表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第4章 儚き天才の矜持
63/216

呪縛を捨てて

舞踏会は無事に閉幕。

照明が落ちるトラブルがあったものの、なんとか乗りきった。

学園の関係者たちが安堵に胸を撫でおろす中、外部から来ていた貴賓たちも次々と帰っていく。


ノーラもまたフリッツと共に、寮への帰り道を歩いていた。


「ダンスが練習よりも下手になっていましたね」


「うっ……いえ、その……練習では相手がヴェルナー様だったので、足の動かし方が違ったのです。それに思いのほか長時間のダンスになって、息が切れてしまいまして」


何よりも緊張していた。

本来ダナと踊るはずのフリッツがノーラと踊っているのを見られて、注目を集めていたのだ。

フリッツに恥をかかせないよう、最低限の踊りはしたつもりだが。


「その調子だと、一か月後にはダンスを忘れていそうですね。今後も踊る機会はありますから、忘れないように復習しておきましょう。練習をするときはヴェルナー先輩だけではなく、私にも声をかけてくれていいですよ」


「はい。運動するのにはちょうどいいですからね」


当たり障りのない会話をしているが、ノーラは少しだけ気まずさを感じていた。

フリッツは婚約を破談にしたばかり。

いつも通り振る舞っているだけで、きっと苦しんでいるはずだ。


そんなノーラの煩悶を感じ取ったのか、フリッツは言った。


「ピルット嬢。私はね、ダナさんと別れられて良かったと思いますよ。あの決断を間違いだと思っていないし、後悔もしていない」


「うん、あの決断は正解だと思います。でも……やっぱり、婚約破棄って家の名誉とか傷つけそうだし。ダナさんの性格とか考えたら……『フリッツ様に捨てられた』とか社交界に噂を流しそうじゃないですか?」


「さすがに彼女もそこまで馬鹿ではないでしょう。嘘が露呈すればタダでは済みませんからね。ただ……彼女には少し悪いことをしてしまいましたか」


「わ、悪いこと?」


「ダナさんもおっしゃっていたように、今から新しいお相手を見つけるのは面倒です。たとえ嫌いな相手とでも、家の事情によっては婚約を受け入れねばならない。貴族とはそういうものですから……家同士の取り決めを破ってしまった私にも非はあるかと」


フリッツに落ち度はない。

しかし、貴族社会とはそういうものだ。

ノーラの浅い思慮では想定できないような、深い意図が絡み合って婚約が結ばれる。


感情を優先するか、体裁を優先するか。

ふたつを秤にかけたとき、貴族は後者を取るというだけ。


「人生なんて一度きりですから。わたしは……フリッツ様の好きに生きてほしいと思います。個人的な感想ですけど……」


「はい、こうなった以上は好きに生きますよ。できることなら……私をちゃんと見てくれる人と、今度は婚約を結びたいものです」


「きっと理想の人を見つけられます。フリッツ様なら」


「……そうですね」


フリッツはおもむろに立ち止まった。

彼は目をすがめて空を見上げる。


つられてノーラも顔を上げた。

視線の先、広がる輝かしい星空。

綺麗だ。


「私の異能。曇りなき夜空のもと、未来が見える力。実はその力に関して、隠していたことがあります」


「えっ……!? それ、今言うことですか!?」


「ピルット嬢にだけはお伝えしておこうと思いまして。実は……私の未来予知は、兄上が亡くなった直後に発現したものなのです。兄上の死と関係があるのか、はたまた単なる偶然か……それはわかりませんが」


「……フリッツ様のお力は、オレガリオ様からの授かりもの?」


「だとしたら、まったく役に立たない授かりものですね」


困ったようにフリッツは笑って、歩みを再開する。

ノーラの右目の呪いは……母親が亡くなってから一年後に発症した。

誰かの死と特異な力が関係あるのかは不明だが斬新な着眼点だ。


「この事実を話すかどうかは、ピルット嬢にお任せしましょう。大して隠すようなことではありませんしね」


お任せすると言われても。

他人の死を学問に組み込むほどの度胸、ノーラにはない。


どう答えようか困っているうちに、ノーラの寮の前に着いた。


「今日は……ありがとうございました。あの、わたしのせいで色々とご迷惑をおかけしちゃって……ごめんなさい」


「あなたが頭を下げることはありません。むしろ私を呪縛から解き放ってくれたこと、感謝してもしきれません。本当に……ありがとうございました」


フリッツは姿勢よく頭を下げた。

ただ本音を伝えて、ダナに罵声を浴びせただけなのに……感謝されるのもむず痒い。

こういうときは……お互い様、というやつだろう。


ダンスの練習に付き合ってくれて、本番でも踊ってくれて。

本当に頼りになる先輩だ。


「じゃあ、わたしはこれで。フリッツ様もお部屋までお気をつけてお帰りください」


「はい。それでは……またクラスNで会いましょう」


そっと部屋の扉を閉める。

備え付きの光の魔石を起動して、ノーラはベッドに倒れた。


疲れた体が悲鳴を上げている。

ダンスは普段使わない筋肉を使うので、全身が痛い。

このまま眠ってしまおうか……なんて思うけれど、さすがに湯浴みくらいはしておこう。


眠気に誘われる中、カーテンを開けてみる。

窓からは満点の星空が見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ