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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第3章 魔術講義
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じゃ、二人組作ってー

挿絵(By みてみん)


いつもと違う教室の空気。

週明け、クラスBの教室に入ったノーラは違和感を覚えた。

具体的に言うと自分が入った瞬間から空気が変わったように感じる。


初日に訪れたときよりも『きつい』。

心なしか自分に視線が集まっているような気がして、できるだけ周囲の生徒と視線を合わせずに席についた。

だってノーラには心当たりがあったから。


「来たわよ」

「あの平民、エリヒオ様に……」

「すげー度胸だよな」

「大人しい子かと思ってたけど……」


ノーラは至って平静を装って予習用の教科書を開いた。

しかし心の中はまったく冷静ではなく、教科書の一文字目すら頭に入ってこない始末。

やっぱりエリヒオに喧嘩なんて売らずに自制すべきだったのだ。

あの瞬間、自然と体が動いていたので自制できたかは怪しいけれど。


「ノーラ、おはよう」


「あっ、バレンシア……お、おはよう……」


しかし、普段通りに話しかけてくれる令嬢がひとり。

バレンシアも噂は耳にしているのだろうが、何も気にしていないようにあいさつをしてきた。


「聞いたわよ。テュディス公爵令息と喧嘩……? してたって」


「やっぱり……それなりに噂が広まってる感じ……?」


「それなり、というか……学園中に? 教師陣にまで噂が届いてるらしいわよ」


胸がキュッと締めつけられた。

吐きそう。


「聞けばものすごい言葉づかいだったとか。やっぱり元旅芸人ともなると、意外と胆力がある方なのかしら? 貴族だったら冗談でもテュディス公爵令息に逆らおうなんて考えないわ」


ノーラの正体も貴族なのだが。

貴族の階級とか身分には興味がないので、普通にむかついて罵ってしまった。

金持ちの家に生まれたからなんなんだよと。


「や、やっぱり……退学とか、なる感じっすかね……」


「へ? ニルフック学園では身分差がないっていう大義名分があるから、口喧嘩くらいじゃ退学にはならないわよ。今回は生徒たちだけじゃなくて、教師陣もノーラを褒めていたわ。あの憎たらしいテュディス公爵令息に言ってやった度胸をね」


「……うん? 褒められてる……?」


「身分を盾にして他人を蔑むあの方には、多くの人が困っていたの。あなたのおかげで多少は鬱憤が晴らせた人もいるんじゃないかしら」


意外と評価されているっぽい。

もちろん暴言を吐いたことは許されることではないが、ノーラが思っていたよりは問題になっていない気がする。


たしかにあのエリヒオとかいう男はウザい。

誰がどう見てもウザいので、他の生徒たちも鬱憤が溜まっていたに違いない。

報復が怖いものの、多少は胸を張れる成果が得られたのではないだろうか。

……そう考えて強引に納得するしかない。


「あなたに関する印象が少し変わったわ。いつも堂々としてればいいのにね」


「あ、あはは……堂々と振る舞うと、ちょっと品がなくなっちゃうから。わたしのことについては……いいんだよ。えっと、今日の授業はなんだっけ?」


「魔術の実践。中等科では魔術の行使は危険だから禁止されてたけど、ようやく解禁ね。クラスAと混合の授業だったかしら」


魔力操作は貴族の一般教養である。

しかしノーラは魔術の基礎すら理解しておらず、この授業でも後れを取ることは決まっている。

加えて他クラスとの混合授業。

すでに憂鬱になってきた……。


 ◇◇◇◇


「ん魔術ってのはね、危ないんだよ。人を殺すもんだからさ、未熟な人間が使っちゃいかんのよ。わかる? ん、てか魔術と魔法の違いって理解してんのお前ら?」


魔術の授業担当の教師は、ガイダンスで淡々と話していた。

いかにもクセがありそうな男性の先生だが、実力はたしからしい。

ノーラが所属するクラスBとは別……混合で授業を受けているクラスAの優等生っぽい生徒が、教師の問いに率先して答える。


「魔法とは魔力の操作を伴う事象の生成。一方、魔術は戦闘行為を目的した魔力行使を示し、魔法の中に分類されます」


「せいかーい。ま、そこら辺は中等科で習ってるよな。お前ら大体貴族だし、軽い魔法ならもう使える奴も多いだろ。んん、でも高等科からニルフックに入ってきた生徒もいるしな。基礎からじっくりやりますか」


心なしか教師がノーラに視線をやった気がする。

魔術の「ま」の字も知らない身としては、こうして配慮してくれるのはありがたい。

問題はノーラが魔力を操作できるかどうかだが……ルートラ公爵家の浴場の魔石を操作できたので、おそらく魔力操作は可能。

一応ノーラもイアリズ伯爵家の血が流れているわけだし、保有する魔力に関しても問題ないだろう。


「んでさ、話戻すよ? ん魔術って人を殺すもんなの。貴族は護身用で魔術を修めてるとか言うけどさ、民を遊び半分で傷つけるような輩もいるわけ。だからさ、んちょーっとでも危ないと思ったら、すぐに聴講の許可取り消すからね。わかったか?」


生徒たちは適当にうなずいた。

教師本人は魔術という概念に真剣に向き合っているが、生徒たちの認識はそこまで重いものではない。

ただ学園の教育課程に組み込まれているから、渋々授業を受けているだけだ。


護身手段なら魔術を習わずとも、騎士団をつけるなり魔道具を携行するなり手段がある。

わざわざ習得するのが面倒な魔術を習うのは、遥か昔の時代の貴族だ。


「んじゃま、まずは簡単な準備体操から始めよか?」


教師はざっと生徒たちを見回して。

恐ろしき呪言を発した。


「じゃ、二人組作ってー」

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