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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第4章 儚き天才の矜持
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舞踏会当日

「きゃーっ! 見て、ペートルス様かっこいいー!」

「ノエリア様よ! いつ見てもお美しい……」

「あのお二人、本当に並ぶと絵になってるわね……!」


舞踏会当日。

人だかりの中心には、綺麗に着飾ったペートルスとノエリアの姿があった。

兄妹は仲睦まじい姿を演じて、そつのない笑顔を振りまく。


ノーラもまた遠巻きにその光景を見ている。

あの二人があまり仲良くなさそうなのを知っているノーラとしては、いささか複雑な胸中だ。


ペートルスは妹以外と踊らない。

立場が立場だけに、おいそれと令嬢を誘うわけにもいかないのだ。

彼の年齢なら婚約者もいていいはずなのだが、どういうわけか婚約者はいないらしい。


ぼんやりとノーラが見ていると、ふと人だかりが割れた。

人々を押し退けてやってきたのは長い緑髪をまとめた少年。


「デニス殿下よ!」

「なんてかっこいいの!?」

「殿下、お綺麗ね……!」


グラン帝国第二皇子、デニス・イムルーク・グラン。

この学園の生徒会長でもある。

本来は生徒会長は三年生が務めるものだが、生徒や教員たちからの圧倒的な支持によって生徒会長の座に就いたらしい。


デニスはペートルスたちに歩み寄り、笑顔で何か話している。

遠くで見ているノーラには何を言っているのか聞こえないが、良好な関係性をアピールするための会話に違いない。

この舞踏会は行動のすべてが社交界での評価につながる。

とにかく愛想を振りまくのが高位貴族の仕事なのだ。


「みんな綺麗だな……」


ノーラはため息を吐いた。

周りを見れば麗人ばかり。

レオカディアに頼んで化粧を教えてもらい、青色のドレスも用意してもらったが……うまく着こなせている気がしない。

胸元にはヴェルナーからもらったベージュ色のハンカチ。


道行く人々がノーラを奇異の目で見ているのがわかる。

特に外部から来た賓客は、なぜ眼帯をつけているのかと訝しんでいる様子で。

そして学園の生徒たちも、誰が平民のノーラと踊るのか興味津々なようだった。


「クソ……肩身が狭い。まだ舞踏会が始まるまで時間あるし、ちょっと出るか」


日が沈みかけていた。

あと半刻ほどで舞踏が始まるが、ずっと待っているのもいじらしい。

少し会場周辺を巡ってみよう。


 ◇◇◇◇


「やあ、お嬢さん。今日はよろしくね」


「は、はいっ! マインラート様と踊れて嬉しいです……!」


「俺も嬉しいよ。ああ、君の瞳はなんて美しいんだろう。その美しさに酔いながら、今宵は躍るとしようかな」


(うわっ……)


会場を出て早々、嫌な場面に遭遇した。

十名以上の令嬢にハンカチを送りつけたという浮気者、マインラート。

彼は令嬢を壁に押しやって口説いていた。


帝国の宰相であるスクロープ侯爵の嫡男で、クラスNに所属するマインラートは大人気だ。

舞踏を申し込まれれば、並の令嬢なら承諾してしまうだろう。

ノーラは虫を見たような心持で後退り、そっとその場を離れた。



続いて目撃したのはエルメンヒルデ。

知己を見つけてノーラも声をかけようとしたが……寸前で踏みとどまる。


(男ッ……!)


エルメンヒルデは見たことない男性と仲睦まじく話していた。

黒い髪に紅の瞳を持つ長身の男性。

見たところかなりの美青年っぽい。


「あの人が……エルンの男?」


美青年を捕まえていて羨ましい……なんて感情、ノーラには湧いてこない。

他人と恋愛をするということ自体、考えられないからだ。

友人が幸せそうで何より。


しかし、なおさら黒いハンカチを渡してきた意味がわからなくなった。

アレはなんだったのだろう。

二人の邪魔をしないよう、ノーラはそっと場を離れる。



「おや、ピルット嬢ではありませんか」


「あ、フリッツ様。こんばんは」


そろそろ会場に戻ろうかといったころ。

暗がりからフリッツが顔を出した。

……が、その後ろにある知らない顔を見てノーラの表情は強張った。

初対面の人がいると必ずこうなってしまう。


「……フリッツ。こちらの方はお知り合い?」


「ええ。同級生のノーラ・ピルット嬢です」


麗しい赤のドレスを着た令嬢。

胸元には銀色のハンカチが見えていた。

彼女はノーラの前に出て、優雅にカーテシーする。


「お初にお目にかかります。フリッツの婚約者、ダナ・リンファフと申します。いつもフリッツがお世話になっていますわ」


「あ、はじめまして……ノーラ・ピルットと申します! あの、いえ、むしろフリッツ様からはわたしがいつもお世話になっていて……大変、助かっております!」


綺麗な人だ。

年齢は結構上だろうか。

二十代半ばくらいに見える。

ノーラの不慣れなあいさつに驚いたのか、ダナは少し目を瞬かせた。


「緊張していらっしゃるのね。この舞踏会に参加するのは初めて?」


「は、はい……舞踏会に参加したこともほとんどなくて。ダンスをフリッツ様に教わったんです。……あ、でも一緒に踊ったりはしていないのでご安心を!」


失言だ。

ノーラは慌てて言い繕った。

婚約者を前にしてダンスの練習をしてもらった……なんて、浮気を疑われてもおかしくない。


後ろのフリッツも若干表情が強張っていた。

しかし震えるノーラを前に、ダナはあっけらかんと言い放つ。


「あら、そうなの? 別に踊ってくれてもよかったのよ。でないと練習しにくかったでしょう?」


「え、えっと……いえ、さすがに婚約者がいらっしゃる殿方と踊るのは……」


「気にしないで。あくまで形だけの婚約みたいなものだし」


ダナの言葉にノーラは虚をつかれる。

形だけの婚約……とは?

疑問を覚えたが、すぐにフリッツが会話に入り込んでくる。


「二人とも。そろそろ舞踏が始まりそうですよ。遅刻しないよう、会場に早く向かいましょう」


「あ、そ、そうですね……! 行きましょう!」


歩きだしたフリッツとダナを追い、慌ててノーラは足を動かした。


そういえば……自分にハンカチを渡してくれたヴェルナーはどこに?

舞踏の時間までに見つからなかったらどうしよう。

そんな不安を抱えながら、会場へと戻った。

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