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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第2章 入学
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曲者揃い

「クラスNはニルフック学園高等化に設けられた、特別な学級よ。在籍条件は『特殊な力を有していること』で、目的はその身に宿す特殊な力を解明すること。クラスNに在籍する人には、色々な特権が認められるの」


生徒たちが奇異の目を向ける中、バレンシアは淡々と説明する。

権威ある侯爵令嬢の向かい側に座るノーラに対して、他の生徒は何者かを探るような視線をチラチラと向けていた。

そのせいで気が気でないノーラは、あまりクラスNに関する説明が頭に入ってこなかった。


若干冷めた紅茶に口をつけ、バレンシアは鋭い視線を向ける。


「……聞いてる?」


「は、はいっ。えっと……でも、わたしはバレンシアと同じクラスBの所属のはずなんですけど」


「クラスNは掛け持ちなのよ。週に五日ある講義のうち、三日間はクラスBで受講。残り二日間はクラスNで受講することになるわ。そこら辺は先生に説明義務があるはずなんだけど、周知の事実すぎて先生も説明を忘れていたのね」


「な、なるほど……」


普通のクラスで講義を受けない日があるぶん、成績で後れを取るかもしれない。

自習でカバーしろということだろうか。


教室に入ってすぐ、他の女生徒が文句をつけてきた理由がわかった。

特権階級のクラスNに所属したノーラへの嫉妬だ。


「で、ノーラ。あなたにはクラスNに所属するだけの『特殊な力』があるの? まさか他の生徒が噂しているように、不正で入ったわけではないと思うけれど」


「あ、はい……たぶん。あります」


「そう。それならよかったわ。詮索はしないけど、帝国の技術進歩に貢献できたらいいわね」


ノーラの右目に宿る力を知るのは、ペートルスのみ。

つまりペートルスがノーラをクラスNに入れたに違いない。

それなら一言伝えてくれれば良かったのに。


しかし、逆に思うのだ。

もしも特権学級なんかに配属すると言われれば、間違いなくノーラは入学を拒否していたと。

彼女の性質を知るペートルスだからこそ、この事実は伝えなかったのだろう。


「――あ、いた」


噂をすれば。

聞きなじみのある声が響いた。

彼が通る先、食堂に集まっていた生徒が一斉に道を開けていく。

金髪の貴公子はいつもと変わらぬ笑顔で立ち止まった。


「こんにちは、ノーラ。ご友人と歓談中のところすまないね」


「あ、ペートルス様。いえ……あの、ご友人といいますか、あの……」


バレンシアを友人と呼ぶには恐れ多い。

さっき知り合ったばかりだし。

友という存在ができたことのないノーラにとって、何を友人と称するのかわからないのだ。

そんなバレンシアの顔色を窺うと……。


「……ノーラ。あなた、この方とお知り合い?」


「レディ・バレンシア。少し彼女をお借りしたいんだけど、構わないかな?」


「は、はい。わたくしにはお構いなく」


生きた心地がしない様子でバレンシアはうなずいた。

ここニルフック学園において、ペートルスはデニス皇子に匹敵する権力者。

彼が歩くだけで周囲の生徒は目を惹かれ、女子生徒に至っては黄色い声を上げるほどだ。

ペートルスが入学前から平民のノーラと知り合いだったことが衝撃的だし、名前だけで呼ばれるほどの関係なことも信じられない。


「ノーラ、三階に行こう。そこで君を待っている人たちがいる」


「は、はい……? あの、でも、バレンシアとの食事が……」


「わ、わたくしのことはいいから! 早く行ってきなさい!」


「はいいっ!」


強引にバレンシアに背を押され、ノーラは歩きだす。

先をゆくペートルスが進むたびに人の波が割れて、その背後にいるノーラにも視線が降り注ぐ。

彼女は怯えて縮こまる一方、ペートルスは歓声を上げる女子生徒に笑顔を向けていた。


 ◇◇◇◇


三階の天井はガラス張りになっていて、青空がよく見える。

中央には大きな白亜のテーブルが置かれていて、厚みのある赤絨毯が敷かれていた。


円卓を囲むように座る三名の男子生徒。

青ネクタイの三年生が一名、赤ネクタイの二年生が二名。

そして三年生のペートルスが円卓の席に座り、ノーラに隣に座るように促した。


「どうぞ」


「し、失礼します……」


三人の男子生徒はノーラを興味深そうに見ている。

相変わらず人に視線を向けられることが苦手で、顔を背けてしまった。


「彼らは特権学級クラスNonpareil(ノンパレイユ)――通称クラスNの生徒たち。君が所属することになる……部活みたいな組織の生徒だ。結構な曲者揃いだけど、仲よくしてあげてくれ」


おずおずと顔を上げる。

とりあえず新入生の自分が挨拶しなくては。

こういうとき先輩を舐めたら虐められる……という偏った知識を小説で身につけていた。


「ノーラ・ピルットです。よ、よろしくお願いいたします」


彼らに届いたかもわからない小さな声で、ノーラはあいさつした。

赤髪の二年生は欠伸して、茶髪の三年生は目を閉じていて。

唯一まともに反応してくれたのは、長い銀髪を持つ二年生だった。

彼は席を立ち、さっと頭を下げる。


「お初にお目にかかります。セヌール伯爵令息、フリッツ・フォン・ウォキックと申します。以後お見知りおきを」


「ど、どう、も……」


「そう緊張される必要はありません。これから共に親睦を深めていく者同士、仲よくしていきましょう。ところで、ピルット嬢。あなたが宿す力について詳しくお教えいただきたく……」


こほん。

ペートルスが露骨な咳払いをすると、フリッツは口を閉ざした。

言葉を重ねるにつれて徐々にフリッツが迫って来ていてノーラは恐怖していたので、この介入はありがたかった。


「そこまでにしておこうか、フリッツ」


「は、はい。申し訳ありません」


「他の人も自己紹介してもらえる?」


ペートルスは奥に座る二人に声をかける。

しかし、いつまで経っても沈黙が続いて。

ペートルスが今一度口を開こうかと思った瞬間、赤髪の男がため息をつきながら身を起こした。


「マインラート・サナーナだ。よろしくー」


マインラートという二年生は片手を挙げてあいさつした。

そして、もう話すつもりはないと言わんばかりに椅子にだらしない姿勢で腰掛ける。

ノーラがあいさつを返したところで返答はなさそうだ。


ペートルスは困ったように肩を竦め、まだあいさつをしていない生徒に目を向けた。


「ヴェルナー」


「……三年、ヴェルナーだ。人前で堂々と立つことすらできん惰弱な人間に興味はない。失礼する」


ヴェルナーは呆れたように食堂を去る。

真横を通り過ぎていく瞬間、彼の剣呑な灰色の瞳が突き刺さった。

バタン――三階の扉が閉じて静寂が蔓延る。


「ね、曲者揃いだろう?」


「あの、クラスNの雰囲気……最悪(クソ)ですね」


「ははっ。そうとも言えるね」

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