終わり、始まる
卒業パーティーで歌唱を任されたエレオノーラ。
彼女はエンカルナとともに舞台に上がり、全身全霊で歌を贈った。
卒業生へのはなむけに。
どうかこの日が一生の思い出になりますように。
切なる願いをこめて歌いきった。
そして大仕事を終えて、彼女は外へ飛び出した。
まだ少し風が冷たい季節。
この薄手のドレスでは少し肌寒い。
「ふぃー……マジで疲れた。でも楽しかったなぁ……」
自分の歌で喜んでくれる人がいる。
その事実が何よりも嬉しいのだ。
今の自分ならば……帝国を救った歌声を、誇らしく披露できる。
「あ、いた」
パーティーを抜け出してきたことには理由がある。
一足先に外に出て行った彼を探すためだ。
「ペートルス」
「おや……エレオノーラ。もうパーティーはいいのかい?」
「話したい人とは全員話せたから。ペートルスは、もう学園に思い残すことはない?」
しばし瞑目して考え込むペートルス。
自分は学園でやり残したことはないだろうか。
最後に会っておきたい人、言っておきたいこと。
「……いや。卒業式に相応しい日にできたと思うよ。思い残すことはないかな」
皆は快くペートルスを受け入れてくれた。
あれだけの大騒動を起こして、多くの人に迷惑をかけたにもかかわらず。
今、自分はたくさんの人と縁をつないでいる。
その自覚が持てただけでも、ペートルスにとっては充分だった。
「そっか。じゃ、これで晴れてニルフック学園卒業だね」
「ああ。君も二年生になるね。きっとクラスNにも後輩が入ってくるだろうから、先輩らしく優しくしてあげてほしい」
「せ、先輩らしく……ね。わたしにそんな立派な振る舞いはできねえなぁ……」
「ははっ。礼儀正しく在る必要はない。君の自然な優しさ、かっこよさを見せてあげればいいのさ」
自分らしく、ありのままに。
ペートルスが憧れた生き方を体現するエレオノーラ。
はたして自分は今の生き方を維持できるだろうか……と彼女は少し考えた。
しかし生き方が変わったとしても、自分に正直に生きる本質は変わらないのだろう。
「あ、そうそう。まだ言ってないことがあったんだ」
一番大事な言葉。
ペートルスにまだ伝えていなかった。
「――卒業おめでとうございます、ペートルス様」
「うん……ありがとう、ノーラ」
これで『ノーラ』と『ペートルス様』の物語は終わり。
これからはまた新しい日常が紡がれる。
もっと深く、刺激的な日々へ。
過去を忘れるのではない。
過去の己に、今の己を重ねた上で『エレオノーラ』と『ペートルス』の物語を始めよう。
「僕も君にお願いしようと思っていたことがあったんだ。聞いてくれるかい?」
「もちろん」
ペートルスは懐から取り出した黄金の布を、そっとエレオノーラに手渡す。
「Shall We Dance?」
「Mypleasure!」
手を取って足を運ぶ。
踊りはそんなに得意じゃないけれど、それでも。
きっと人生最高の舞踏になる。
ペートルスにエスコートされて自然と足が動く。
輝く星空の下、情熱のワルツが刻まれる。