表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

地球代表

作者: 久世

突然、地球の軌道衛生上に巨大な宇宙船が出現し、地球上の世界各国や地域に向けて、このようにアナウンスをした。


《私たちは、この星から遥かに遠いファブレ星から訪れました。今この星の各地に向けて、それぞれの地域のみなさんの言葉として聞こえるよう、複数の翻訳プログラムを経由して発言をしています。聞こえていますでしょうか。私たちは、友好的な目的で、この星にやってきました。豊かな自然に豊富な資源、大量の水源、比較的高度な文明や長い歴史があることを知っています。ぜひ、私たちファブレ星との惑星間貿易をする協定を結びたいと考えています》


地球上の人々は沸きに沸き返った。


「なんだって、宇宙人が、私たちに話しかけているぞ」

「よくある異星からの襲撃とかじゃなく、貿易を希望しているそうだ」

「そんな高度な文明を持っている星から、声をかけてもらえるなんて、すごいことじゃないか」

「その高度な文明とやらが地球にも入ってくるのか?」


人々は口々にそのように喜びの声を発し、テレビやインターネットは、一瞬にしてその話題で持ちきりとなった。


《どうやら好意的に受け止めてもらえているようで、私たちも大変うれしく思います。つきましては、この話を正式に進めたいと考えています。この星の代表者の方と話をさせてください。指定された場所へ、我々の宇宙船を着陸させますので、そこで会談、条件の確認、調印といった形を取らせていただければと思います》


地球では、急ぎ先進主要国が集まり会議が開かれた。


「我々主要国のうちどこかが対応すべきだ」

「主要国各国の首脳を合同で出すべきでは?」

「だとしても、どの国でやるべきか。合同で実施したとしても、選ばれた場所が実質的に代表になってしまうじゃないか」

「合同での対応には反対だ。各国の思惑で、話自体がまとまらなくなったらどうするのだ。地球の歴史上もっとも大切な交渉事なんだぞ」


そのうちに、のけものにされている、その他の国々や地域も声を挙げ始めた。


「こんな大事なことを、いくつかの主要国だけで決めるのか」

「小国であったとしても、我が国も地球の一員である」

「国連がその責務を負うべきではないか」

「国連の代表が地球の代表というわけにはいかないだろう」

「いいや国連の議会で決めるべきでは」

「それだと結局拒否権を持っている国の言いなりじゃないか」


地球の代表者となるべき国、またその会談の場所を決めるという議論は、激しさと混迷を引き起こし始め、またいっこうに結着する気配はなかった。


「実質的に、我が国が、現在の地球上で最も多くの国に対して影響力を持っているのは明らかだろう」

「いや、GDPならうちが世界一じゃないか」

「何を言う、人口でいうなら我が国だ」

「我々の地域連合の影響力を忘れてはならない。数十カ国がすでにグループになっている地域連合の力は、巨大な一国のそれをすでに凌駕している」

「国連に一番お金を出しているのは我が国だ」


そんな主義主張を繰り返しているうちに、世界中の隣国同士での揉めごとも起き始め、徐々に各地で武力的な小競り合いが始まってしまった。


ある国は、このような機会を逃してはならないと考え、早いものがちだとばかりに、勝手に地球代表を名乗るメッセージを宇宙船に向けて発信した。


「我が国は、近代の歴史を見ても常に地球の中心にあります。我が国の大統領が地球の代表です。我が国の首都へお越しください」


その途端、抜け駆けはさせじと、いくつかの国が同じようなメッセージを発信し、また、抜け駆けをしようとした国には、他の国から容赦のない武力攻撃がなされ、あっという間に、それらの国は焦土化してしまった。


それに乗じて、少し静かになっていた地域紛争は一気に拡大し、また世界の覇権を虎視眈々と狙っていた国は、領土を広げるべく周辺地域へ軍事侵略を始めた。


各国、各地域の首脳たちは、いきなり始まった世界大戦とでも言うべき状況に困惑しながらも、国を守るべく、無数のグループに分散する形で、地球規模での戦争に巻き込まれていった。


世界中でミサイルが飛び交い、どの国も、敵がどの国で、どのグループとどのグループが対立し、どこと手を組んでいるのかすら分からない、まさに混沌とした状況が瞬時にして生み出されたのだ。


一方その頃、宇宙船のファブレ星人たちは、何が起きているのかと困惑しきりだった。


「何やら、あちらこちらで花火のようなものが盛大に上がっているようだ。いくつか代表を名乗る歓迎のメッセージが飛んできたが、その後、なぜか音沙汰が無い。歓迎ムードが盛り上がりすぎて、こちらのことを忘れてしまっているのかもしれないな。もう一度問いかけてみよう」


《私たちが、こちらにやってきてから、どうやらお祭り騒ぎになっているようですが、私たちにも時間はあまりない。早めに代表者と会談を持ちたいので、至急連絡をください》


地球側からは、一斉に、こんな返事が届いた。


「お前らがやってきたせいで、地球はぐちゃぐちゃだ。早いところ帰ってくれ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ