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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第11章 裁判
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ガベルの音は高らかに

ノーラたちが裁判を始めたころ。

ルートラ公爵家の離宮では、公爵とペートルスが向かい合っていた。


ペートルスは一冊の本を丁重に差し出す。


「お爺様。ついに禁書が手に入りました。学園長が厳重に保管していた、不老不死にまつわるものです」


「おお……! よくやったぞ、ペートルス」


ルートラ公爵にしては珍しく声色に喜悦が滲む。

不老不死の禁書……これこそ、長らく公爵が求め続けてきた代物だ。


どれだけの辣腕を誇れど、どれだけの富を築けど、寿命には逆らえない。

公爵は徐々に衰弱していく自身の体に常に怯えていた。

やがて離宮に閉じこもるようになり、孫のペートルスに禁書の捜索を命じて何年が経っただろうか。

ついに悲願を果たしたのだ。


「解読によれば、不老不死の禁術を為すには半年ほどの準備期間を要するようです。もちろん僕もお手伝いしますよ」


「半年か。構わん、全力で用意を進めよ。儂の協力が必要であればいつでも仰ぐがよい」


「承知いたしました。さっそく準備に取りかかりますので、しばし領地を離れます。可及的速やかに進めますので、もうしばしのご辛抱を」


恭しくペートルスは一礼し、公爵の部屋を後にした。

最後までそつのない笑顔のまま。


離宮を離れ、暗い通路に出る。

ペートルスの後を追うイニゴは珍しく沈黙したままだった。

いつもは喧しい従者が静かにしているのを見て、ペートルスは切り出す。


「これで奴の意識は禁術の準備に向けることができる。ここで一気に戦の準備を進めるとしよう。……緊張しているのかな、イニゴ」


「ま、まあ……そりゃそうですな。ですが、ここまできたからには後に退けねぇ。最後までお供しますぜ」


「……」


すぐに言葉を返すことはできなかった。

ペートルスは少し間を置いてから再び口を開く。


「君を信じているよ。君の麾下の山賊団もみな、僕と出会ってからずっとついてきてくれた。だから……僕は勝つ」


指を鳴らすと、一匹の影の鳥が舞い降りる。

影は毒々しい気を放ち人の姿へと。

『凶鳥』――コルラードは不敵に笑ってペートルスに跪いた。


「ペートルス様、ミクラーシュからの報告です。おおむね挙兵の準備は整ったと」


「そうか。ここまでは万事つつがなく。これからも望み通りに……」


紅の瞳が揺れる。

ペートルスはそっと耳元を抑えて瞳を閉じた。


「――正しき道を往こうじゃないか」


 ◇◇◇◇


法廷に入城したアスドルバルは身震いした。

彼の視線の先には、険しい表情をした美丈夫。

グラン帝国第一皇子――ラインホルト・イムルーク・グラン。


ラインホルトは自分を戦々恐々として見上げるアスドルバルに歩み寄る。


「イアリズ伯、久しいな。夫人との裁判……また難儀なことになったものだ」


「で、殿下! 殿下も当家の裁判をご観覧に?」


「ああ、気にするな。個人的な興味があって見にきただけだ。……よほどの事態がない限り、裁判には干渉しない」


ラインホルトは鋭い視線をアスドルバルの後ろへ向けた。

反射的にノーラは父の影に身を隠す。


この皇子に姿を見られるのはマズい。

ラインホルトは文化祭の折、壇上のノーラを見ているのだ。

ノーラ・ピルットの正体がエレオノーラだとバレてしまうではないか……と思ったが、どちらにせよ裁判では姿を見せなければならないだろう。

そう思い直し、ノーラは前に進み出た。


「貴女が『呪われ姫』か。どこかの演劇で貴女の姿を見たことがあるが……ここは初対面ということにしておこう」


「は、はい……お心遣い痛み入ります」


元々ノーラが偽名を名乗っていたのは、暗殺から逃れるため。

自分を暗殺しようとしていたトマサが裁かれれば、名を偽る必要もなくなる。

どちらにせよこの裁判ですべて解決することなのだ。


「さて……そろそろ始まるようだな。失礼する」


ラインホルトが踵を返すと同時、法廷の複数の扉が開く。

まず真正面……ノーラたちの反対側の扉から。

トマサが顔を紅潮させ、鬼のような形相でやってきた。


周囲には彼女を弁護するための法務官も見える。

そして、彼女の実家であるノイス伯爵家の面々も。

トマサは衛兵に取り抑えられながら、アスドルバルに罵声を飛ばした。


「あなたっ! これはどういうつもりなの!?」


法廷全体に響き渡る怒号。

アスドルバルは眉間にしわを寄せて、重苦しく答えた。


「……それは裁判でわかることだ。トマサよ……エレオノーラもヘルミーネも、お前から守らねばならん。私へ怒りをぶつけるよりも、まずは己の行いを思い起こしてみてはどうだ?」


「っ……!」


図星か、トマサは沈黙を見せる。

娘たちに対して後ろめたい行いをしてきた自覚があるのだろうか。


法廷の最上段の扉から姿を見せたのは、先程顔を合わせたファブリシオ裁判長。

ならびに数名の裁判官、書記官など。

彼らが座ると、ガベルの音が高らかに響く。


「――これより帝国最高裁判を開始します。被告人、前へ」


ファブリシオの一声とともに裁判が始まった。

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