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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第12章 呪われ公の絶息
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舞い降りる毒翼

ノーラが教皇領へ発った後。

デニスたちは白熱した話し合いをしていた。


「私たちの目的はペートルスの救出。しかしルートラ公をどうにか封じ込めなければ、一時の凌ぎにしかなりません。そこで……私がルートラ公を倒します」


強気なデニスの発言に、フリッツが顔を青くした。


「倒すというのは……まさかペートルス卿と同様に戦争を?」


「いいえ。『裁く』のですよ。先日のイアリズ伯爵家にまつわる裁判にて、ルートラ公の犯罪が明らかになりました。これを理由として、私が彼を糾弾します」


皇子たるデニスならば、ルートラ公爵とも対等に渡り合う資格がある。

しかし……とノエリアは異を唱えた。


「あの老獪は兄にすべての責を押しつけるつもりです。邪法の行使も、刺客の手引きも……兄が反論できないのをいいことに、兄が主犯だと主張するはず。そして、ラインホルト第一皇子も『そういうこと』にしたいのよね?」


「はい。兄ラインホルトは大局を見て、最も穏便な方法で事を収める気でいます。それすなわち、ペートルスを犠牲にすること。私は真実の奥にある平穏を求め、兄は偽りの表層に包まれた平穏を求める。今回はその両者の争いになるでしょう」


真実を知る者からすれば、義があるのはデニス側だ。

だが大多数の諸侯や民にとってはその限りではない。

国というものは――良くも悪くも、表層が平和であれば成り立つのだから。


やはりデニスたちの戦いは厳しいものになるだろう。

明らかな向かい風、壁は高い。


「今は一人でも多くの協力者を増やしましょう。そうですね……セリノ、心当たりはある?」


「ふむ……まずは生徒会の面々でしょうか。殿下の鶴の一声とあらば、生徒会一同どこにでも駆けつけます」


「それはセリノだけだと思うけど……うん。エンカルナさんとガスパルにも助けを求めてみましょう。あとは……」


「――あとは、俺がいる。この俺がね」


陰から伸びた黒い靄。

それは徐々に人の形を形成し、一人の青年となる。

ゆらりと現れた青年に一同は首を傾げた。


「あなたは……?」


「そういや、ここにいる人たちとは面識がなかったな。俺は人呼んで『サンロックの賢者の弟子』……コルラード・アスオッディム! ……とは仮の姿で。ペートルス様の斥候、『凶鳥』コルラードだ。よろしくな!」


場の雰囲気に相応しくない明るい声色。

コルラードと名乗った青年は、気さくに片手を挙げた。


「そういえば……一年生にサンロックの賢者のお弟子さんがいましたね。たしかノーラさんと知り合いだったような……」


「おう、そりゃもう大親友! ただ、ノーラはここにはいないみたいだな。少し来るのが遅かったか」


突然現れたコルラードに、面々は警戒した視線を向けている。

警戒の理由は彼が放った言葉――『ペートルスの斥候』という身分の開示。

さらっと言ってのけたが、衝撃の告白である。

フリッツはコルラードの明るい雰囲気に流されず、単刀直入に尋ねた。


「ペートルス卿の斥候。あなたはそう名乗りましたが……どういうことです?」


「まあ……それには深いワケがあってだな。賢者の弟子と、公爵令息の斥候、二足の草鞋でやってたのさ。今までは内緒にしてたんだけど、こうなったらもう隠してる場合じゃない。俺もあんたらのペートルス様救出作戦に協力するぜ!」


どん、と。

胸を叩いてコルラードは宣言した。

……とはいえ、一同は彼の凄さをよく知らないし、得体の知れない人には違いないので。


「怪しいわ……」

「ルートラ公爵令嬢に同意します。いくらピルット嬢の友人とはいえ、いささか信じるには厳しいかと」

「すみません、コルラードさん。もう少しお話を聞かせていただけますか?」

「いけません殿下。このような不埒な輩は一刻も早く排除すべきです」


「うおぉ……俺ってマジで信用ない感じ? まあ仕方ないか」


意気消沈するも、コルラードは諦めない。

彼の言葉に嘘偽りはなく、心の底からペートルスを助けたいと考えている。


「でも頼む! 俺を信じてくれ!」


コルラードはシュログリ教式の合掌をして懇願した。

そんな彼に困ったような笑みを向け、デニスは屈みこむ。


「コルラードさん。あなたがペートルスに仕えていたというのなら……どうしても知りたいことがあるのです」


「おう、もちろんですよ! 反乱軍の現状、ルートラ公爵家の弱味、それから……」


「――ペートルスが反乱を起こした理由を」


迷いなく、真剣な問い。

デニスの熱の籠もった問いかけに、コルラードは驚いたように閉口した。

真っ先に出る質問がこれだとは思っていなかったのだ。


「……ああ、わかったよ。でも俺だって、あの方が反乱を起こした理由を完全に把握しているわけじゃない。四年前のあの日……俺が出会ったときにはもう、ペートルス様はルートラ公爵を殺すつもりだったからな」


椅子に腰かけたコルラードは昔を想起するように天井を見上げる。

わずかに懐かしさの滲んだ彼の声は、すぐさま現実の過酷へと引き戻されて。

少しだけ低く響いた。


「俺で良ければ話すよ。得体の知れない、あの貴公子の本質をな」

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