俺なんだからな。気をつけてくれよ。……っと、大橋が見えてきたな。相変らず気持ち悪いほどデカい城だ」


車窓から外を見る。

見上げても視界に収まりきらないほど大きな城。

正門の前にはとんでもなく長い大きな橋があった。


巨大な城はグラン帝国の威信そのもの。

千年以上にわたって歴史を紡いできた大国の誇りだ。


スクロープ侯爵家の家紋が入った馬車は、止められることなく正門をくぐる。

ついにノーラは皇城に立ち入るのだった。


 ◇◇◇◇


マインラートに連れられて、城の中をめぐる。

贅を尽くした絢爛豪華な内装、それでいて機能性を重視した効率的な造り。

名高い皇城は伊達ではなかった。


時折、場に馴染まぬノーラの姿を訝しんで見る貴族も多かった。

しかしマインラートが同行しているところを確認すると、警戒を解く人がほとんどだ。

そうして城を回ってしばらく。


「……ご覧の通り、城では魔法人形がたくさん動き回っている。大体は俺が作ったものだ。ピルット嬢にはその操作をしてもらいたい」


ノーラとマインラートの視界の先には、掃除をして回る魔法人形があった。

基本的に人がするのに相応しくない仕事を任せられているようだ。

例えば、あの魔法人形は落下したら危険な高い場所の掃除をしている。

他には夜間の警備をしたり、下水道の整備をしたり。


「魔法人形の操作……講義でやらせてもらったことがありますが、要領は魔石の操作とほぼ同じでしたね」


「そうそう。ピルット嬢は生意気にも魔力操作には長けている。あんたなら複数体をまとめて操縦することもできるだろうさ」


「人形を動かせばいいのは理解しましたが……仕事の内容がわかんないですよ。どの人形を動かすとか、どこを担当すればいいとか」


「ああ、仕事の内容に関しては……おーい! アリアドナ!」


マインラートは近くを歩いている女性を呼んだ。

黒いローブに身を包んだ、いかにも魔術師然とした少女である。

彼女は気だるげな様子で歩いて、ノーラに目をやった。


「マインラート卿。また愛人?」


「いやいや、コイツは平民。俺が平民なんかを愛人にするなんて死んでも御免だね。彼女はノーラ・ピルット。学園の同級生で、夏休みの間仕事を手伝ってくれる。……つーわけで、魔法人形を動かす仕事を教えてやってくれ」


アリアドナと呼ばれた少女は、ノーラの頭のてっぺんからつま先まで一見してうなずいた。


「うん。ウチはアリアドナ・ソール・アイノラモル。このお城で働いてる魔術師。よろしく」


「よ、よろしくお願いいたします……! ノーラ・ピルットと申します!」


粗相がないように。

ノーラはガチガチの初対面モードで頭を下げた。


「ああ、ピルット嬢。このアリアドナって女には無礼を働いてもいいからな。じゃ、俺はここらへんで。父上に呼ばれてるんでね」


片手を挙げて去っていくマインラート。

そんな彼の背を見つめ、アリアドナは欠伸をした。


「ふぁ……マインラート卿、新人連れてくるなら事前に言ってほしいわ。指導すんの怠いんだよ」


「あの。面倒だとは思いますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


なんというか威圧感のある上司だ。

態度に棘がないのに怖い。

アリアドナはローブのポケットに手を突っ込みながら、ノーラについてくるように促した。


「魔法人形の動かし方はわかる?」


「はい、わかります」


アリアドナから微弱に発される魔力。

彼女はただ城内をフラフラと歩きまわっているだけに見えるが、実際は人形を操って仕事をしているのだ。


「そ。じゃ、覚えるべきは巡回ルートだけだね。ウチについてきて」


緩慢な歩調で歩くアリアドナの後ろを、ノーラはおずおずとついて回る。

城内の各所に設置された魔法人形に次々と魔力を送り、雑務をこなしているようだ。

驚異的な集中力と精度だ。


「ええと……ノーラって言ったっけ。ウチらは決まった経路を歩いて、逐次魔法人形を動かして仕事をさせるだけ。管轄外の場所には絶対に行っちゃダメ。それさえ守れば後は適当でいいよ」


「いや、でも……お城の掃除とかさせてるわけですし、適当は良くないのでは? もしも掃除が行き届いていない箇所とかあったら……」


「違うちがう。マインラート卿の作った魔法人形はね、適当な操作でも仕事をしてくれんの。自動的に埃やゴミを探知してくれたり、人の接近を感知したり。もちろん細かい作業はウチらが命令しないとダメだけど、大体は雑な操作でなんとかなる」


「はぇ……」


たしかに……とノーラは想起する。

講義で魔法人形を操作させてもらった際も、簡単に命令を出すだけでお茶を淹れる一連の作業をしてくれた。

魔法人形を動かせる人は少ないらしいが、動かすことさえできれば後は簡単なのだ。


「じゃ、実際にあの人形を動かしてみようか。まずはこの城に仕える魔術師用の服を着て。わかんないことあったら聞いてね」


「はいっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ