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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第12章 呪われ公の絶息
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三つの条件

教皇領、アニアラ大神殿。

シュログリ教の総本山にノーラは再び降り立った。


立派な家紋が入った馬車を降りる。

くるりと振り返り、ノーラはここまで送ってくれたガスパルに礼をする。


「ありがとうございました。いきなりの申し出なのに、ここまで送っていただいて」


「ふふっ……殿下の頼みだし、何よりお世話になっているノーラ嬢の頼みだからね。存分に聖下とコンストラクティヴな話をしてきたまえ」


「よろしければガスパル様もご一緒に……」


「いいや、僕は聖下に謁見する権限を持たない。君のように望めば聖下のお目にかかれる……なんて人間は滅多にいないんだよ。僕は座してグッドニュースを待とう」


最初に話を聞いたとき、ガスパルは面食らった。

自分ならば教皇エウスタシオ7世と面会できる……とノーラは豪語していたのだから。

しかし彼女は嘘を吐くような人間ではないし、瞳に一切の曇りがなかった。

そしてデニスの口添えもあり。


「……君を信じるよ、ノーラ嬢。ペートルス・ウィガナックを救うという無理難題、ルートラ公爵を退けるという大胆不敵。それでも君ならクリアできる気がするんだ」


「はい、必ず。わたしは最後まで戦います」


「おいそれと動くわけにもいかないが、もしも君が聖下の協力を得ることができたのなら……ウォラム公爵家も手を貸すと約束しよう。さあ、行きたまえ」


ガスパルに促され、ノーラは歩きだす。

たなびく叢雲が集う神殿を見上げて。

己を待つ天命のもとへ。


 ◇◇◇◇


形代に導かれ、儀典室を訪れる。

誰とも顔を合わせることがなく、ノーラが来ることなど初めからわかっていたように。

彼女はすんなりとここまで導かれた。


「ようこそおいでくだしました。エレオノーラ・アイラリティル様」


部屋に入ると、巫女装束を着たエルメンヒルデが出迎えた。

堅苦しい友の態度にノーラは苦笑いせざるを得ない。


「なにそれ。きも」


「……ひどいねぇ。聖下がお待ちです、こちらへ」


奥へ向かうと教皇エウスタシオ7世が深く腰かけて座っていた。

既視感。

こうしてエルメンヒルデに導かれ、教皇と初対面を果たしたのは一か月ほど前のこと。

そこまで日が経っていない。


「どうも、エレオノーラ」


「お世話になっております。裁判の一件ではありがとうございました」


「いえいえ。エウフェミアを謀殺した相手に、少しでも灸を据えたかった……そんな私のわがままですから。こちらこそ、真実を暴く機会をいただいて感謝していますよ」


まずはトマサを糾弾した裁判での礼を。

いきなり教皇が乱入してきたときは驚いたが……あの場で彼の力添えがなければ、ノーラの右目が邪眼であることは証明されなかっただろう。


さて、と。

改めて向かい合って両者は本題に入る。


「用件を聞きましょう。エレオノーラ」


「はい。宗教派に力を貸していただきたい。そのために、わたしは交渉へ参りました」


「……最終目的は?」


「ペートルス様の救出です」


片目を瞑って考え込む教皇。

ノーラの返事は彼にとっては予想通りだった。

むしろ……これから教皇が課す条件をノーラが吞んでくれるかどうかが問題だ。


「いいでしょう。ただし、条件が三つあります」


「なんでもします。口先だけじゃない、本当になんでもします」


死ねと言われたら死ぬ。

たとえ自分の命と引き換えにしたって、ペートルスを助けたい。

だからノーラは迷わずに首肯した。


強い決意を前にして教皇はにこりと笑う。


「ひとつ。公爵派を敵に回すということは、宗教派にもそれなりのリスクが伴います。下手したら大戦争に発展しかねない。私たちにも相応の利益が必要です」


「……はい」


「あなたがニルフック学園を卒業後、巫女として働くことを前向きに検討すること。これが第一の条件です」


「えっと……巫女になれ、という命令ではないんですか?」


思いのほか緩い条件にノーラは鼻白んだ。

ただ口先だけの約束に留まっては、宗教派の利益になるとの確約にはならない。

エウフェミアの幻属性を継いだノーラを、宗教派が喉から手が出るほど欲しがっているのは承知している。

ここは強気に『巫女になれ』と言うべきではないだろうか。


「無理強いはしません。人の幸福を願うもまた、シュログリ教の教義ですからね。さて……ふたつめの条件です。ペートルス・ウィガナックを助け出した上で、帝国に蔓延る『邪』を掃討すること」


「邪……ですか」


「ルートラ公爵は邪法を研究し、多くの禁忌に踏み入っています。あなたの義母、トマサもまたルートラ公爵が抱えていた邪法の研究者でした。その芽を潰しなさい。この言葉の意味の解釈は、これからのあなたに委ねます」


単刀直入に解釈すれば、ルートラ公爵を殺せとも取れるが。

あるいは公爵としての権能を剥奪しろとか、法の下に裁けとか。

そういう解釈もできる。

とにかく、これ以上グラン帝国に邪法を広めるなという意味だろう。


難しい要求だ。

だが、難しいからと言って首を横に振るような真似はしない。

この際どういう無理難題であろうとも、ノーラは挑む所存。


「承知しました。その過程でまた聖下を頼ることがあるかもしれませんが」


「一向に構いませんよ。邪悪なるものを排除できるのならばね。さて……最後に、三つ目の要求です」


教皇は短く嘆息して、険しい顔つきで言い放った。



「――真なる神と会い、御言葉を授かりなさい」

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