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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第5章 留学生
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違和感

ノーラの顔色が優れない。

バレンシアは友人の異変を感じ取っていた。

先程ランドルフと会話した直後から、どこか上の空で。


「ノーラ、大丈夫? 具合が悪いのなら休んでもいいのよ」


「ううん、具合は悪くないんだ。あの……心配しなくても大丈夫。ちょっとお腹が空いてて」


もうすぐ昼時だ。

真偽はともかく、ノーラの不調が空腹によるものだと言うのなら。


「お昼にしましょうか。今日のメニューは何かしらね」


「…………」


二人は食堂へ向かう。

三階建ての立派な食堂は、今日も学園の生徒たちで賑わっていた。

人ごみの中、ノーラはフラフラとバレンシアに続く。


香ばしい匂いが漂っている。

空腹を刺激する香りに、ノーラは本当にお腹が空いてきた。

実のところ別の理由で考え事をしていたのだが、食事を前にそんなことはどうでもよくなってしまう。


「おーい、お前らー」


呼び声に二人は立ち止まる。

人の波をかき分けて、教師服を着た男性が駆け寄ってくる。


「あら、ソシモ先生。ごきげんよう」


ノーラたちが所属するクラスBの担任、ソシモ。

彼は間延びした声で語りかけた。


「バレンシア、ノーラ。お前らに頼みがあるんだけど」


「わたくしは構いませんが……」


「あ、わたしも大丈夫です」


バレンシアはクラスBの学級委員。

よくソシモに頼まれてクラスを取り仕切っている。

そしてバレンシアと仲のいいノーラも手伝いをすることが多々あった。


「夏休み前にな、クラスの観葉植物を菜園に移すことになってるんだ。飯が終わったらでいい。手伝ってもらえるか? そんなに量も多くないし、すぐ終わる」


「わかりましたわ。昼食後、教室に向かいますね」


「おう、頼んだ。それじゃー」


片手を挙げてソシモは去っていく。

彼の歩き方はいつも気だるげだ。

ゆっくりと遠ざかる背中を見つめてノーラは呟いた。


「観葉植物って、ロッカーの上に置いてある小さいやつだよね」


「そうね。大きいのがひとつ、小さいのが三つくらい。先生が言っていたとおり、すぐ終わる作業でしょう」


「ソシモ先生、たまに大変な仕事投げてくるけど。今日は簡単な作業でよかったね」


「まったくよ。学級委員を引き受けたの、少し後悔してるわ……」


 ◇◇◇◇


昼食後。

二人はさっそくクラスBの教室に向かう。

誰も使っていないときは施錠してあるが、バレンシアは学級委員なので鍵を持っている。

鍵を開けて二人は教室に入った。


「先生、まだ来てないね」


「まだお昼を食べているのでしょう。まあ、先生のことだから忘れている可能性も否めないけれど。少し待ってみましょう」


校舎はひっそり閑としている。

基本的に午前中で講義が終わるため、今は一年生の校舎にはほとんど人がいない。

放課後、一部の熱心な生徒は自習室や図書館に籠り、大半の生徒は街に出たり茶会を楽しんだりしている。


そんな中、ノーラとバレンシアは懸命に学園の手助けだ。

少しは褒めていただきたい。


ソシモ先生を待つ間、ノーラは置いていた本でも読もうかと自分の席に近づいた。

瞬間、教室の扉が開かれる。

先生が来たのだろうかと扉に視線を向けると……


「…………」


午前中、図書館で出会った男。

ランドルフが教室に入ってきていた。

彼は後ろ手に扉を閉めると、ノーラとバレンシアに社交的な笑みを向ける。


「二人とも、教室にいたのですか? もしかして君たちもソシモ先生から手伝いを頼まれて?」


「えぇ。もしやネドログ伯爵令息も?」


「はい。まだ先生はいらしていないようですね」


「まったく……人に仕事を押しつけておいて、遅れて来るとは。ソシモ先生には困ったものですわ」


「ははっ。俺の母校、ロドゥラグ騎士学校にも同じような先生がいるんです。いつもマイペースで、生徒に仕事を任せがちな先生が」


バレンシアとランドルフが会話する傍らで。

ノーラは想定外の人物が現れて戦慄していた。

そうだ……昼食を食べてすっかり彼のことを忘れていた。


ランドルフから適切に距離を保ちつつ、彼女は左目に魔力を通した。

魔術の類に関して素人だったノーラ。

そんな彼女も学園に入ってから先輩方やコルラードに教わって、それなりに魔力を使う動作には慣れてきた。


ランドルフの周囲に渦巻く魔力。

彼女はさらに集中して魔力を観察し――


「おや、ピルット嬢。そんなに俺のことを見てどうしました?」


「!? い、い、いいいえっ!?」


中断した。

ノーラに凝視されていたことに気がついたのか、ランドルフは笑いながらこちらに歩いてくる。


「そういえば、ピルット嬢はよくバレンシア嬢と一緒にいますね。仲がよろしいのですか?」


「いえ……あっ、はい。仲はいい、と思いますけど……バレンシアが嫌じゃなければ」


「何言ってるのよ。わたくしたちは気の知れた友人。まったく、あなたはいつもそうやって遠慮して……」


するり、するりと。

ノーラは静かに足を後退させて距離を取る。

一方でランドルフもさりげなく間合いを詰めてきていた。


そんな二人の様子を見て、バレンシアは困惑したように呟く。


「ね、ねぇノーラ。さっきからどうして後退ってるの?」


「そうですよ。俺をそこまで避けなくても」


これを言うべきか、言うまいか。

ノーラはずっと迷っていたのだ。

しかしランドルフの魔力を確認することで、ようやく確信できた。


「――テメェ、誰だよ? ランドルフじゃねぇだろ」

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