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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第12章 呪われ公の絶息
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凶報

「落ち着かれましたか、ピルット嬢」


「はい……ご迷惑をおかけしました」


雨に打たれながらも、セヌール伯爵家にたどり着いたノーラ。

汚れを流し、紅茶を飲んで平静を取り戻す。


ノーラが落ち着くまで、フリッツは黙って座っていた。

突如として起こったペートルスの反乱。

まったく兆候がなかったために、フリッツもまた同じく混乱していた。


「フリッツ様。いったいどうなったんですか……ペートルス様は」


「ペートルス卿が反乱を起こしてから、一週間の時が経ちました。進軍速度は驚異的な速度で、難なく公爵軍を突破しています。ペートルス卿が公爵家に至り、ルートラ公を討つ時も遠くはないでしょう。……その後に他の派閥がどう動くかはわかりません。皇帝派がペートルス卿を脅威と見なして潰しにかかる可能性もあります」


冷静に放たれた事実。

フリッツはノーラを慮って虚偽を述べるような真似はしない。

彼女を想うからこそ、客観的な状況分析を述べた。


「でも……どうしてなんですか? どうしてペートルス様が反乱なんか……」


そこまで言いかけてノーラは口を閉ざした。

なんとなく……だが。

ペートルスが反乱を起こした理由がわかる気がする。


「私にも理解が及びません。ペートルス卿はルートラ公爵家の嫡男。爵位は順当に継げるはずですし、ここまで入念に戦の準備を整えてまでして、戦端を開く意味がわからないのです。ひとつ可能性が考えられるとすれば……」


フリッツは窓の外に広がる暗雲を見つめ、瞳を細めた。


「真実を知るがゆえに、でしょうか」


「真実……?」


「これはまだ噂に過ぎませんが……ルートラ公がとてつもない悪事を働いていたそうです。つい最近、法廷にてその事実が明るみになったとか。実の孫であるペートルス卿だからこそ、ルートラ公を看過できないような……後ろ暗い真実を知っていたのかもしれません」


フリッツの兄オレガリオは貴族たちに殺されていた。

その主導者は他でもない、ルートラ公爵ヴァルターである。

今回の反乱にはフリッツも思うところがあった。

ペートルスは無為な戦を起こすような人間ではない……と。


ノーラは別の理由を考えていた。

だが、それもまたペートルスが反乱を起こした理由のひとつなのかもしれない。


「今はとにかく耐え忍ぶとき。この動乱の規模はあまりにも大きく、私たちにできることは限られています。ピルット嬢も思うところはあるでしょうが……無茶をせずお過ごしください」


フリッツの言うことはもっともだと思う。

だが、ノーラはもどかしさを感じていた。


じきに反乱の終着点はわかるはずだ。

ペートルスが勝利を収めるか、あるいはヴァルターが反乱を鎮めるか。

すでに反乱軍はヴァルターの喉元にまで迫っている。


「……フリッツ様。ニルフック学園はどうなるのでしょうか」


「休校中です。少なくとも、この騒動が収まるまでは再開しないでしょう。ニルフック学園は帝国の有力貴族の集う場。政情が不安定になれば、学問どころの話ではありません」


「…………」


ノーラの胸の内には喪失感が漂っていた。

ニルフック学園は、自分が屋敷を飛び出して触れた新たなる世界。

まるで大切な居場所を奪われたかのような気分だった。


突如として崩れ落ちた日常。

悪夢のようだが、紛れもない現実だ。


フリッツの言う通り、今は待つしかない。

本音を言えば……争いなんて起こってほしくなかった。

だが、こうなってしまったからにはペートルスに勝ってほしい。



ノーラがそう思った、そのときだった。


「フリッツ様。ご主人様より伝言です」


セヌール伯爵家の使用人が慌てた様子で駆けてきた。

彼がフリッツに耳打ちすると、たちまちのうちにその表情が青ざめていく。


固唾を呑んで次の反応を待つノーラ。

しばらく後、フリッツは震える声で二の句を継いだ。


「ペートルス卿が……敗れました」


「へ……?」


頭の中が真っ白になる。

フリッツの言葉の意味が解せず、ノーラは何度も何度も頭の中で言葉を反芻する。


どうしても理解できない。

ペートルスが負ける、などという概念がノーラの中には存在しない。

きっとフリッツも同じだったのだろう。



混乱で頭の中が満たされ、何も考えられない。

そんな彼女の意識をひとつの音が引き戻した。

一羽の白い紙鳩が、そばの窓をコツコツと叩いている。

フリッツは慌てて立ち上がり、窓を開け放った。


「これは……ピルット嬢宛の手紙?」

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